前世の味を思い出します。
クーリアによる殺人的ファッションショーのその後。
結局私はディアンドル風の店員用衣装から、いつものメイド服に着替え直した。
私としてもこちらの方がいいし、何より――
「ク、クーリアの店員衣装と笑顔の破壊力は想像以上ですの……! このままでは来てくださるお客様が、胸キュンで倒れてしまいますの……! 学園長のように……!」
――ココラルお嬢様もこうおっしゃる通り、私のあの姿は人にかなりのショックを与えてしまうようだ。
私自身も傷つくが、人の命には代えられない。
結局のところ、私はいつものロングスカートのメイド服が安定だ。
「フゥ……。と、とりあえず、お店の準備をしましょうか」
「ハァ~、ハァ~……。そ、そうですね~。もうすぐ学園祭も始まりますので~、商品の確認をしましょうか~」
ファブリ様とマリアックも息を整えながら、お店の開店準備を始めている。
仕方がない。半ば強制だったとはいえ、私のせいで皆様を苦しめてしまったのだ。
私もその失敗を取り戻すため、お店の方のお手伝いを頑張るとしよう。
「それで、こちらのお店で出す商品はどちらでしょうか? ファブリ様のご実家のお野菜だとは聞いているのですが」
「ああ、それなのですが、こちらにあります。ただ、ボクの実家で育てている野菜は、クセが強くて――」
私も準備のために商品の内容をファブリ様に尋ねてみたが、その言葉はどこか不安げだ。
そうは言いながらも、ファブリ様が店の奥から箱を持ってこられた。
そしてそこに入っていたのは――
「ううぅ!? こ、これは中々ニオイが強烈ですの……!?」
「うう~……。これは少し~、臭いですよ~。玉ねぎみたいですけど~、何のお野菜ですか~?」
「すみません……。これはボクの実家で育てている、『ガリクー』という野菜です……」
――大量の玉ねぎのようなお野菜だった。
ただそのニオイは強烈で、ココラルお嬢様もマリアックも鼻を押さえられている。
「ボクの故郷でもニオイのせいで、あんまり新規のお客さんがつかなくて……。ただ、味も栄養価も高いので、リピーターはついてくれるのですが……」
「確かにこの強烈なニオイでは、知らない人は手を出しづらいですね」
「はい……。この学園祭で売り出して、新規のお客さんを増やそうと思ったのですが、やはり難しいですよね……」
ファブリ様もこのガリクーというお野菜についての現状は理解しておられるようで、苦々しい表情をされている。
味も栄養価も高いのなら、一度でも味わってもらえれば分かってもらえそうだが、それもこの強烈なニオイの前では難しい。
――ただ、私はこのガリクーというお野菜を見た時から、何か感じるものがある。
それは<清掃用務員>としてでも、クーリア・ジェニスターとして生きて来た経験からでもない。
もしかするとこれは、前世で言うところの――
「ファブリ様。このガリクーというお野菜を、私の方でお料理してもよろしいでしょうか?」
「え……? か、構いませんけど……一体何をするつもりでしょうか?」
「そうですね。ちょっとした宣伝でしょうか」
私はあることを思いつき、ガリクーをお料理する許可をファブリ様から頂く。
そして私は一度校舎の調理室に向かい、必要な道具を取りそろえに行った――
■
「……よし。これで準備はできましたね」
――そうやって私はお店の前に、調理器具一式を用意した。
魔法で使える屋外用コンロ。
近くの水道から水を引いてきたシンク。
油の入ったお鍋。
その他の調理器具や調味料も、必要なだけ用意した。
「クーリア。ガリクーをお料理するのは分かりますが、とてもニオイがキツイですわよ?」
「このニオイをどうにかする方法が~、あるのですか~?」
ココラルお嬢様もマリアックも、不安そうに私のことを眺めておられる。
そんな私は<収納下衣>から粉末状の重曹を取り出し、ハンカチでくるんで軽く振り回せる形状にする。
――これで準備は整った。
私の狙い通りなら、これでガリクーのニオイは克服できるはずだ。
「ご安心ください。このクーリア・ジェニスターめが、ガリクーをニオイなく、そして美味しくしお料理してみせます」
準備ができた私はココラルお嬢様達に宣言し、早速ガリクーのお料理に入る。
私とてファインズ公爵家を代表する<メイド>として、お料理の心得はある――
ボォオオ! グツグツ!
