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生き別れていた親子の再会です。

死んだはずの皇太子、フェイキッド・スクリーム。

その父にして国王、ジーキライ・スクリーム。

十年越しの再会――

「吾輩の目の前から『死んだ』と偽っていながら生き延び、果てはこれほどまでの大騒動を起こすとはな……」

「ああ。俺自身も本当に馬鹿なことをしてたって思うよ。……だから抵抗はしない。このウォッシュール王国の王として、この重罪人フェイキッド・スクリームを罰してくれ」


 ジーキライ陛下はフェイキッド様を睨みながら、高圧的な口調で語られている。

 フェイキッド様はそんな父でもあるジーキライ陛下に対し、自ら両腕を広げながら無防備に立っておられる。


 いくら陛下の息子と言っても、フェイキッド様はこれまで数々の"汚れ"騒動を引き起こし、国中を混乱に陥れてきた張本人の一人。

 ウォッシュール王国の主として、フェイキッド様を見過ごすことなどできない――


「ジーキライ陛下! フェイキッド様も本意でこのようなことをしていたのではありません! 私も無事です! どうか考え直して――」

「いいんだ、クーリア。俺は自分の罪の重さを分かってる。お前に助けてもらった命を自分で捨てるつもりはもうないが……それでも俺に償うべき罪があるなら、俺はしっかり罰を受けるまでさ」


 私は陛下に進言しようとしたが、フェイキッド様ご自身によって遮られてしまった。

 その時フェイキッド様は一度私の方を向いて微笑んでくださったが、その表情は憑き物が落ちたかのように穏やかだった。


 ――フェイキッド様は陛下からどのような罰を受けようと、すべて受け入れるおつもりだ。

 たとえそれが極刑であったとしても、このお方は受け入れる。

 私は嫌だ。フェイキッド様の友人として、離れ離れになるなんて――






「馬鹿な息子だ……! 国王である前に父として、死んだはずの我が子の生還を喜ばぬはずがないだろう……!」




 ――私がそう考えていると、陛下はフェイキッド様を優しく両腕で抱きしめられた。


「な、なんでだよ……? なんで俺のことを許そうとするんだよ……?」

「言ったであろう? 吾輩にとってはお主が何者であろうと、愛する我が子であることは変わらぬ。今まで本当によくぞ生きていてくれた……!」


 フェイキッド様は困惑されているが、私にも陛下のお気持ちは分かる。

 これまでずっと昔に亡くなったと思われていた我が子、フェイキッド様が生きておられたのだ。

 嬉しくないはずがない。喜ばないわけがない。

 陛下は涙を堪えきれず、フェイキッド様にその思いを伝えておられる。

 私も同じような立場だったなら、階級など関係なくこの事実にまず歓喜する。


 ――このお二方は家族だ。

 だからこうなることは、ある種当然の事実だ。




「……ジーキライ。お前が親としてフェイキッド様を許そうと、わしは簡単に見過ごすことなどできぬぞ」


 ――ただそんな親子の再会の中、傍で見ていた旦那様が携えていた剣を抜き、フェイキッド様へと向け始めた。


「この者はクーリアを――わしの家族の命を狙った者だ。たとえ王であるお前が許そうと、たとえフェイキッド様がこの国の皇太子であろうと、わしは許すことなどできぬ……!」

「……そうだったな。俺はクーリアを殺そうとしたんだ。あんたにだって、裁く権利はあるか」


 旦那様は怒りの形相で、フェイキッド様に剣を向けながら睨みつけておられる。

 旦那様が私を『家族として』思ってくださる気持ちは嬉しい。それゆえにフェイキッド様に怒りを向けるお気持ちも分かる。

 フェイキッド様ご自身も旦那様に斬られる覚悟だ。


 だがそれでも、私は嫌だ――



 バッ!



