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清掃対象:フェイキッド・スクリーム

明かされるは、"フェイキッドの亡霊"の正体――

 取り外された『笑い狐の面』の下から現れた顔は、私のよく知るマリアック・アリビュートではない。

 顔立ちこそ女性的なままだが、その表情はどこかシケアル殿下によく似ている。

 私に笑いながら叫ぶその姿はどこか、以前私を公衆の面前で咎めたシケアル殿下にそっくりだ。


 それらが私に、否応なく事実となって突き刺さってくる。


「ど、どういうことですか……!? マリアックが"フェイキッドの亡霊"――いえ、フェイキッド・スクリーム様というのは――」

「まあ、そう慌てんなよ。どうせテメェはここで死ぬんだ。とりあえず、テメェの退路も塞いでおくか」


 マリアックはそう言うと、左手に持っていた『笑い狐の面』を投げ捨て、代わりに別のものを背後から取り出した。


 ――魔法銃"ファルコン"。

 "フェイキッドの亡霊"に盗まれていたかつての私が持っていたもう一つの拳銃を左手に持ち、銃口を扉があった方へ向けると――



 ボォオオン!!



 ――そこから炎の魔法弾を発射し、部屋全体を完全に炎で包囲した。


「スゲェ銃だよなぁ! この"ファルコン"と"ホーク"のリンク効果って奴は、本当に最強だぜ! アハハハ!」


 そうして部屋が炎で包まれる光景を見て、マリアックは高らかに笑っている。


 ――いや、今私の目の前にいるのは、私の知るマリアックではない。

 だが、"フェイキッドの亡霊"がマリアックに化けているわけではない。

 わずかにだが、今私の目の前にいる人物とマリアックは、『命の流れ』が似通っている。


 だからこの人が言う通り、本当にこの人の正体は――




「本当にあなたは……フェイキッド・スクリーム様なのですね?」

「だからそう言ってるだろ? まあ、テメェが混乱するのも仕方ねえか。<メイド>のテメェ相手だけに、『冥土の土産』ってわけじゃねえが、俺がじっくり教えてやるよ……!」




 ――もう、私も信じるしかない。

 この人は『マリアック・アリビュート』ではなく、シケアル・スクリーム殿下の双子の弟――


 ――『フェイキッド・スクリーム』だ。




 そして私の疑問に答えるように、フェイキッド様は言葉を紡ぎ始めた――


「まず最初にテメェが疑問に思ってるのは、『なぜ死んだはずのフェイキッド・スクリームが、"フェイキッドの亡霊"なんて名乗って生きてるのか?』ってことだろうな」


 最初に語られるのは、フェイキッド様が生きておられた理由――


「俺は『ある目的』のために、一度立場上は死んだことにしたのさ。もう十年ぐらい前だったか? あんなでっち上げの童話なんか作って、俺は一度フェイキッド・スクリームとして死んだ」

「『でっち上げの童話』……。童話の『フェイキッドの亡霊』ですか……」

「ああ、そうさ。あれはそもそも、俺が"フェイキッドの亡霊"として動くために用意した、シナリオに過ぎなかったんだよ」


 私は撃ち抜かれた左肩の痛みに耐え、膝をつきながらも話を聞き続ける。


「そして俺は"フェイキッドの亡霊"とは別の『表向きの仮の姿』として、『マリアック・アリビュート』という架空の人物へと成り代わった」

「成り代わるにしても、あなたは男性です。それが女性である『マリアック・アリビュート』へと、簡単に成り代われるものなのですか?」

「まあ、簡単ではなかったが、俺には才能があったんだ。――こんな風に~、すぐいろんな人に成り代われるっていう~、お芝居の才能があったんですよ~」


 私との話の最中、フェイキッド様はマリアックの口調と表情に瞬時に切り替わる。

 そのしぐさもおおよそ男性のものとは思えない。

 パッと見では誰もが目の前にいるフェイキッド様を、男性だとは思えないほどの演技力。

 『命の流れ』までをも欺けるほどの擬態能力。


 これほどの演技力は、<役者>のスキルでもできないレベルだ。

 一体この人のスキルは――




「俺のスキルが気になってるって顔だな? まあ、テメェの<清掃用務員>とかいうスキルと同じく、俺のスキルもまた他の人間が持ってるようなもんじゃねえ。生まれ持った芸術と演劇の才能があったからこそできた、この俺のスキル――」


 そんな私の疑問も顔に出ていたのか、フェイキッド様はさらに説明を続けられる――




「<アブソリュート(完璧なる)アクター(役者)>! それがこの俺の持つスキルだ! 俺は見たものをほぼすべて真似ることができる! それが人であろうと、スキルであろうと、俺は真似ることさえできれば、完全に自分のものとすることができるんだよぉお!!」


