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二人だけで待機中です。

一番苦労しているのはフェイキッド説。

 陛下と旦那様とココラルお嬢様が帰られた後、私はフェイキッド様と二人きりでそれぞれの準備をしている。

 私は箒天戟(ホウテンゲキ)のブラッシングを、フェイキッド様は"ファルコン"と"ホーク"の手入れを。

 それぞれ使うべき道具を手入れしているのだが、どこか気まずい。


 ――先程から、一切の会話がないのだ。


 ここは私も<清掃用務員>として、気の利いた一言で会話を始めるのがいいだろう。

 フェイキッド様はこれから私と一緒に、お掃除の手伝いをしてくださるお方だ。

 それにもしかすると、正体がバレたことで距離を感じられているのかもしれない。

 だが私の心は今でもこのお方の友人だ。

 だからここは私が、共通になりそうな話題を持っていこう――




「フェイキッド様。"ファルコン"と"ホーク"の使い心地はいかがでしょうか?」

「ん? あ、ああ。やっぱりいい銃だよな。お前も『ホトトギス』にいたころに使ってたみてえだが、この二丁拳銃はリンク効果も含めて本当に最強だな」


 私の問い掛けに対し、フェイキッド様は手入れされていた"ファルコン"と"ホーク"を手に取りながらぎこちなくも答えてくださった。

 あの二丁拳銃は元々、私が使っていたものだ。話題としては丁度いい。

 <アサシン>としての忌まわしき過去の象徴ではあるが、それが今友人であるフェイキッド様の力になっているのなら、それはそれで構わない。

 ただ、私としては一つ気になることがある――


「フェイキッド様。その二丁拳銃を使い、シケアル殿下を殺すような真似だけはおやめください。私は<清掃用務員>、人々の生活を守る者です。例え相手が横暴の限りを尽くすシケアル殿下であっても、それだけは見逃せません」


 ――そう。シケアル殿下の生死についてだ。

 ここだけは<清掃用務員>として、フェイキッド様にも守っていただきたい――




「悪いな、クーリア。お前の気持ちは守りたいが、殺す気で行かねえとシケアルの兄貴の相手はできそうにねえんだ。いや、殺す気で行ったとしても、はたして勝てるかどうか……」




 ――だが、フェイキッド様は私の要望を拒まれた。

 ただその言葉には、兄上であるシケアル殿下への恐怖心が感じられる。


「兄貴の力は『とんでもない』としか言いようがねえレベルだ。そんな兄貴相手に、俺はお前を守ることを最優先とする。もしそのために兄貴を殺す必要があるなら……俺は殺す」


 それでもフェイキッド様は強い決意を秘めた瞳で、その胸の内を語ってくださった。

 私のためにシケアル殿下を殺す程の覚悟は、恐ろしくも感じてしまう。

 それでもそれぐらいの覚悟でないと、シケアル殿下の相手は務まらないのだろう。


 ――今は私も友人であるフェイキッド様の考えを信じよう。




「それよりも、クーリア。お前はこの二丁拳銃を俺が持ってることについては、何も言わないのか?」

「え? 何も言いませんが?」

「いや……これってそもそも、俺が『ホトトギス』から盗み出したもんだぜ?」


 そうやって話を聞く中で、フェイキッド様は"ファルコン"と"ホーク"の所有者についても語られた。


「その二丁拳銃を盗んだのも、シケアル殿下の指示だったのですか?」

「ああ。兄貴は俺ならこの二丁拳銃を使いこなせることも分かってたみてえだ。確かに使いこなせてるはいるが、元々はお前が使ってた銃でもあるし、俺みたいなのに託してていいのか?」


 確かにこの二丁拳銃はフェイキッド様のものではない。

 本来ならば『ホトトギス』に返すのが筋というものだろう。


 だが私としては――




「"ファルコン"と"ホーク"はフェイキッド様が持っていてください。これからシケアル殿下の相手をするのに必要ですし、タワキスさんに管理してもらうよりも安心できます」




 ――このお方に持っておいてほしい。

 "ファルコン"も"ホーク"も<清掃用務員>となった今の私にとっては、忌まわしい<アサシン>時代の象徴ではあるが、かつての相棒とも言える二丁拳銃だ。

 そんなものを友人であるフェイキッド様が持っていてくださるのなら、それは私にとってもある意味で励みになる。


「……本当にいいのか? 俺みてえな嘘つき野郎に託して――」

「そう自分を卑下なさらないでください。以前あなたは私におっしゃってくださりました。『友人が自分を悪く言うのを見るのは辛い』――と。それは私にとっても同じです」


 私はフェイキッド様の横に座り、お互いの手を重ね合わせながらその思いを口にする――


「どうか今はその二丁拳銃で、私を支えてください。これはあなたの友人、クーリア・ジェニスターとしての願いです」


 ――そしてその目をしっかり見つめ合い、心からその願いを伝えた。


「わ、分かった! 分かったから、そんなに俺に近づいて――うおぉお!?」



 ドテンッ!



