世界の真理が見えてきました。
クーリアには見えてくる、この世界の真理――
「『イベント』? 『ルート』? 『フラグ』? どういう意味ですの? クーリア?」
「これらだけでは何とも言えません。ですが、一つの可能性は見えてきました」
ココラルお嬢様にも尋ねられたが、私はこのメモの内容をなんとなく理解できた。
ここに書かれている単語は、私にも見覚えのあるものが多い。
内容の全てを読み解くことはできないが、それでも一つだけ言えることがある――
「断言はできませんが、シケアル殿下は『私と同じ存在』かと思われます」
「クーリアと同じ存在……だと?」
「それは一体、どういう意味だ?」
私が出した一つの仮説に対して、旦那様と陛下は困惑しておられる。
「やっぱり……そういうことなんだな? だったら、やはりお前こそ兄貴に対抗できる存在なのかもしれねえな」
ただ、フェイキッド様だけが私の仮説に納得してくださった。
私の方を見ながらニヤけるその表情からも分かる。
おそらくこのお方もまた、シケアル殿下の正体に勘づかれている。
まだ仮説の段階ゆえ、下手に断言することはできない。
<清掃用務員>として、迂闊に混乱させるような情報は禁物だ。
――それほどまでに、この仮説は重大だ。
「全てを読み解くことはできませんが、一部は私にも分かります。このメモを見る限り、フェイキッド様が『マリアック・アリビュート』として生きるようになったのも、シケアル殿下があらかじめ用意した計画だったようですね。それも、十年以上前から……」
「まったく、とんでもない兄貴だぜ。俺の人生をテメェの都合のいいようにいじりやがってよ……」
フェイキッド様の愚痴を聞きながら、私はさらにメモの読み解ける内容に目を通していく。
そこには『マリアック・アリビュート』の存在についてだけではない。
ココラルお嬢様がワガママになること。
ファブリ様の行動パターン。
クッコルセ団長への<暗黒魔法>による洗脳。
それら私の身の回りの方々に関する情報が、多く記されていた。
そして私はさらに、一つの驚くべき内容を目にする――
「『ファインズ公爵夫人の病死』……。このメモには、奥方様の死についての計画も記されています……!」
「なっ……!? なんだと……!?」
「そ、それじゃあ、お母様の死は、シケアル殿下の仕業ということですの……!?」
――その内容を私は旦那様とココラルお嬢様にもお伝えした。
お二方とも動揺を隠せていないのがよく分かる。
お二方が<暗黒魔法>に心を蝕まれたことだけでなく、ファインズ公爵家を一変させたあの出来事自体が、全てシケアル殿下によって仕組まれたことだった。
「なんということだ……!? アトカルの妻の命まで奪うなどと、一体シケアルは――吾輩の息子はどこまで横暴を重ねていたのだ……!?」
ジーキライ陛下も同様に、動揺が隠せるような心境ではない。
シケアル殿下は自らの計画のためならば、人の命さえも容易く奪う。
――これはとてもではないが、シケアル殿下を見過ごすことなどできない。
「……分かってくれたか? <暗黒魔法>の力の強大さゆえ、今までは俺も抗いたくても抗えなかった。だがクーリア達の力があれば、シケアルの兄貴を倒すことだってできる……!」
私がメモの内容を読み解く中で、フェイキッド様はその様子を見ながら決意を語られている。
きっとフェイキッド様はずっとこの時を待ち望んでおられたのだ。
自らが従うしかなかった圧倒的な諸悪の根源を倒すために、それが可能な人間が現れることを、心のどこかで望まれていた。
だからこうして兄上であるシケアル殿下の情報を揃えておき、その人間が現れることを待たれていた。
――そしてその人間こそがこの私、クーリア・ジェニスターだ。
「……この事実を知ってしまった以上、吾輩も父親として以上にウォッシュール王国の国王として、シケアル・スクリームを討伐する……!」
ジーキライ陛下は歯を食いしばりながらも、ついにその決意を口にされた。
私としてもシケアル殿下の行いは見過ごせない。
しっかりと罪を償い、更生して<暗黒魔法>から足を洗ってほしい。
「クーリアよ。そのメモの内容から、次のシケアルの行動は予測できるか?」
「少々お待ちください。……『学園祭三日目最終日午後八時、ファブリから誓いの大樹の下で告白される』と、記されています」
「ファブリさんがシケアル殿下に告白ですの? 正直、ありえないですの……」
陛下に話を振られた私は、メモの内容から読み解くことができ、かつ直近に行われそうな計画を読み上げる。
