大反響のようです。
お掃除以外にも、お料理だってできるクーリアさん。
<メイド>ですから。
私が調理し、ココラルお嬢様が名付けた『フライドガリクー』。
その売れ行きは凄まじく、どんどんと在庫が減っていく。
「フライドガリクーください!」
「こっちには三つください!」
「かしこまりましたわ! 少々お時間をくださいませ!」
ココラルお嬢様はお客様の大行列の相手をしておられる。
ここのお店だけ、圧倒的に行列が凄い。
「クーリアさん! 追加のガリクーを持ってきました!」
「ありがとうございます。そちらに置いてください。こちらに完成したフライドガリクーがあるので、お客様にお願いします」
ファブリ様は調理用のガリクーの準備と、完成したフライドガリクーの運搬をしてくださっている。
ガリクーの在庫は店の奥にまだまだあるが、そんなことは気にならない売れ行きだ。
フライドガリクーと一緒に生のままのガリクーも販売しており、そちらも人気だ。
やはり、フライドガリクーでそのおいしさを味わえる効果が大きいのだろう。
「はいはい~。お会計は~、こちらになります~」
マリアックは会計担当だ。
椅子に座りながら、きっちりとお金の管理をしてくれている。
私が油を使って調理している都合上、『転ばれると困る』と考えた上での人員配置だったが、一応教会という施設を管理するマリアックには適任だったようだ。
そんなこんなで、忙しくも賑やかにお店は回り続ける。
この調子で行けばお昼を過ぎるころには、全部のガリクーを売り切れそうだ。
「くっ? クーリア殿達の店だったのか?」
「クッコルセ団長、お疲れ様です。あなたもガリクーを買いに来られたのですか?」
そんな行列の中には、クッコルセ団長の姿もあった。
この学園祭中の警備を担当しているようだが、その休み時間の合間を縫って来てくださったようだ。
そんな彼女もまたフライドガリクーを購入すると、おいしそうに頬張られている。
「くっ! うまい! これは人気が出るのも仕方ないな!」
「クッコルセ団長。よろしければ他の騎士の方々にも、買っていかれてはいかがですわ?」
「くっ! これはありがたい!」
そしてフライドガリクーをご満悦しているクッコルセ団長に、ココラルお嬢様のセールストークが入る。
流石はお嬢様。言葉とタイミングというものを実に理解しておられる。
圧倒的なまでの令嬢魂だ。
「ハハハー! これは実に興味深い店だ! ワッシも気になるな!」
さらにはジーキライ陛下まで現れた。
ただしその恰好はフクシマンのもので、口調もフクシマンだ。
ただ一点だけ違うところがあり、頭にテンガロンハットをかぶっておられる。
そのせいで陛下の特徴であるツルツル頭が隠れている。
これは正体を隠しているということだろうか?
そもそも、これで隠せているのだろうか?
「あっ! フクシマンなのですわ!」
「本当ですね! ボク、初めて会いました!」
――隠せているようだ。
ココラルお嬢様とファブリ様はその正体に気付かれていないようだ。
「くっ? どこかで見た格好だな? フクシマンだったか? 何者だ?」
さらにはクッコルセ団長も気づかれていない。
仮にも陛下の側近なのに、フクシマンの正体を見抜けないのは問題ではないだろうか?
