二人だけで待機のようです。
※やや下ネタ的な表現あり
「ん? どうかしたのか? フェイキッドよ?」
「どうもこうもあるか! このクソ親父! な、なんで俺がクーリアと……その……二人だけで同じ部屋に……!」
ジーキライ陛下の『私とフェイキッド様は当日までこの部屋で待機』という提案だったが、それを聞いたフェイキッド様は転びながら激しく反論されてきた。
――確かにこの部屋は狭い。
しかもベッドは一つしかない。
いくら身分を偽っていたとはいえ、フェイキッド様は元々王族だ。
私のようなただの<清掃用務員>と一緒の部屋で一日以上過ごすなど、プライドが許さないのだろう。
だが、現状では他に選択肢がない。
「フェイキッド様。私は決して粗相はしません。ベッドもフェイキッド様がお使いください。私は床で寝ます」
「そういう意味じゃねえんだよ! これは俺の方の問題であってだな……!」
私はフェイキッド様に提案するも、中々聞き入れてもらえない。
『マリアック・アリビュート』という偽りの姿がなくなった以上、私とも距離を置きたいのだろうが、少し寂しい気もする。
「なあ! 親父! 頼むって! 俺は野宿でも何でもいいから、どこか別の場所を用意して――」
「いや、ならぬ。下手にここから動いて、シケアルに見つかっては台無しだ」
さらにフェイキッド様は父上である陛下にしがみつきながら懇願するが、それも却下されてしまった。
――ここまで私と一緒にいるのを避けられると、流石に辛い。
「本当に頼むって! クーリアと一緒の部屋で生活するなんて、俺の"フェイキッド"が"スクリーム"しちまうだろ!?」
「おい!? 王家の家名をいかがわしい表現に使うな!?」
さらには何やら意味の分からない言葉まで飛んできた。
『"フェイキッド"が"スクリーム"する』とはどういう意味だろうか?
陛下には分かるようだが、私には分からない。
だがこれはきっと、『一緒の部屋で生活することへの問題』を提示したものではあるはずだ。
それならば、私からも一つ言えることがある――
「ジーキライ陛下。私は以前、フェイキッド様がマリアックだった時に、一度一緒に教会で寝泊まりしました。ゆえに、問題ないと思われます」
「な、なんだと!? おい、フェイキッド! お主まさか、すでに"フェイキッド"を"スクリーム"させたのではないだろうな!? 流石に吾輩も、それはまだ早いと思うぞ!?」
「してねえよ! つーか、さっきの『王家の家名』云々の話を、自分から使ってんじゃねえ! このクソ親父が!」
助言の気持ちで私は口を挟んだのだが、何やら余計に話がこじれたように見える。
またしても私は失敗してしまったようだ。
"超一流"の<清掃用務員>として、重ね重ね恥ずべき行為である。
「フェイキッド様……そんなに私と一緒が嫌でしょうか?」
「い、いや……嫌というわけじゃなくて……」
それでも今この状況で、私とフェイキッド様がここから外に出るわけにはいかない。
ここは大局を考え、どうにかフェイキッド様に折れてもらうしかない。
そのためにも私はフェイキッド様に近寄りながら、どうにか妥協点を提案していく――
「私は床で寝ても構いません。フェイキッド様が私を嫌うのは悲しいですが、どうかお願いします」
「だ、だから! 俺はお前を嫌ってなんかいないって! そ、それに近い――どわぁあ!?」
ドテンッ!!