 そうして私が寄り添っていると、フェイキッド様はまたしても転げ落ちてしまった。


「……フェイキッド様は本当にドジなのですね」

「……これは俺の立場からすると、いろいろ仕方ない気がするのだが?」


 床に仰向けの状態で、フェイキッド様は私に反論されてきた。

 意味はよく分からないが、今のやり取りはどこか楽し気な気持ちが胸の内にあった。




 ――私はやはり、このフェイキッド様とはまだ友人だ。




「……なあ、クーリア。お前が良ければでいいんだが、俺からの提案を一つ聞いてはくれねえか?」

「提案ですか? 何でしょうか?」


 転ばれていたフェイキッド様だが、床の上で胡坐をかいて頭をかき、私から軽く目を逸らしながら恥ずかしそうに提案をされてきた――




「俺のことは『フェイキッド様』じゃなくてさ……前みたいに、『マリアック』って呼んでくれねえか?」




 ――その言葉の意味を、私は頭で理屈として理解することはできなかった。

 ただ、それでも心としてなんとなく理解はできた。


 『マリアック』という呼び方は、フェイキッド様が私と友人関係を築くときに提案された呼び方だ。

 友人関係というものすら分からない私に語り掛けてくださった、私にとっては大きな一歩。

 あの時のことを思い出すと、私も自然とそのお名前を口にすることができる――




「かしこまりました、マリアック。今後とも私は今までの呼び方をさせていただきます」




 ――やはり、私もこちらの方が呼びやすい。

 私が『マリアック』と呼んだのを聞いて、マリアック自身も笑顔で返してくれた。


「ああ、ありがとよ、クーリア。やっぱ、俺もお前にはこっちの呼ばれ方の方がしっくりするぜ」


 その時の笑顔は私がこれまで見てきた『マリアック・アリビュート』のものではないが、年相応の無邪気で愛らしい少年の笑顔だった。




「……さてと。後は食事をとりましたら、体を休めましょうか」


 そうこうしているうちに、かなりの時間が経ってしまった。

 時計を見ると、現在は夜の十時。

 シケアル殿下との対決は明日の午後八時なので、今はとにかく体を休めておきたい。

 教会での一件から、立て続けに起こった出来事で疲れもたまってきている。

 以前のように過労で倒れないよう、明日の準備を万全にするよう、ここは休息を長くとるべきだ。

 今度こそ私は<清掃用務員>として、過去の失敗の経験を活かす。


 だがここで問題となってくるのが、『この隠れ家にはベッドが一つしかない』ということだ。

 やはり私が床で寝るべきだろうが、ここはマリアックとの友情の確認も取れたため、私も一つワガママを言ってみたくなる――




「マリアック。よろしければ私と一緒にベッドで寝ません――」



 ドテーンッ!!



 ――そんなちょっとしたワガママを言おうとすると、マリアックが盛大にその場で転んだ。


「お、おま! お前なぁ!? い、いくらなんでも、ちょ、ちょっとはわきまえるというか、なんというか……!」


 そして転んで狼狽えながら、私に注意をしてこられる。

 私としては『友人と一緒のベッドで寝る』という体験にちょっとした憧れがあったのだが、どうやらそれはまだ早かったようだ。

 私としたことが、どうやら事を急ぎ過ぎたらしい。


「申し訳ございません。では、ベッドはマリアックがお使いください。私は床で寝て――」

「いや! お前がベッドで寝ろ! 俺が床で寝る!」

「ですが、マリアックはこの隠れ家の主ですし、仮にも王族で――」

「いいからベッドで寝てくれ! 頼むから!」


 私は何度かマリアックにベッドで寝ることを勧めるも、顔を真っ赤にしながら反論されてしまった。

 このままでは埒が明かないので、仕方なく私がベッドで寝ることとなる。




 ――だが、なぜマリアックはそこまで私にベッドを勧めたのだろうか?

 床で寝るのが好きなのだろうか?

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