清掃対象:学園内大劇場
"フェイキッドの亡霊"のその叫び声と共に、"汚れ"の入った瓶が床へと叩きつけられて割れる。
そして割れた瓶の中から、大量の"汚れ"が霧にように辺りへと広がっていく。
「あ、あなた!? なんてことを――」
「止めれるもんなら、止めてみろよ。テメェの持つ、<清掃用務員>とかいうスキルでよぉお!!」
私の声も聞かず、"フェイキッドの亡霊"は捨て台詞を吐きながら、劇場の天井へと飛び移って天窓から姿を消してしまった。
"フェイキッドの亡霊"自身はいなくなったが、拡散された"汚れ"は劇場の中に残ったままだ。
「ゴホッ!? ゴホッ!? な、なんだこれ!?」
「く、苦しい……」
劇場内にいる役者や観客の人達が苦しみ始めている。
マズい。これは以前私が用水路の周辺でお掃除した時と同じ、ウイルスタイプの"汚れ"だ。
しかも濃度はあの時以上。早急にお掃除しないと、人々の命が危ない。
以前のように私が<洗風大掃>で空気清浄機の役割をすればいいのだが、ここで一つ問題がある――
「た、助けてくれ……!」
「か、体が……」
――人が多く、何より密集している。
さらにここは劇場という屋内だ。
以前のような屋外なら<洗風大掃>の風圧が人々に及ばないように調節できたが、この状況ではそれも難しい。
下手をすれば人々の方が<洗風大掃>で吹き飛ばされてしまう。
急がなければいけないのに、一体どうすれば――
「クーリア! あなたにはこの状況を打開する方法があるのですの!?」
「ココラルお嬢様……方法はあります。ありますが、今それをすると人々にまで危害が及んでしまいます」
そうして悩んでいる私の傍に、ココラルお嬢様が駆け寄って来られた。
私は聞かれ通りお嬢様に状況を伝えると、お嬢様はさらにお言葉を紡がれた――
「なら、わたくしにできることはありまして!?」
――そのお言葉は、お嬢様自身が私の力になってくれることの現れであった。
「……では、ここにいる人達を全員地面に伏せるようにしていただけませんか? お嬢様の<令嬢有頂天>ならば、それも可能と思われます」
「お安い御用ですわ! <公爵令嬢>スキルを甘く見ないでほしいのですわ!」
そして私はココラルお嬢様に対し、自然と協力を申し出ることができた。
――そうだ、私には頼れるお方がいる。
何も私一人でお掃除をする必要などない。
以前お嬢様もおっしゃっていた通り、私一人で背負う必要などない。
お嬢様自身が申し出てくれた以上、私は頼って構わないのだ。
――ココラルお嬢様と共に、私はこの清掃業務を完了させる。
「皆々様方! 今すぐその場に伏せてほしいのですわ!」
私の要望を聞いたココラルお嬢様は扇子を取り出して広げ、頭上へと掲げながら声高らかに宣誓された。
劇場の構造も利用し、お嬢様の<令嬢有頂天>の効果が乗せられた声が辺りへと響き渡る――
「え? え? 伏せればいいの?」
「な、なんで!?」
「分からないけど、とにかく伏せよう!」
――そして私が望んだとおり、人々は地面へと伏せ始める。
これでいい。これなら私が<洗風大掃>を使っても、人々が吹き飛ぶことはない。
「ありがとうございます、ココラルお嬢様。お嬢様もお伏せになってください。後は私にお任せを」
「頼みましたわ! クーリア!」
お嬢様も地面に伏せたのを確認し、声援を受けながら私は劇場の中心へと飛び上がる。
「頼みます、箒天戟。モデル『朱雀』!」
そして<収納下衣>から箒天戟を取り出して頭上へと掲げる。
今回は以前のように二本の専用ハタキを用意していないが、箒天戟のモデル『朱雀』ならば同じ役目を果たすことができる。
箒天戟の先端にまとわせるのは、次亜塩素酸水。
私自身の体にも<清掃能力強化・除菌疾走>をかけ――
「<洗風大掃>!!」
――箒天戟を頭上で回転させ、自らを空気清浄機へと変えた。
<洗風大掃>によって巻き起こった竜巻が大気中の"汚れ"を吸い寄せ、箒天戟の先端に宿した次亜塩素酸水によって、どんどんと清浄されていく。
「うぐぅ……!? こ、この竜巻は……!?」
「皆様! 耐えてくださいませ! しばらくの辛抱ですわ!」
ある程度威力は調整しているが、それでも劇場内の人々に<洗風大掃>の影響は出ているようだ。
そんな人々に対してココラルお嬢様は必死に呼びかけてくださっている。
――これは私も頑張らずにはいはいられない。
人々を一刻も早くこの苦痛から解放するためにも、私は一心不乱に箒天戟を回転させる――
ブワァァアアン!
――そして私は成し遂げた。
劇場内に霧散したウイルスタイプの"汚れ"を全て清浄し終え、ゆっくりと地面へと降り立つ。
"フェイキッドの亡霊"には逃げられてしまったが、まずは劇場内をお掃除できただけでも良しとしよう。
「お待たせしました、ココラルお嬢様、皆様。これにて、清掃業務完了でございます」
「でかしたのですわ! クーリア!」
地面へと降り立った私に、ココラルお嬢様が駆け寄って来てくださった。
そしてそのまま抱き着かれるが、なんだか暖かい気持ちになってくる。
「あ、あれ……? もう体が苦しくない?」
「あのメイドさんがやってくれたの……?」
これまで伏せていた人々も起き上がり、体調の確認をされている。
どうやら、無事に済んだようだ。
「それにしても、本物の"フェイキッドの亡霊"が出てくるとは思いませんでしたわ……」
「できれば追いかけたいところですが、今からでは遅いですね。とりあえずできることとして、クッコルセ団長に事態を報告しに行きましょう」
私とココラルお嬢様は劇場内の様子を確認して安心すると、外に出ようとした。
"フェイキッドの亡霊"の件については、まずクッコルセ団長に報告をするのが一番だろう――
「ハァ! ハァ! コ、ココラル様! クーリアさん! いらっしゃりますか!?」
「あら? ファブリさんですの? そんなに慌てて、どうされましたの?」
――そうして劇場の扉を出ようとすると、外からファブリ様が駆け寄って来られた。
何やら息を乱しておられるが、何かあったのだろうか?
先程の"フェイキッドの亡霊"の出現といい、私の体に悪寒が走る――
「シスター・マリアックの教会が火事なんです! 急いできてください!」
一難去ってまた一難。
どうにも慌ただしくなってきましたね。