「ッ!? クーリア……何の真似だ?」

「旦那様……どうか、フェイキッド様をお許しください。このクーリア・ジェニスターに免じて、どうか……!」

「ク、クーリア……?」


 私はベッドから飛び起き、旦那様とフェイキッド様の間に割って入った。

 両腕を大きく広げ、旦那様の剣の切っ先が向けられようとも、絶対に動く意志は見せない。


「クーリア! その者はお前に麻薬を盛って、殺そうとしたのだぞ!? そのような者を何故庇おうとする!? そこをどけ!」

「俺のことはもういいんだ……クーリア。アトカル・ファインズ公爵に斬られて死ぬなら、それは俺にとっても本望だ……。だから、もう俺を庇わないでくれ……」


 旦那様は私に対して怒り、フェイキッド様は私をさとそうとして来られる。

 お二方の気持ちは、ある意味合致の上である。

 私が口を挟むのは外野の野暮かもしれない。


 それでも私は――




「嫌です! 絶対にここを動きません! もしフェイキッド様を斬られるなら、私ごと斬り捨ててください! 旦那様!!」




 ――旦那様の意志にも、フェイキッド様の意志にも逆らった。

 旦那様にここまで真っ向から逆らったことなど、初めてのことだ。

 もしかすると、これほどまでに自分の意見を押し通そうとしたこと自体が前世も現世も含めて、生まれて初めてかもしれない。

 <清掃用務員>としての流儀である意見のすり合わせも、もうどうだっていい。

 私はただ――




「お願いします! 旦那様! フェイキッド様をお許しください! 私はこのお方を――友人を失いたくないのです!!」



 ――友人に生きてほしかったのだ。

 これが私のワガママ以外の何物でもないことなど、百も承知だ。

 それでも、フェイキッド様は『マリアック・アリビュート』という『嘘の姿』をしながらも、『真実の心』で私を気遣ってくれたお方だ。

 たとえ何と言われようと、これが私の独りよがりであろうと――




 ――フェイキッド様は私の大切な友人だ。




「くぅ……!? クーリア……!」

「お父様……。ここはクーリアの意見を尊重した方が……」

「し、しかし……!」


 なおも納得できない様子の旦那様を、ココラルお嬢様もなだめてくださる。

 だがそれでも、旦那様の気は収まらないようだ。


「……アトカル。お主の気持ちも分かる。だが、少し吾輩の話も聞いてはくれないか?」

「ジーキライ……?」


 そんな時、今度はジーキライ陛下が旦那様へ声をかけられた。

 そして懐から一枚のメモを取り出しながら、何かを語り始められる――


「これは先程『ホトトギス』のボスから預かった、クーリアが飲んでいたポーションに関する調査内容が書かれたメモだ」

「タワキスさんが……? そ、そうでした! タワキスさんは無事なのですか!?」

「ええ。わたくしとファブリさんで教会を脱出した後、無事に手当てを受けて回復されましたわ」


 ――その中でタワキスさんの話も出たが、無事を聞いて私も安心した。

 そして陛下はタワキスさんから預かったというメモを見ながら、話を続けられる――


「このメモに書かれた原材料を見る限り、やはり覚醒作用のある麻薬を作り、クーリアの飲んでいたポーションに仕込んでいたのだな? フェイキッド?」

「ああ……。それに関しては、俺も言い逃れのしようがねえよ……」

「ふむ……。入手ルートを見る限り、これらの原材料はシケアルが仕入れ、お主に渡して麻薬を調合させていたということでよいのだな?」

「……ああ、それも事実だ。俺には<薬剤師>としてのスキルも備わってるからな……」


 フェイキッド様は陛下がメモを見ながら尋ねる内容に、全て肯定されておられる。

 その話の流れで、やはりフェイキッド様はシケアル殿下の命令で動かれていたことが分かる。


 そして陛下は、さらに気になることを述べられた――




「フェイキッドよ。お主は『わざとクーリアが死なない』ように、これらの原材料を調合していたのではないか?」




 ――その話は私にもよく分からないものだった。