ファブリ様がシケアル殿下に告白するという内容だが、ココラルお嬢様もおっしゃった通り、あまりに素っ頓狂な話だ。
「あの兄貴なら本来ありえない話だろうとも、用意した計画に沿う形なら、喜んで告白に応じるだろうよ。それをこっちが餌にすれば、兄貴を一人にして追い詰めることだってできそうだ」
ただ、フェイキッド様はシケアル殿下の行動に確信があるようだ。
「シケアル殿下の計画はこれまで何度か失敗してます。本当にこの通りに動かれるのでしょうか?」
「さっきも言ったが、兄貴の計画が挫折した最大の要因は『クーリアの存在』だ。今の兄貴はクーリアが死んだことで、ようやく計画通りに事が動くと思ってる。……俺とクーリアの存在は、『もうすでに死んだ』ものだと兄貴は思い込んでるからな」
「フェイキッド様も……?」
私はシケアル殿下の動きで気になったことをフェイキッド様に尋ねてみたが、そこで気になるお言葉を口にされた。
「兄貴の計画では俺もクーリアも、『燃え盛る教会で一緒に死ぬ』はずだったんだ……。今はこうして俺の隠れ家にいるから、あのクソ兄貴も気付いてねえけどな」
「何と愚かな……! 自らのために利用してきた実の弟を、自らの望みのために捨て駒にするとは……! 一体、シケアルはどこまで腐っておるのだ!?」
そしてその意味についても語ってくださった。
その内容を聞いた陛下は、これでもかと怒りを露にされている。
本当に恐ろしい話だが、私には一つだけフェイキッド様に言いたいことがある――
「フェイキッド様。そのような状況でこの私を助けてくださったこと、誠に感謝いたします」
「う、うるせえ! 余計な感謝とか、俺にはい、いらねえからな!」
――そう。シケアル殿下に対するリスクを抱えながら、この私を助けてくださったことへの感謝だ。
そうして感謝の言葉を述べたのだが、フェイキッド様には腕を組みながらそっぽを向かれてしまった。
何やらお顔も赤いようだし、私の態度の問題の他に、体調でも優れないのだろうか?
「……ほほう。成程な」
ただそんなフェイキッド様の様子を見て、陛下は何かを納得されたように見えた。
このお二方は親子だ。私には分からない、家族だから分かることがあるのだろう。
「では、吾輩から作戦を伝える。学園祭三日目の午後八時、こちらからシケアルを当初の計画通りに、誓いの大樹の下におびき寄せるようにする」
フェイキッド様の様子はさておき、ジーキライ陛下は作戦の概要を語られ始めた。
ファブリ様にはシケアル殿下にラブレターを送っていただき、予定の時刻に誓いの大樹に来てもらう。
同じ頃にクッコルセ団長やスミスピア様を始めとするウォッシュール王国の最高戦力で、誓いの大樹周辺を包囲。
これにより、シケアル殿下の退路を完全に封鎖する。
そして、実際に誓いの大樹で待ち構えるのはファブリ様ではなく――
「フェイキッド、クーリア。お主ら二人がシケアルを倒してくれ」
――私とフェイキッド様の二人だ。
シケアル殿下の<暗黒魔法>をお掃除できるのは、<清掃用務員>である私だけ。
フェイキッド様にも一緒にいてもらい、私と二人でシケアル殿下をお掃除する。
「シケアルはお主ら二人は死んだものと思い込んでおる。実力も含め、シケアルを止められるのはお主ら二人だけだ」
「ああ、分かったよ、親父」
「私も<清掃用務員>として、全身全霊でことに当たらせていただきます」
作戦の内容は決まった。
後はその時が来るのを待つだけだが――
「……と、ここで一つ、ちょっとした問題だ。お主ら二人は死んだことになっているゆえ、迂闊に外へ出ることはできぬ」
「確かに今、私とフェイキッド様が姿を現すわけにはいきませんね」
「そこですまぬのだが、作戦の時が来るまでここで二人だけで待機していてくれ」
陛下は私とフェイキッド様の立場についても考えておられた。
一日半ほどフェイキッド様には私と一緒にいてもらうことになるが、今はそうするしかない。
私はその案を快く飲もうとした――
「かしこまりました。私はここでフェイキッド様と共にお待ち――」
ドテンッ!!
――したのだが、その時突如フェイキッド様が座っているイスから転げ落ちてしまった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 親父! 俺とクーリアだけで、この部屋に閉じこもってろって言うのか!?」
マリアックからフェイキッドになっても転ぶさ!
何度でもなぁ!