――そうして私が近寄ると、フェイキッド様は後ろ向きに転んでしまった。
――ここで私はある可能性に気付く。
これまでマリアックが何度も転んでいたのは、『ドジっ子シスターの演技』だと思っていたが、もしかするとフェイキッド様は『元々ドジ』なのかもしれない。
そして、それを私に悟られたくないため、私と一緒にこの部屋で過ごすことを避けようとしている――
「私はフェイキッド様がどれだけドジでも大丈夫です。必要でしたら身辺のお世話は<メイド>でもある、この私にお任せください」
「気持ちはありがたいけどよぉ! お前絶対さぁ! 絶対に何か勘違いしてるよなぁあ!?」
――そんな思いを込めてさらなる提案をしてみたが、フェイキッド様は尻もちをついた状態で顔を赤くされながら否定された。
もしかすると、これはいわゆる『照れ隠し』なのかもしれない。
フェイキッド様にも言われたが、私は嘘をつくのが下手だ。
普通のお方なら、嘘をついて照れ隠しをするものなのかもしれない。
ここは<清掃用務員>として"静"の清掃魂を意識し、あえて深入りはしないようにしよう。
ただ、それだとどうやってフェイキッド様に納得してもらえば――
「なあ、クーリア。俺ってさ、今までは『マリアック・アリビュート』として女のフリをしてたけどよ、本当は男なんだぜ? こんなこと自分から言いたくねえんだけど……クーリアはそれでも大丈夫なのか?」
――そう考えていると、フェイキッド様は頬をかきながら恥ずかしそうに言葉を紡がれた。
成程。性別の問題があったか。
確かにこれまではマリアックとして女性として私も接してきたが、今は男性であるフェイキッド様としての印象が強い。
だが、問題ない。
このお方の性別云々以前に、私は――
「私があなたの友人であることは変わりません。たとえ男性であろうとも、それだけは変わらないことをご留意ください」
「な、なんだよ……。そんなに面と向かって言われると、妙にこそばいと言うか……」
――そう。このお方の友人だ。
私はそれをお伝えした上で、さらに安心できる要因を言葉にした――
「そもそも私は今でも、フェイキッド様をどちらかと言うと女性として認識しています。ゆえに、これまで通りで問題ありません」
「俺に気を遣ってくれてるんだろうけど、それはそれで悲しいぃ!!」
――言葉にしたのだが、なぜかフェイキッド様は悔しそうにされている。
これが男性と女性の差というものなのだろうか?
私にはよく分からない。
「フェイキッドよ。いい加減に折れろ。お主にとっても、チャンスではあるのだろう?」
「ぐぅ……!? このクソ親父……俺の気持ちを分かった上で、いけしゃあしゃあと……!わ、分かったよ……」
「ただ、"フェイキッド"を"スクリーム"させるのはまだ早い。そこは我慢しろ」
「その表現、何回も使ってんじゃねえよぉお!? 言い出したの俺だけどよぉお!!」
呆れ気味の陛下に再三諭され、ようやくフェイキッド様は私と一緒にこの隠れ家での待機を了承してくださった。
相変わらずよく分からない話の内容だったが、とりあえずこれで大丈夫だろう。
「フェイキッド様。わしもあなた様がクーリアと共にここで待機することを、一応認めはしましょう」
話を聞いていた旦那様も、フェイキッド様に近づきながら納得されている。
ただ、その表情はどこか重々しいものを感じる。
私がそう思っていると、旦那様はフェイキッド様に対して語り掛け始めた――
「だが、もしもクーリアに手を出したら、お前の"フェイキッド"をわしの剣で斬り落としてやるからな? あぁ?」
「わ、分かって……ます……」
――そう語る時、旦那様は明らかにフェイキッド様にメンチを切っておられた。
王族であるフェイキッド様にそのような態度はどうかと思うが、フェイキッド様ご自身も納得されたように敬語で返されている。
きっとこれでいいのだろう。
――それにしても、『"フェイキッド"を斬り落とす』とはどういう意味だろうか?
「先程からお父様達が言っている、『"フェイキッド"が"スクリーム"する』等というのはどういう意味ですの? わたくしには分からないですの」
「私にも分かりません。きっと、男性特有の合言葉のようなものなのでしょう」
「……お前達は知らなくていい。さあ、ココラル。わしらは帰るぞ」
ココラルお嬢様と私は話の内容について行けず、いつの間にか呆然としてしまっていた。
そんなときに旦那様がお声をかけてくださり、お嬢様や陛下と一緒にこの隠れ家から出ていかれることになった。
「じゃあな、クーリア。フェイキッド様が粗相を働いたら、遠慮なくわしに言え」
「いいか! 変なことを考えるんじゃないぞ!? フェイキッドよ!」
「クーリア! わたくしもファブリさんと一緒に頑張るのですわ!」
そうしてお三方は各々のお言葉を口にしながら、帰って行かれた。
――ココラルお嬢様もおっしゃっていた通り、これから先は皆様の力が必要になる。
私は<清掃用務員>としてお掃除する。
そのために、一緒に戦ってくださる仲間がいる。
今だって、こうしてフェイキッド様がお傍にいるのだ。
このお方は『マリアック・アリビュート』でなくなった今でも、私の大切な友人だ。
「フェイキッド様。シケアル殿下のお掃除では、どうかよろしくお願いします」
「分かってる。こっちこそよろしく頼むぜ、クーリア」
二人きりになった部屋で、私はフェイキッド様と向かい合って胸の内を誓い合った。
私もフェイキッド様も、真剣な表情で見つめ合う。
――ただ、少しするとフェイキッド様は顔を手で押さえながらうつむかれてしまった。
「くっそ……! 仕方ねえってのは分かるけどよ、なんでクーリアと二人きりになんだよ……!?」