――まずは鍋を火にかけ、中の油を温める。
ヒョイヒョイ! ジュワジュワ!
――油が温まったら、ガリクーを皮に包まれたまま油へと入れる。
そして右手に持ったお箸でガリクーを回しながら、中までよく熱が通るようにする。
ヒュンヒュンヒュン!
――そして調理の最中や未調理のものから出るガリクーのニオイは、左手に持った重曹ハンカチを回転させることで吸い寄せるようにする。
重曹が持つ消臭効果が役に立ち、ガリクーのニオイが周囲に広がることもない。
「……よし! 今です!」
そうしてガリクーが程よく油で揚がったところで、キッチンペーパーを敷いたお皿の上に取り出す。
無駄な油をキッチンペーパーで吸い取ると、今度はホクホクのガリクーを宙へと投げる。
そして私は右手に包丁を持ち――
シュパパパンッ!
――ガリクーを食べやすいサイズにカット。
<アサシン>スキルの刃物さばきが役に立つ。
宙を舞っていたガリクーを新しいお皿でキャッチして、後は塩コショウで軽く味付けすれば完成。
「皆様、どうかご試食願います」
「こ、これがガリクーなのですの……? 先程のようなニオイもしませんが……?」
「ボクもこんな調理方法は知りませんでしたが……」
「クーリアの手料理ということを差し引いても~、おいしそうですね~」
私は調理したガリクーの乗ったお皿を、ココラルお嬢様、ファブリ様、マリアックの前へと差し出した。
お三方とも不思議がっているが、お皿の上に乗った一口サイズのガリクーをお手に取り、口へと運ばれる――
「ッ!? な、なんですの!? このサクサクとしていて、ホクホクとした食感は!?」
「こ、これがガリクーなのですか!? ニオイは全然しませんし、何よりもおいしいです!」
「ん~~~! これがクーリアの手料理ですか~! おいひくて~、それになんだか~、元気も出ます~!」
――そして語られる、私がお料理したガリクーの感想。
お三方とも、どうやら満足していただけたようだ。
「これを一緒に販売すれば、ガリクーの良さが分かってもらえると思います」
「た、確かに……! クーリアさん! ありがとうございます!」
私の提案を聞き、快く了承してくださるファブリ様。
これは私も頑張ってお料理した甲斐があるというものだ。
「それにしても、よくガリクーの調理方法なんて分かりましたわね?」
「それについてですが、私の前世の記憶のおかげですね」
ココラルお嬢様に尋ねられながら、私も自分で調理したガリクーを一切れ口へと運ぶ。
――やはりおいしい。
この外はサクサクとして、中はホクホクとした食感。
体中に染み渡る活力。
前世でもよく口にしていたが、このガリクーと言うお野菜はサイズこそ玉ねぎほどあるが、前世で言う『ニンニク』だ。
ニンニクはまさに最大の栄養供給源。
私も前世ではお掃除の体力を維持するために、よく口にしたものだ。
油で皮ごと揚げる調理法で、ニオイがしなくなる点でも同じだ。
「ほえ~。クーリアの前世の知識って~、お掃除にしてもそうですが~、本当にすごいですね~……」
「私の知っている知識がたまたま役に立っただけです。逆に私はこちらの世界の知識については、まだまだ拙いところも多いので」
「ですが! これはいい販売方法なのですわ!」
マリアックに感心されながらも、ココラルお嬢様が今回の学園祭における方針を定められたようだ。
そしてディアンドル風衣装のポケットからいつもの扇子を取り出し、高らかに宣言された――
「『フライドガリクー』! 大発売なのですわ!」




