私は友人を助けます。
緊急事態発生。
マリアックの教会に火の手が――
「マ、マリアックの教会が……火事……?」
ファブリ様のその話を聞いた時、私は思わず一瞬固まってしまった。
それでも何とか気を取り直し、劇場の外に出てマリアックの教会がある方角を見てみる――
「も……燃えてる……」
「そ、そんな……!? 何でなのですわ……!?」
――遠目だが、マリアックの教会からは確かに火の手が上がっていた。
ココラルお嬢様も一緒に確認され、私と同じようにその光景に愕然とされている。
私は動揺しながらも、すぐさまサーチ系のスキルを発動させ、教会の中の状況を確認する――
「マ、マリアックがまだ教会の中にいます……! そ、それに……もう一人誰かが……!?」
「ど、どういうことですか!? そのもう一人の人が、教会に火をつけたのですか!?」
「分かりません……。ですが、マリアックが教会の中に取り残されていることは確かです……!」
私が確認できた教会内の状況を聞いて、ファブリ様も反応される。
マリアックの『命の流れ』は慣れ親しんでいるのでよく分かる。
もう一人の方は誰か判断できなかったが、この状況を考えるとファブリ様も言う通り、教会に火をつけた犯人である可能性は高い。
そしてその犯人が誰かを考えると、お屋敷で聞いた『あの人物のあの言葉』が思い浮かんでくる――
『今度はテメェのお友達を狙う』
――それは"フェイキッドの亡霊"が口にした言葉。
まさかあの人はまたあの時と同じように、私を脅すためにマリアックを狙って――
「……考えている時間もありません。私は教会へマリアックを助けに向かいます。ココラルお嬢様とファブリ様はどうか、クッコルセ団長達に救援を――」
「それなら、わたくしも一緒に行くのですわ! シスター・マリアックはわたくしのお友達でもありましてよ!」
「クッコルセ団長にはすでに伝えてあります! ボクも連れて行ってください!」
私が一人で教会へ向かおうとすると、ココラルお嬢様とファブリ様も同行を願い出てこられた。
お二方とも真剣な目をしておられる。
確かにこのお二方にとっても、マリアックは大切な友人だ。
それにクッコルセ団長にすでに連絡済みならば、私一人よりもお二方が一緒の方が力になってくださるかもしれない。
「……かしこまりました。私に掴まってください。全速力で教会に向かいます……!」
私はココラルお嬢様とファブリ様をそれぞれ片手で抱え上げ、全身に強化スキルをかけて地面を踏みしめる――
ダンッ!
――そこから一気に加速し、マリアックの教会へと全速力で向かう。
私の<清掃用務員>としての力が、火事という事態に対してどこまで通用するかは分からない。
それでも私は向かわずにはいられない。
親愛なる友人である、マリアック・アリビュートの危機。
それを聞いて動かない理由がない。
私はマリアックの友人として、必ず彼女を助け出してみせる――
■
「着きました! ッ!? こ、これは……!?」
「火の手が想像以上に上がっているのですわ!?」
「きょ、教会全体がもう燃え上がってますよ……!?」
――そして私はココラルお嬢様とファブリ様を抱えながら、大急ぎで教会へと到着した。
だがそこで目にしたのは、目を疑いたくなる光景――
――マリアックの教会はすでにその全身像を炎に飲み込まれてしまっている。
入口の扉も炎に覆われ、とても人が入れるような状況ではない。
「ッ!! 箒天戟! モデル『玄武』! 水場の水を、ありったけ吸い込んでください!」
それでも私はマリアックの救出を考える。
箒天戟を『海の清掃力』たるモデル『玄武』へと変化させ、近くの水場から吸い込めるだけの水を吸い込ませる。
こんな時に<収納下衣>にお掃除用の水を用意していなかったのは、誤算と言わざるを得ない。
洗剤の中には可燃性のものもあるため、迂闊に火に対して使うことはできない。
ならば今の私にできることは、今あるものだけでなんとしても教会の中へと入ること――
バキィィインッ!!
