私はなんとしても助け出します。
友のため、一人の人間としてモップを振るう!
「マリアック! どこですか!? 返事をしてください!」
ココラルお嬢様とファブリ様に銃で撃たれたタワキスさんを託した後も、私は一人燃え盛る教会の中でマリアックを探し続ける。
必死に名前を呼び続けるが、返事が来ることはない。
サーチ能力を最大限に効かせ続けるが、やはりマリアックは一番奥の自室にいるようだ。
「くぅ!? これ以上火の手が上がると、脱出すらできません! 早く助け出さないと……!」
私は進路上にある炎に対して、水を含ませた箒天戟モデル『玄武』を一心不乱に薙ぎ払い、とにかく先へと進んで行く。
今の私は愛する清掃道具で火を消し、道行く邪魔な家具をも破壊している。
その行為が<清掃用務員>とは到底思えない、あまりに暴虐な行為であることは私自身が良く理解している。
清掃魂を宿す者として許されざる行為であるが、今はそれでも構わない――
――私はとにかく、マリアックを助けたい。
最愛なる親友をここで助けられないと、私はこの後必ず後悔する。
そうなるぐらいなら、私は今この時ばかりは<清掃用務員>としての誇りを捨てる。
「ぐうぅ……!? マリアック! この部屋ですか!? この部屋にいるのですか!?」
私は動揺で乱れる心の中でもサーチ能力を研ぎ澄ましながら、教会の一番奥にあるマリアックの私室へとたどり着いた。
反応を見る限り、この部屋にいるとしか考えられない。
バギィィイン!!
炎に纏われていた扉も箒天戟で叩き壊し、私は部屋の中へと足を踏み入れる――
「ッ!? マ、マリアック!?」
――そしてその部屋の中に、マリアックは確かにいた。
だがその姿を見て、私の全身から血の気が引いていく。
マリアックは部屋の壁に寄れながら座り込んでいた。
そして、その腹部からは血が溢れている。
目は閉じられ、口からも血がしたたり落ちている。
「マ、マリアック! お願いです! 目を開けてください! 返事をしてください!」
私は混乱した頭のまま、必死にマリアックの肩を揺さぶりながら呼びかける。
"静"の清掃魂の維持などできるはずがない。
近づいて様子を見る限り、マリアックもタワキスさんと同じように、銃で腹部を撃たれたようだ。
"フェイキッドの亡霊"の仕業だろうが、とにかく今はマリアックのことが心配で仕方なかった。
まさか、マリアックはもうすでに死んで――
「う……う~……。クーリア~……?」
「マ、マリアック!?」
――そんな絶望が私を襲っていた時、マリアックの口からかすかに声が聞こえた。
少しずつ目も開かれ、意識を取り戻していく。
――よかった。生きていてくれた。
「ど、どうしてクーリアが~……ここに~……?」
「説明は後でします! 私が脱出路を確保するので、少しだけ耐えていてください! 絶対に死なないでください!」
マリアックはなんとか意識を取り戻してくれたが、危険な状態には変わりない。
腹部を銃で撃ち抜かれている以上、私が来た道を戻って脱出するのは危険だ。
そんなことをするぐらいなら――
「もう一度だけ頼みます。箒天戟……!」
――私は部屋の壁に向かって、箒天戟を振り上げる。
この壁を壊し、そこから外に出るほうが無難だ。
箒天戟には無茶をさせてしまうが、今はこの子だけが頼りだ。
そして私は箒天戟を壁目がけて振り下ろそうとした――
「……どこまでも馬鹿な女だぜ。いい加減に気づけってえの」
バギュゥウン!!
「あぐぅ!?」
――その時、私の左肩が何かによって撃ち抜かれた。
その痛みで私は箒天戟を手放し、部屋の床へと崩れ落ちる。
おそらく私の左肩を撃ち抜いたのは銃弾だ。
撃ち抜かれる寸前に後ろから聞こえた声も、"フェイキッドの亡霊"の声だ。
そうなると、今もどこかに隠れている"フェイキッドの亡霊"が私を撃ったことになる。
だが、今この部屋には私と負傷したマリアックしかいないはずだ。
「どうしたのですか~、クーリア~? 壁を壊して~、脱出するんじゃなかったのですか~?」
そんな私の後ろから、マリアックの声が聞こえてくる。
そうだ。私の後ろにいたのはマリアックだけのはずだ。
それなのに、先程私の後ろから聞こえてきたのは"フェイキッドの亡霊"のもの――
私は混乱しながらも、ゆっくりと後ろを振り向く――
「マ……マリアック……!? その手に持っているものは何ですか……!?」
「私が持っているものなら~、クーリアの方が詳しいんじゃないですか~?」
――そして振り向いた先には、腹部を撃ち抜かれたはずのマリアックが立っていた。
さらに右手に持っているものは、私にも見覚えのあるものだ――
――実弾銃"ホーク"。
"フェイキッドの亡霊"に盗まれたはずのその拳銃が、マリアックの右手に握られて、銃口を私に向けていた。
「ど、どうしてあなたがその拳銃を……? それに、そのケガでどうして立ち上がって……?」
「クーリアはお馬鹿ですね~。私のこれは~、ただの血糊ですよ~。私はどこも~、ケガなんてしてませんよ~」
マリアックはいつもの笑顔のまま左腕で口元の血を拭い、腹部の血を私に見せつけてくる。
――確かにマリアックについた血はただの血糊だ。
言われて気付いたが、<アサシン>のスキルにも反応しないことからも分かる。
ただ、どうしてマリアックが"ホーク"を持って――
「まだ分からないって感じの~、お顔ですね~。仕方ありませんね~。お馬鹿なクーリアにも分かるように~、これならどうでしょうか~?」
――そんな私の疑問に答えるように、マリアックは右手で"ホーク"の銃口を私に向けたまま、左手を背後へと回す。
そして後ろから取り出したものを、自らの顔へと合わせる――
――『笑い狐の面』。
"フェイキッドの亡霊"の象徴であるその仮面が、マリアックの笑顔を隠すように被せられた。
「ま、まさか……"フェイキッドの亡霊"がマリアックに化けて――」
「違いますよ~。そもそもの話~、『逆』であって~、『嘘』なんですよ~。よく考え直せば~、分かると思いますよ~?」
私は疑問を投げかけようとしたが、マリアックの言葉に遮られてしまう。
そして逆に返された、マリアックの意味深な言葉。
それを聞いて、私は少し落ち着いて考え直す。
この教会に入る前に感じた『命の流れ』は、マリアックを含めて二人いた。
一人は教会の中で倒れていたタワキスさんのものだった。
タワキスさんは『"フェイキッドの亡霊"はまだ中にいる』と言っていた。
だが、タワキスさんを除くとこの教会の中にはマリアックしかいないはずだ。
私の頭の中で、パズルのピースが埋まっていく――
「ま、まさか……そんな……!?」
「ようやく気付きましたか~。そもそもですね~、『マリアック・アリビュートという人間』は~、この世に存在しないのですよ~。私の~――いや、俺の本当の姿は――」
そうして埋まっていく頭の中のパズルの中で、私もついにその正体に気付く。
マリアックもそんな私の姿を見て、『笑い狐の面』を顔から外しながら、その正体を明かそうとする。
仮面の下から現れるのは、普段のマリアックとは違う嘲笑の笑み。
その声も私の知る『マリアック・アリビュートという人間』ではなく、高音の男性の声へと変わっていく――
「この俺こそが"フェイキッドの亡霊"こと……フェイキッド・スクリーム本人なんだよぉおお!!」
――さあ。一度、お遊びはここまでとしましょうか。