「クッコルセ団長。フクシマンの正体はジーキ――むぐぅ」
「ハハハー!? メイドさん!? 少しお話したいことがあるなー!?」
そう思ってクッコルセ団長にフクシマンの正体を話そうとすると、突如そのフクシマンによって口を塞がれてしまった。
そして少し店の奥へと連れ出され、私と二人だけで話を始められる――
「……お主、以前クッコルセが"汚れ"に囚われていた時、フクシマンの姿をした吾輩に何をしたか覚えてるか?」
「大剣で背中を斬りつけました」
「では、クッコルセがフクシマンの正体が吾輩だと気づくと、何が起こると思う?」
「……以前のように、大剣で自害でしょうか?」
「いかにも。だからクッコルセには吾輩の正体を話していない。いいか、絶対に言うでないぞ? これは国王命令だ。……よいな?」
「か、かしこまりました……」
――その話の中で、私もいろいろ察することができた。
確かにクッコルセ団長なら、陛下の言う通りのことをやりかねない。
最後の方の陛下の言葉は完全に私を脅していた。
とても怖かった。覆面の下はヤクザルックなだけのことはある。
「さてと……。それにしても、『フライドガリクー』か。ワッシも初めて見る料理だな」
気を取り直した陛下――いえ、フクシマンは購入したフライドガリクーを手に取り、元のフクシマンの口調で観察しながら口へと運ばれる。
私が作ったお料理だが、フクシマンの前だと緊張が走る。
何せ<料理人>の上位スキル、<キュイジーヌ>をお持ちのお方だ。
私程度の者が作った料理がお口に合うかどうか――
「んっっっまぁぁぁあああいぃぃいいい!!」
――そんな心配をしていると、突如フクシマンが絶叫した。
「なんだこの料理は!? いや! この野菜は!? ガリクーだったか!? ええい! この野菜を仕入れたのは誰だ!?」
「ボ、ボクですが……。実家で育ててます……」
「お主か! 確か田舎からやって来た、ファブリ・フレグラだったな! よし! 今度お主の実家に王国の運搬馬車で買い出しに行く! また、栽培のための補助金や畑面積拡大についても、吾輩の方で全面的にバックアップする!」
さらにフクシマンはファブリ様にも話を聞き、ガリクー栽培促進計画を進めようとしておられる。
口調もフクシマンのものではなく、陛下のものに戻っている。
とにかく興奮が凄い。
「クッコルセ! ガリクーの栽培計画を重大案件とせよ!」
「くっ!? なぜアタイがよく分からない変な格好の奴に――」
「黙れ! これは国王命令だ! すぐに王城に伝令を出し、計画準備に取り掛かるのだ!」
さらにフクシマンはクッコルセ団長にもガリクー栽培促進計画を命じられた。
恰好こそフクシマンのままだが、その態度は完全に陛下のものだ。
――クッコルセ団長に正体を隠すという話は、どこへ行ったのだろうか?
「ガハハハッ! これは楽しみだ! 諸君! 実に良い体験をさせてもらった! 吾輩はこれにて失礼する!」
そしてフクシマンはその勢いのまま、立ち去られていった。
――ヒュゥウウ
その時、一陣の風が吹き抜けた。
その風によってフクシマンの被っていたテンガロンハットは吹き飛び、陛下本来のツルツル頭が露になった。
私達に背を向ける陛下の背中と太陽の光が合わさり、こちらに反射してくる。
とても眩しい。
「……さっきの人って~、もしかして~、ジーキライ陛下ですか~?」
「……その通りです」
一部始終を眺めていたマリアックも、流石にあのツルツル頭を見てフクシマンの正体が陛下であることに気付いたようだ。
もっとも最後の方は陛下自身の口調が戻っていたので、隠すも何もなかったような気はする。
とりあえず、陛下が私の作ったフライドガリクーに満足してくれたようで良かった――
「くっ……くっ? ま、まさか……フクシマンはジーキライ陛下……?」
「……あっ」
――ただ一つ、重大なことを忘れていた。
結局フクシマンの正体は、クッコルセ団長にもバレてしまった。
これはマズイ。
とにかく私がとるべき行動は――
「皆様! クッコルセ団長の動きを押さえてください!」
「え? クーリア? 何故なのです――」
「くっそぉおおお!!」
私が周囲に大声で呼びかけたのとほぼ同時に、クッコルセ団長が吠えた。
次の行動が分かっていた私は、素早く彼女の大剣を奪い取る。
ただならない状況だと察してくれたココラルお嬢様達も、周囲のお客様と一緒にクッコルセ団長の身柄を押さえてくださった。
フクシマンの正体がジーキライ陛下だと分かってしまった、クッコルセ団長。
そして自らがかつてフクシマンの姿をした陛下の背中を斬り裂いてしまったことも思い出し、<騎士>の誇りにヒビが入ってしまったようだ。
――陛下が恐れていた事態が、陛下のせいで形になってしまった。
「くっ!! 殺せぇええ!!」