 ――そうして語られる、フェイキッド様のスキル――<アブソリュート(完璧なる)アクター(役者)>。

 人そのものどころか、他のスキルまで真似できるとなると、それはもう最強のスキルに見えてしまう。

 そのスキルを使い、これまで大勢の人々の目を欺き続けてきたという驚愕の事実――




「と言っても、俺にも真似できないものはある。テメェの<清掃用務員>とかいうスキルは俺にも無理だ。聞く限りだと、テメェのスキルは本来この世界にないもんだ。どうやら、そういうもんは俺にも真似できないらしい」

「……あなたのスキルについては分かりました。それならば、なぜあなたは『マリアック・アリビュート』という全く別の、性別まで違う人間にまで成り代わったのですか?」


 フェイキッド様のスキルが分かっても、私にはまだまだ疑問が残る。


 なぜ、『フェイキッド・スクリーム』という名前を捨てたのか?

 なぜ、『マリアック・アリビュート』という人間へと成り代わったのか?


 その疑問をフェイキッド様へと投げかけたが――


「悪いが、それについては教えるわけにはいかねえんだよ。ただ、俺も好きで『マリアック・アリビュート』という人間を演じてたわけではねえんだがな……」


 ――その答えを教えてはくれなかった。

 ただそのことを語るフェイキッド様の表情は、どこか寂しげにも見えた。


「では、"汚れ"を使ってこれまでの騒動を起こしていたことについても、話してはいただけませんか?」

「ああ、無理だな。ただ俺が進める計画のために、テメェの存在が目障りだってことは確かだぜ……!」


 "汚れ"についての詳細も教えてはもらえず、フェイキッド様は右手に持った"ホーク"の銃口を私に対してギラつかせる。


「それにしても、傑作だったよなぁ! この俺が"汚れ"騒動の原因である"フェイキッドの亡霊"と知らず、本物の『フェイキッド・スクリーム』とも知らず、テメェは俺を『マリアック・アリビュート』として慕い続けてたんだからよぉ!」


 そして今度は私の心を抉るように、その言葉を紡いで来られる。


「俺との『お友達ごっこ』は楽しかったか? ほがらかでドジっ子なシスター、『マリアック・アリビュート』ととの付き合いは面白かったか? だが、そんなもんは全部……この俺の『嘘』だったんだがなぁあ!! アハハハ!!」


 その言葉はことごとく、私の胸へと突き刺さってくる。


「どうだ? 絶望したか? 俺はその気になれば、いつだってテメェの命を狙えたんだぜ?」

「では……ファインズ公爵邸でマリアックが私を襲ったのも――」

「あれも俺が自らの意志でやったことさ。自らにテメェの言うところの"汚れ"を纏わせ、テメェの命を狙った。そしてあの時のテメェは『マリアック・アリビュート』と"フェイキッドの亡霊"――つまりこの俺、『フェイキッド・スクリーム』が同じ人物であることにさえ気付けなかった。本当に傑作だよなぁ! どこまでも馬鹿な女だぜぇ! アハハハハ!!」


 マリアックが"汚れ"に囚われて私を狙ったことさえ、フェイキッド様の『嘘』だったという告白。

 それらの言葉は全て、私に衝撃を与え続けた――






 ――ただ、それでも私には解せないことがある。


「つまり、あなたがこれまで私に対してとってきた態度は、『全てが嘘』ということでよろしいのでしょうか?」

「だからそう言ってんだろ。本当に掃除以外は何にもできねえ、馬鹿な女――」




「では、あなたが今流されている『涙』も、『嘘』ということでしょうか?」

「……え?」




 私はフェイキッド様の言葉を遮り、自らの目の前の光景をそのまま述べた。

 私の言葉を聞いたフェイキッド様は、左手の甲で目元を拭われる――


「あ……あれ? 俺、なんで泣いてんだ?」


 ――そして初めて、フェイキッド様自身も自らの現状に気付かれた。


 フェイキッド様は私との話の中で、ずっとその目を潤ませておられた。

 そして私に侮辱の言葉を投げかける中で、とうとうその目からは涙が零れてしまった。


 これは私の自惚れかもしれない。

 これは私のただの推測に過ぎない。


 ただ、『もしかすると』という思いの中で、私は感じ取るものがどうしてもあった。

 それはきっと、『マリアックの友人として』の私の感情が突き動かした、一つの可能性――




「……フェイキッド様。あなたはもしかして、『マリアック・アリビュートという偽りの人間を演じてきた』ということこそが、最大の『嘘』ではないのですか?」

――元ウォッシュール王国第二皇太子殿下『フェイキッド・スクリーム』にして、聖ノミトール学園の<シスター>、『マリアック・アリビュート』。

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