「ど、どういうことだ!? ジーキライ!? 麻薬を作ったのは確かにフェイキッド様なんだろう!?」

「確かに作ったのはフェイキッドだろう。だが、この原材料を使えば『証拠が残らない麻薬』どころか、『証拠が残らない猛毒』だって作れたんだ」

「なっ……!?」


 旦那様も陛下に尋ねるが、そこから返された陛下のお言葉を聞いて、旦那様と同じく私も思わず困惑してしまう。

 シケアル殿下から渡された原材料があれば、フェイキッド様はすぐにでも私を殺すことができたという事実。


 だが少し考えて、私には『なぜフェイキッド様がそんな調合をしたのか』という答えが見えてきた。

 そしてその答えを、フェイキッド様ご自身も口にされた――




「……全部、親父の想像通りだよ。俺はシケアルの兄貴から『クーリアを殺す毒を作れ』と命じられていたが、俺が作ったのは『覚醒作用のある麻薬』だ。俺に……クーリアは殺せない」




 ――私も思った通り、フェイキッド様は私が死なないように配慮してくださっていた。


「詳しいことは後で説明するが、俺は兄貴に――シケアル・スクリームに利用され続けた人間だ。俺は兄貴からそこに書かれた原材料を渡され、クーリアを殺すための毒を作り、クーリアが飲むポーションに仕込むことを命じられた」


 そしてそれら全ての疑問に答えるように、フェイキッド様は説明を続けられる――


「だが、俺はそんなことしたくなかった。俺の独りよがりだけどよ、『マリアック・アリビュート』として生きていた俺にとって、クーリアは『本当の友人』だと思ってたんだ……」


 それらの言葉は私と同じように、私のことを友人と思ってくださっていたお言葉――


「だから俺はせめてもの抵抗として、クーリアの飲むポーションに仕込むはずだった毒を、麻薬になるように調合した。俺は兄貴に監視されてる立場だ。それが俺にできる、たった一つの抵抗だったんだ……」


 ――それらのお言葉は全て、フェイキッド様の立場でできる、私を救うための最大限の配慮だった。


 やはり、このお方はお優しい。




「……フェイキッド様が抵抗されていたことは分かった。だが、結局クーリアはその麻薬のせいで命を落としかけたのだぞ?」


 旦那様もある程度は納得されたが、まだ完全ではないようだ。

 そこまで私のことを思ってくださるのは、嬉しい話なのだが――




「あ、いや……。言い訳するつもりじゃねえんだが、俺にも一つだけ計算違いがあったんだ」


 ――そんな時、フェイキッド様がさらに言葉を紡がれた。


「俺が調合してポーションに仕込んだ麻薬なんだけどよ。あれって、一日に二、三本飲んでると違和感を感じるはずのものだったんだ。それを二、三日飲めば、倒れる前に体調を崩して、親父辺りがポーションを調べると思ってたんだが――」


 言葉を紡ぎながら、フェイキッド様はどこか呆れた表情をしながら、私の方へ目を向けられてくる――




「……こいつ。そんなポーションを一日に五、六本、多い時には十本飲んで、覚醒作用でありえないレベルの無茶をしまくって、しかもそんな生活を一週間も続けてさ……。そんな馬鹿なことするなんて、俺にも想像できなかったんだよ……」

「……え?」

「……はいぃ?」

「……そうだったのですか」


 ――そうして語られる、ポーションに仕込まれていた麻薬の更なる真相。

 それを聞いた旦那様とココラルお嬢様はポカンとされており、私はどこか気まずくなってしまった。


「……要するに、麻薬の影響こそありましたが、クーリア自身が元々おかしかったということですの?」

「……あえて言わせてもらえるなら、そういうことになる」

「クーリア……。お前……」


 ココラルお嬢様もフェイキッド様も旦那様も、私に対して呆れたような、可哀想な生き物を見るような目を向けてこられる。




 ――胸が痛い。

 私にも責任があったとはいえ、この状況は胸が痛い。


 ――本当に私はこれからもっと、自分を大切にしよう。

結局、クーリアが頭おかしかったという結論。

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