全ての元凶をお待ちします。
いざ、決戦のバトルフィールドへ――
十分な休息、万全な道具のお手入れ、皆様との情報交換と連携。
――全ての準備がここに整った。
ファブリ様はココラルお嬢様と協力して、シケアル殿下に目論見通りのラブレターを出してくださった。
ココラルお嬢様ご自身も学園内で<令嬢有頂天>を巧みに使い、私とマリアックが『表向きには死んだ』ことになるよう、情報を操作してくださった。
学園内の関係者には混乱が行かないレベルで真実を伝え、シケアル殿下には真実が伝わらないよう、うまく周囲の方々にお伝えできたらしい。
ジーキライ陛下も各方面に協力を要請し、シケアル殿下がやって来られる誓いの大樹周辺の包囲に入っておられる。
クッコルセ団長率いる、王国防衛騎士団。
旦那様であるアトカル公爵とスミスピア様、それとスミスピア様の奥さんが率いる、王国精鋭集団。
聖ノミトール学園学園長率いる、聖ノミトール教師陣。
さらにはタワキスさん率いる、アサシン組織『ホトトギス』。
このウォッシュール王国のありとあらゆる猛者が、陛下のお声の元に集められた。
包囲はこれ以上にないほど万全だ。もうシケアル殿下に逃げ道はない。
そして誓いの大樹で待っているのは、シケアル殿下が望むファブリ様ではなく――
「とうとうこの時が来ましたか。それしても、シケアル殿下お一人相手に、とんでもない包囲網ですね」
「それぐらいじゃねえと、あのクソ兄貴は止められねえよ。……それに、一番重要な役目は俺達二人だ」
――私とマリアックだ。
私はいつもの洗濯したてのメイド服を身に着け、極・清掃三種の神器もすでに準備している。
両手にはめられた浄化手袋。
ポケットに入れられた地気霧吹。
そして右手に持ち、体に添えられた箒天戟。
スミスピア様に作っていただいたこの子達に清掃魂を伝わらせ、いつシケアル殿下が来られてもいいように覚悟もできている。
「お前ってさ、いつもメイド服だけど、動きづらくねえのか?」
「好きなんです、メイド服。気持ちも昂ります。マリアックの方はそちらのレインコートを着られているのですね」
「こっちの方が動きやすいからな」
対するマリアックはいつもの修道服ではなく、"フェイキッドの亡霊"として活動していた時の黒いレインコートを身に着けている。
ただ『笑い狐の面』はつけておらず、フードも被っていない。
いつもの修道服の被り物で隠れていた頭もさらけ出し、あまり見ることのなかったマリアックの長くて綺麗な銀髪が風になびいている。
――正直、美しいと思った。
マリアックは男性なのに、女性である私よりも女性的な美しさがある。
――何故だか少し、心の中で騒めくものがった。
「クーリア。まずは俺が前に出る。お前から預かったこの二丁拳銃で、あのクソ兄貴の出鼻を挫いてやるよ」
マリアックは左手に持った"ファルコン"と右手に持った"ホーク"を眺めながら、最後の確認をされてきた。
私としても、まずはシケアル殿下の能力の詳細を確認したい。
そのためにもシケアル殿下をよく知るマリアックにまずは相手してもらい、その中で出方を伺うのが一番だ。
――このお掃除は命を賭けることになる。失敗など許されない。
<清掃用務員>としての技術と知識を最大限に発揮し、最善の一手を打つ。
それこそがこのクーリア・ジェニスターに与えられた、最大の使命だ。
ただ、それでもやはり怖い――
「マリアック……。私は本当に、シケアル殿下をお掃除できるのでしょうか?」
――そんな不安を私はふと口にしてしまう。
この大一番の直前だというのに、私がこんなことを言っていてはマリアックをも不安にさせてしまう。
「……大丈夫だ。俺はお前にならできるって信じてる。だから、気負わずシケアルの兄貴を掃除しちまえ」
そんな私の不安を慰めるように、マリアックは優しく声をかけてくれた。
一度持っていた二丁拳銃をしまって両手を空けると、私の両手を握りながらジッと目を見つめてくる。
「お前はこれまで俺にもどうしようもできなかった"汚れ"を――兄貴の<暗黒魔法>を、ことごとく掃除してきたんだ。自信を持て。俺も傍で一緒に戦ってやるんだからよ」
誓いの大樹の下で私はマリアックに手を握られながら、希望を感じる眼差しを見続ける。
――なぜだろうか。不思議と勇気が湧いてくる。
これはきっと、マリアックという友人がいてくれる暖かさなのだろう。
――そうだ。私がここで弱気になっても、何一ついいことはない。
私が怖気づいていては、清掃魂も昂らない。
今の私に必要なのは、余計なことを考えずに一つの目的にだけ集中すること――
――『シケアル・スクリーム殿下の清掃業務完了』。
これこそがこの私、誇り高き<清掃用務員>、クーリア・ジェニスターに与えられた使命だ。
「……そろそろ時間だな」
私の手を握ってくれていたマリアックだったが、手を離して懐中時計を確認する。
――どうやら、もうすぐのようだ。
「な……なぜだ!? ファブリが僕を呼んだんじゃないのか!? なぜお前らがいる!? そもそも、死んだはずだろう!?」
そしてついにそのお方は、一人で私達がいる誓いの大樹の下へとやって来られた。
ウォッシュール王国第一皇太子にして、マリアックことフェイキッド・スクリーム様の双子の兄。
これまでの"汚れ"騒動の元凶にして、<暗黒魔法>の使い手――
――シケアル・スクリーム殿下。
「よお、クソ兄貴。まんまと引っかかってくれて嬉しいぜ」
「シケアル殿下。あなたの目論見も、これまで行ってきた行為の数々も、全てこのマリアックから――いえ、あなたの弟であるフェイキッド様からお聞きしました。このことはジーキライ陛下もご存じであり、あなたは完全に包囲されています」
「ば、馬鹿な!? なぜ僕の計画に狂いが生じる!? そもそも、お前らは死んでないとおかしい!!」
マリアックと私はやって来られたシケアル殿下に対し、今この場における現状をお伝えした。
それは聞いたシケアル殿下はひどく狼狽え、この現状を受け入れることを拒まれている。
「一番おかしいのはお前だ……クーリア・ジェニスター! お前はもうとっくに死んでないとおかしい人間だ! それなのに……なぜまだ生きてるんだ!? なぜ僕の邪魔ができるんだ!?」
なおもシケアル殿下はお一人で喚き散らし、この現状を認めようとはしない。
ご自身の計画の絶対性を主張し、私の存在をとにかく嫌悪しておられる。
――ただそんなご様子の中で、やはり気になることが見えてくる。
私は一度マリアックと目を合わせ、軽く合図を送り合う。
マリアックの目線からも、私は言葉を介さずにその意味を理解できた。
今この時こそ、私の口から確認するべきだ。
おそらく、シケアル殿下は誰よりもこの世界を知り尽くしておられる。
それは概念的なものだけでなく、運命とも言えるものに至るまで。
『私以外の存在』はもしかすると、このお方の手の平にあるのだろう。
私はそれを確認するため、こちらを睨むシケアル殿下に問いかけた――
「シケアル殿下。あなたはもしや、『私と同じように』こことは違う別の世界の記憶を、お持ちではないのでしょうか?」
さあ、全ての真実を始めよう。




