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学園祭が始まります。

さあ、学園祭の始まりです。

 私とココラルお嬢様が聖ノミトール学園に着くと、すでに学園祭の準備が始まっていた。

 校門に設置された、華やかな門。

 校舎に続く長い道に設置された、屋台の数々。

 校舎自体にも多くの飾り付けがなされ、多くの生徒達が準備を始めている。


「随分と大掛かりなのですね」

「ウォッシュール王国最大の教育機関、聖ノミトール学園の学園祭なのですわ。これぐらい大規模で当然なのですわ」


 私はココラルお嬢様の後ろをつきながら、準備をする生徒達の間を抜けて奥へと進んで行く。


「あっ! ココラル様のところのメイドさんだ!」

「よかった! 体調を崩したって聞いたけど、治ったのね!」

「またお掃除をしてくださるのですか!?」


 その途中、私は何人かの生徒達に声をかけられた。

 以前ファブリ様に頂いたお手紙の通り、本当に多くの方々が心配してくださったようだ。

 <清掃用務員>とは影で人々を支える者だが、こうやって思いを言葉をされると、実にありがたい。


「クーリアさん! 是非私達にもお掃除の指南を!」

「こっちを向いてくださーい!」


 ただ、どうにも声をかけてこられる人数が多い。

 以前ココラルお嬢様が"汚れ"に心を蝕まれていた時の、陰湿な取り巻き令嬢達まで私の方にやって来た。

 それ自体はありがたいことだ。決して無碍にするつもりはない。


「クーリアさん! どうか……どうか回復祝いにサインをください!」

「わ、わひにも頼む!」


 それでも、やはり人数が多すぎる。

 勇者科の担任の先生や学園長までやって来てしまった。

 いつの間にか私はココラルお嬢様の隣で、大勢の人々に囲まれてしまった。


 ――ここまで人が多いと、私の方が圧に負けてしまう。

 前世でだって、ここまで大勢の人々に思いの言葉を向けられたことなどない。

 あまりに慣れていないことなので、緊張で心臓がバクバクしてくる。

 治ったばかりだというのに、また倒れてしまいそうだ。

 やはり仮にも、『聖ノミトール学園非公式人気投票』で一位になってしまった効果は大きいようだ。


「すみません。ここまで来ると、流石に恥ずかしいです……」

「クーリア。気持ちは分かりましたの。分かりましたので、わたくしの後ろでしゃがんで隠れるのは、やめて欲しいですの」


 あまりの恥ずかしさから、私はココラルお嬢様の背中に回って隠れてしまった。

 主を盾にしているようでこれまた恥ではあるが、それ以上にこの恥ずかしさに耐えられないのだ。


「皆々様方! クーリアが困っているのですわ! まだ病み上がり故、これ以上はご遠慮願いたいのですわ!」


 そんな私の気持ちを汲み取ってくださったお嬢様が、人々に声をかけて私の周りから遠ざけてくださった。

 皆様のお気持ちはありがたいのだが、私にも限度がある。

 普段は"静"の清掃魂(セイソウル)に基づき、私は空気のように颯爽とお掃除をしているが、祀り上げられるのは苦手だ。


「ありがとうございます、ココラルお嬢様。恥ずかしさのあまり、心臓が爆発するかと思いました」

「先日まで心臓を患っていたクーリアが言うと、あまり冗談になりませんことよ……」


 私はお嬢様にジト目で睨まれながらも、再び立ち上がって歩き始めた。

 またしてもお嬢様のお手を煩わせてしまった――


「ですが、クーリアも少しは素直に気持ちを表してくれるようになってくれましたわね。そこについては、わたくしも主として嬉しいことでしてよ」


 ――ただ、不思議とそこまで悪いことをした気にはならない。

 先程の私は自然とココラルお嬢様を頼っていた。

 これまではまず最初に自分一人で解決しようとしたり、抱え込もうとしてしまったり、とにかくそういう風に考えてから行動に移っていた。

 それでも今回自然とお嬢様を頼れたのは、より信頼できたことへの成長なのではないかと思う。


 私が無茶をして倒れたことは大きな失態だが、私は確かに成長している。

 それは<清掃用務員>としてではなく、一人の人間としてだ。

 私はこれまで以上に、『頼れる相手を信用できる』ようになれてきたようだ。





「あっ! クーリアさん! よかった! 無事に治ったのですね!」


 そうしてしばらく歩き続けると、ファブリ様が立たれた露店にやって来た。

 店員用の衣装なのだろうか。可愛らしいディアンドル風のミニスカートの衣装を身に着けておられる。

 ファブリ様の愛くるしい姿も相まって、実によく似合っておられる。


「クーリア~! 元気になって~、よかったで――うわわ~!?」


 私がファブリ様の姿を鑑賞していると、マリアックも私の傍に駆け寄って来た。

 そして、いつもの如く転びかける。

 流石に私も慣れてきたので、すぐさまマリアックの元に駆け寄って転ぶ前に受け止める。


「まったく……。私の体は治っても、マリアックのドジは治らないのですね」

「うあ~ん、ひどいですよ~。クーリアがいじめます~」

「いじめてません。ウソ泣きはやめてください」


 私に受け止められたマリアックだが、わざとらしくウソ泣きをしてくる。

 マリアックが転ぶのはいつものことだが、こういうコミュニケーションは初めてする。

 私の看病をしてくれた時もそうだが、マリアックとの距離もだいぶ縮まってきた気がする。