「え!? ク、クーリアが――」
「清掃道具で扉を叩き壊した……!?」
私は水を含ませた箒天戟を振り払い、炎に包まれた教会の扉を叩き壊す。
近くで見ていたココラルお嬢様もファブリ様も驚いているが、私は今、箒天戟をお掃除以外の用途で使った。
それは<清掃用務員>として、本来ならばあるまじき行為だ。
――だが、後悔は全くない。
私の<清掃用務員>としての流儀も、今は関係ない。
私はそれ以上に――
「急ぎましょう! マリアックはまだ教会の中にいます! 何としてでも助け出します!」
――友人であるマリアックを助けたい。
マリアックは確かにまだこの教会の中にいる。
私は箒天戟によって破壊された扉から、すぐに教会の中へと入る。
ココラルお嬢様とファブリ様も私に続いて、中へと入って来てくださる。
「あ、熱いのですわ……!?」
「は、早くシスター・マリアックを助けましょう!」
教会の中もひどい状況だった。
壁や天井は完全に炎で覆われ、今にも崩れ落ちそうだ。
見慣れた教会の景色が、完全に地獄絵図となっている――
「とにかくマリアックを探しましょう! 反応を見る限り、どうやら奥の私室に―― ッ!?」
私はお嬢様とファブリ様に声をかけながら奥へ進もうとした。
だがその時、私は教会の中心で、ある人物の姿を発見した――
「ク、クーリアちゃんか……? こ、こないなところにおったら……危ない……で……」
「タワキスさん!?」
――それは床に横たわっている、タワキスさんの姿だった。
私も急いで駆け寄るが、その容態を確認して寒気が走る――
「こ、これは……血ですか……!?」
「あ、ああ……。ウチとしたことが、まんまとやられてもうたみたいや……ゲホッ!」
――タワキスさんは銃弾によって、腹部を貫かれていた。
銃創を見る限り、タワキスさんを撃った銃は実弾銃"ホーク"によるものだ。
ということは――
「……"フェイキッドの亡霊"にやられたのですか?」
「せ、せや……。ようやく麻薬のルートも含めて、あの"フェイキッドの亡霊"とか言う奴の尻尾を掴んだんや……。せやけど、見事に不意打ちをくろうて、ウチの方がやられてもうた……」
――やはり、"フェイキッドの亡霊"の仕業だった。
タワキスさんは息も絶え絶えに状況を説明してくれる。
「"フェイキッドの亡霊"はまだこの教会におるみたいや……。ゲホッ! ク、クーリアちゃん……早う逃げて――」
「それはできません。私は今から友人を助けに向かいます。ココラルお嬢様、ファブリ様。どうかタワキスさんを連れて、先に外へ出ていてください」
タワキスさんの話を聞く限り、状況はこれまでにないほど最悪だ。
この教会にまだ"フェイキッドの亡霊"が潜んでいて、タワキスさんもこの大ケガだ。
マリアックも助けなければいけないが、タワキスさんを見捨てるわけにもいかない。
――この人のことは苦手だが、やっぱり私はタワキスさんに死んでほしくはない。
「クーリア! 一人で奥へ向かうつもりですの!? それこそ危ないですの!」
「ココラルお嬢様……どうか今この時ばかりは、私の話を聞いてください。タワキスさん自身も危険な状態です。すぐにここから脱出して、手当てに向かってください」
「……分かりましたわ。ですが、クーリア。必ずあなたもシスター・マリアックと一緒に、無事に生きて帰るのですわよ!?」
「それについてはお約束いたします。必ずや生きて戻ります」
私を引き止めようとするココラルお嬢様を制し、私は自然と零れた笑顔でお嬢様にその願いを届けた。
「ファブリさん! 急ぎますわよ!」
「は、はい! さあ! ボク達の肩に掴まってください!」
「な、なんでクーリアちゃんは残って――」
「いいから! 大人しくついて来るのですわ!」
ココラルお嬢様とファブリ様はタワキスさんに肩を貸しながら、教会の外へと脱出してくださった。
ひとまずタワキスさんのことはお二方に任せるしかない。
――私は再度教会の奥へと目線を向け、手に持った箒天戟を握りしめる。
たとえこの先に"フェイキッドの亡霊"が潜んでいようと、私の目的は変わらない――
「待っていてください、マリアック。必ずあなたを助け出してみせます……!」
友のためならば、<清掃用務員>としての禁忌にさえ手を出す!




