明日は決戦です。
「マリアック。私がベッドで寝させていただけるのは良いのですが、なぜそんなに距離が離れているのですか?」
「う、うるさい! いいから、さっさと寝ろ!」
私はベッドで布団に入り、マリアックは床で毛布にくるまって寝ようとしていた。
結局こういう形になってしまったが、それ以上に気になるのがお互いの寝る位置だ。
――マリアックは私の寝ているベッドと、反対の壁のあたりで毛布にくるまっている。
結構遠くて、避けられている気がする。
理由はよく分からないが、これは寂しい。
以前一緒に教会で寝泊まりした時は、隣合わせだったのに――
「か、勘違いするんじゃねえぞ! 俺は別にお前を嫌ってるわけじゃねえ!」
「それでしたら、もっと近くで寝てほしいのですが……。なぜ、そんなに離れるのですか?」
「さ、寂しそうな声を出すな! これは俺個人の問題だ! き、気にするな!」
気にするなと言われても、流石に気になってしまう。
マリアック自身も壁の方に顔を向け、こっちを見てくれない。
どうしてもこの物理的距離が、心理的距離にもなっている気がする。
――そうだ。こういう時は何か話題を持ちだし、心理的に歩み寄ってみよう。
私は進化を続ける<清掃用務員>。
先程も"ファルコン"と"ホーク"の話題で、うまく話を繋ぐことができたのだ。
あの時と同じように、今回は『寝る前の定番な話題』を持ち出し、マリアックの心にこちらから近づいてみよう。
「ところで、マリアック。あなたも年頃の男性です。気になる女性などはいらっしゃらないのですか?」
「は? へ? あ、ああ……。まあ、いるにはいるんだが……」
――そう。恋バナだ。
前世で学校のお掃除をしていた時に聞いたのだが、この年頃の男性は恋に興味津々らしい。
現世でも効果があるかは分からなかったが、マリアックの返事を聞く限り、興味を引くことはできたようだ。
「な、なあ、クーリア。お前も俺が好きな女のこと……気になるか?」
「気になりますね。是非とも教えていただきたいです」
「そ、そうだな……。じゃあ、軽くヒントだけでも話してみるか……」
さらにはマリアックの方から話に食いついてきた。
これは好都合。私も気になるし、是非とも話を聞かせてもらおう。
「俺の好き奴はな……それはまあ、大勢の人間に慕われてるんだ」
マリアックは自身の好きな女性について、言葉を紡いでいく。
「俺みたいな嘘つきじゃなくて、嘘なんて全然つかない。むしろ、下手過ぎて心配になってくるレベルだ」
そんな紡がれる言葉の中で、その女性の人物像も見えてくる。
「それに頑張り屋なんだが、頑張り屋すぎて、これまた心配になってくる。正直、危なっかしくて見てられない」
マリアックは好きな女性の短所をあげているが、その声はどこか嬉しそうだ。
「……でもよ、俺はそいつのそういうところも全部含めて、『守ってやりたい』と心の底から思えるんだ。へへっ……流石に誰だか分かっちまうかな?」
最後にマリアックは自嘲気味に笑いながら、想い人に対する気持ちを語り終えた。
――成程。ここまでヒントがあれば、私にもその女性が誰なのか分かる。
『大勢の人間に慕われている』、『正直者』、『頑張り屋』、『守りたい存在』。
そしてここに『マリアックと同じ年代の女性』とくれば――
「ずばり……ココラルお嬢様がお好きなのですね? すべての条件に当てはまりますし、年齢も近いので――」
ゴチィン!!
――そうして私が答えであるココラルお嬢様の名前を口にすると、何やらマリアックの方から衝突音が聞こえた。
どうやら壁の方に転がっていき、頭を強打したようだ。
横になった状態からでも転んでドジを踏めるなど、マリアックのドジは筋金入りである。
「あ、あのさ……なんでその結論になんだ?」
「……? 間違っていましたか?」
「ああ、盛大に間違えてるぞ……。つーか、なんでここまで言って分からねえんだよ……」
マリアックは苦笑いしながらこちらに顔を向けてくれる。
私の答えは間違っていたようだが、いずれにせよ、これでようやく顔を合わせることができた。
「それにしても、ココラルお嬢様でないとなると、ファブリ様でしょうか?」
「ココラルの嬢ちゃんでも、ファブリでもねえよ……」
「うぅむ……申し訳ございません。私には皆目見当もつきません」
「……嘘だろ?」
その後、マリアックと答え合わせをしようとするが、どうしても私には分からない。
マリアックは横になりながら頭を押さえるばかりで、結局答えは言ってくれなかった。
「はぁ……仕方ねえな。じゃあ明日、シケアルの兄貴に関する騒動にケリがついたら、俺も教えてやるよ……」
「本当ですか? 私も気になって仕方ないです。これは一層、明日のお掃除に精を出さないといけませんね」
「ああ、俺もしっかり覚悟しておくよ。……明日全てが終わったら、俺も覚悟を決めてお前に伝えてやる」
私はマリアックと目を合わせ、明日のことを誓い合った。
マリアックの好きな人が誰なのかも気になるが、まずは目の前のお掃除からだ。
――大丈夫だ。きっとうまく行く。
シケアル殿下は強敵のようだが、相手は一人しかいない。
それに対して私の周りには、頼れる方々が大勢いらっしゃる。
今もこうしてマリアックがいてくれるし、不思議と恐怖感はない。
――明日誓いの大樹の下にて、私はこの"汚れ"騒動に決着をつける。
ついに始まる、"汚れ"の元凶のお掃除。
そして始まらなかった、マリアックの恋物語。