 私も少しずつだが、『人との自然な関係の築き方』が分かってきたようだ。




「さてと……。それでは、クーリアにも準備をしてもらいますわよ」

「え? 準備ですか?」


 マリアックが立てるように支え直すと、ココラルお嬢様が何やら手に衣装を抱えて私の方にやって来られた。

 いつの間にかお嬢様自身もファブリ様と同じ、ディアンドル風の衣装に着替えておられる。

 とてもよくお似合いである。


「クーリアにもこのお店の店員をしてもらいますわ。そのためにもわたくしやファブリさんと同じ、この店員用衣装に着替えてもらいますのよ」

「私も着替えるのですか? マリアックは修道服のままですよ?」

「私は教会のお仕事も~、ありますので~」


 どうやらお嬢様が持っておられる衣装は、私のために用意されたもののようだ。

 マリアックは修道服のままで大丈夫なのに、私は着替えないといけないというのはどうにも不服だ。


「メイド服のままではダメですか?」

「前々から思っていたのですが、クーリアは前世の記憶が戻ってから、メイド服への執着が強すぎますの」

「好きなんです、メイド服。やっぱり、メイド服のままがいいで――」

「いいから着替えるですの! たまには他の服も着ますの!」


 お嬢様に反論はしてみたものの、認めてもらえなかった。

 仕方ないので私は<メイド>スキルの<仕切り大布(パーテースカーフ)>で一度身を隠し、与えられた衣装に着替える。

 せっかくメイド服に戻れたのに、これは非常に残念であるが、お嬢様の命令なので仕方ない。



 バサッ



「お待たせしました。これでよろしいでしょうか?」


 着替え終わって<仕切り大布(パーテースカーフ)>を解除し、私は再びお嬢様達の前に現れる。

 衣装に合わせて髪型もポニーテールにしてみたが、何よりも足がスースーして仕方ない。

 こんなに短いスカートを履いたのなんて、<アサシン>時代以来だ。

 あの時だってタイツは履いていたし、今はニーソックスの間が空いてて風通しが良すぎる。

 何よりこういうミニスカートは、ココラルお嬢様達のような若い少女が着てこそ輝くものだ。

 私は現在二十五歳。正直、色々キツイ。


 そんなこともあってお嬢様達の反応も――


「こ、これは……想像以上ですの……!」

「ボ、ボクも想像以上です……!」

「本当に想像以上ですね~……!」


 ――あまりよろしくない。

 驚いた表情をして、『想像以上にひどい』と感じておられるのが見受けられる。


「申し訳ございません。すぐにメイド服に着替え直します」

「ダ、ダメですの! せっかくの美脚ラインが台無しですの!」

「そうですよ! ポニーテールから見えるうなじだって、台無しになっちゃいます!」


 着替え直そうとする私に、ココラルお嬢様とファブリ様が止めに入ってくる。

 おっしゃってる言葉の意味は分からないが、『台無し』と言うぐらいなら素直に元に戻させてほしい。


 ――少し悲しくなってくる。




「クーリア~、ダメですよ~。そんなに悲しそうな顔だと~、かわいく見えませんよ~?」

「なにをひゅるのでふひゃ? まりあっひゅ?」


 私が自己嫌悪に陥っていると、マリアックが私の顔に手を当ててムニュムニュといじり始めた。


「もっと緊張しないで~、やわらかい感じで~、笑顔になりましょう~」


 マリアックはそう言いながら、私の顔から両手を離してくれた。

 成程。確かに笑顔になれば、今の私のどぎつい格好でも、少しはマシに見えるかもしれない。

 私は<清掃用務員>。

 改善するための努力は怠らない。




 ――イメージしろ、クーリア・ジェニスター。

 マリアックのようなほがらかな笑顔で、しかして自然な感じの笑顔を。

 ここ最近、私を支えてくださった方々の姿を思い浮かべれば、自然とできるはずだ。


 私自身の無理のない笑顔を――




「皆様~! この私、クーリア・ジェニスターも頑張らせてもらいますね~!」




「ですのぉ!?」

「ぼくぅ!?」

「んん~!?」


 ――そうして私なりに頑張った笑顔、声、振舞いだったが、やはり評判はよろしくない。

 ココラルお嬢様も、ファブリ様も、マリアックも、突然胸を押さえてその場にうずくまってしまった。


 ――そこまで苦しそうな反応をされると、流石にショックである。




「こ、これは本当にダメージが大きいのですわ……! まさかクーリアに、ここまでの可能性が存在して――」

「た、大変です! ココラル様! そこの茂みで学園長が胸を押さえて、息苦しそうに倒れてます!」

「ほひゅー……! ほひゅー……!」


 さらにはなぜか近くの茂みにいた学園長まで、胸を押さえて苦しんでいる。

 息も絶え絶えで、今にも死んでしまいそうだ。


「も、申し訳ございません! 学園長! 私のせいでこのような目に――」

「い、いや……わひは感無量じゃ……! あなたの姿を見て死ねるなら、悔いは……な……い……」

「が、学園長~~!?」


 私とマリアックがすぐに介抱するも、学園長はそのまま意識を失われてしまった。

 すぐにマリアックが回復魔法を唱えたおかげで一命はとりとめたが、私はとんでもないことをしてしまった――




 ――私のどぎついディアンドル風衣装のせいで、人の命を奪いかけた。

 <清掃用務員>として人々の命のためにも、今後はメイド服のみ着ていよう。

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