ようやく元に戻りました。
"フェイキッドの亡霊"による襲撃から、さらに一週間ほど経った。
かなり時間はかかってしまったが、私の体はようやく元通りに動かせるところまで回復した。
心臓の痛みもなくなり、体も軽い、
マリアックが毎日わざわざお見舞いに来て、私に回復魔法を使ってくれたおかげでもある。
本当に感謝してもしきれない。
今度はこちらから出向き、きちんとお礼をしよう。
「ようやくクーリアも元通りになったおかげで、わたくしも一緒に登校できて嬉しいですわ」
「ご心配をおかけして、申し訳ございません。ココラルお嬢様」
ココラルお嬢様も私の快復を祝ってくださっている。
私も今日からココラルお嬢様の登校に再び付き添うようになり、いつもの生活が戻ってきたことを実感する。
服装もようやくメイド服に戻り、髪も結び直して気合いが入る。
「先日も申しました通り、クーリアへの仕事の負担は減らしておきましたわよ」
「お気遣い、感謝いたします」
「<収納下衣>の中身についても、わたくしの方で見繕い直しましたわ」
ココラルお嬢様はわざわざ私への負担が減るよう、自ら動いて配慮までしてくださった。
<収納下衣>も私と一緒に相談した上で、必要なものだけを入れるようにした。
各種洗剤の入ったボトルは半分以下、水についてはその場で随時補充するため不要。
お嬢様のティータイム用のテラスセットも必要なく、予備の清掃道具ももう入っていない。
極・清掃三種の神器だけを用意し、他に何か必要となった時はその場で相談して用意する。
もちろん、ポーションももう入れていない。
「お嬢様と相談したおかげで、体も大分軽くなりました」
私は軽くその場で飛び跳ねてみる。
身体能力を強化するスキルは一切使っていないのに、それだけでお屋敷の屋根のあたりまで飛び上がることができた。
本当に体が軽い。何度も飛び跳ねてみるが、まるで問題ない。
今までが重すぎた分だけ、解放感が非常に大きい。
きっと前世で読んだ漫画の修行の成果というのも、こういうものなのだろう。
「み、見えたぁあ!! クーリアちゃんのパン――ツブゥウ!?」
「まぁた来たのかよ、お前さんはぁ……。本当に懲りねぇなぁ……」
――迂闊。タワキスさんが草陰から私の様子を伺っていたようだ。
またしてもスカートの中の下着を見られてしまった。
幸いスミスピア様が撃退してくれたが、下手をすればまた襲われているところだった。
「……クーリア。人前であまり飛び跳ねるのは、はしたないですわよ」
「申し訳ございません。ココラルお嬢様……」
お嬢様にまで叱られてしまった。
確かにいつどこにタワキスさんの目があるか分からない。
そう考えると、飛び跳ねてスカートがめくれ上がるのは避けた方が賢明だ。
今後は<収納下衣>の使用も含めて、タワキスさんのいないところでスカートをめくるようにしよう。
「ところで、ココラルお嬢様。本日の学園の予定はどうなっているのでしょうか?」
「それなのですけど、今日から聖ノミトール学園の学園祭が始まるのですわ」
スミスピア様に取り押さえられるタワキスさんを尻目に、私はお嬢様と一緒に学園への通学路を歩いていた。
そんな時に私が尋ねて耳にした、『学園祭』というお言葉。
私も随分長い間休んでいたため、聖ノミトール学園の行事もいつの間にか進んでいたようだ。
「実のところ、少し前まではクーリアにも学園祭のお手伝いをしてもらおうと思っていたのですわ」
「私にですか?」
「ええ。ですが、結局クーリアの快復は今日この日まで伸びてしまったのですわ。流石に病み上がりのクーリアに、無理は頼めませんことよ。楽しみにしていたのに、残念ですわ……」
ココラルお嬢様はそれは残念そうにされている。
私の体を気遣ってくださることは嬉しい。
だが、そのためにお嬢様に残念な思いをさせることは、とても気が引ける。
――ここは考えろ、クーリア・ジェニスター。
ココラルお嬢様は私の身を案じてくださり、ご自身の楽しみを放棄されたのだ。
その優しさを無碍にするわけにはいかないが、お嬢様の楽しみを奪うのも心苦しい。
私だって、親愛なるココラルお嬢様と一緒に学園祭などという一大イベントを、このまま放棄したくない。
ここは<清掃用務員>として培ったノウハウとクーリア・ジェニスターとして生きてきた経験をもとに応用力を働かせ、お互いがウィンウィンとなれる結論を導き出すのだ――
「ココラルお嬢様。このクーリア・ジェニスターも、是非とも学園祭のお手伝いをしたいと思います。決して無理は致しません。お嬢様のお傍におりますがゆえ、どうか私にもお手伝いをさせてください」
「クーリア……嬉しいのですわ。わたくしも絶対に無茶はさせませぬゆえ、一緒に学園祭を楽しむのですわ!」
ココラルお嬢様の表情に明るさが戻った。
やはり、意見をすり合わせた上での結論は重要だ。
私もしっかりこの結論を守り、与えられるであろう役目を全うしよう――
「それで、私はどこのお掃除をすればいいのでしょうか? 校舎内のお掃除ですか? それとも会場のゴミ拾いですか?」
「お掃除から頭を離すのですわ。この清掃ジャンキーが、ですの」
――ただ、そんな私に与えられるお仕事は、お掃除ではないようだ。
お嬢様にまたしても私のことを『清掃ジャンキー』などと呼ばれながら、背伸びして取り出された扇子で頭をコツンとされた。
なんだか最近、お嬢様の私に対する扱いが時折キツくなってきた気がする。
――だが、嫌な気はしない。
妙な話だが、むしろお嬢様との距離が近づいた気がする。
「クーリアには出し物の手伝いをしてほしいのですわ。わたくしはファブリさんの実家から届いたお野菜で、協力してお店を開いているのですわ」
「成程。私の役目は店員ですか」
そんなココラルお嬢様との話の中で出てきたのは、学園祭での出し物についてだった。
お嬢様のご友人であるファブリ様と一緒にお店を開くとは、本当にお二方とも仲が良くなったものだ。
「シスター・マリアックにも協力してもらって――」
「俄然、燃えてきました」
「……反応が早いですわ」
お嬢様からさらにマリアックの名前が出てきて、私は思わず話を遮る形で反応してしまった。
これはいけない。テンションが上がり過ぎてしまった。
それでも私にとって、友人のマリアックと一緒に学園祭というのは楽しみが増す。
病み上がりで無茶はいけないが、思わず心も体も弾む。
ピョーン ピョーン
「クーリア! だからむやみやたらに飛び跳ねるのは、やめるのですわ!」
「あっ、申し訳ございません。ココラルお嬢様」
気が付くと、私は本当に飛び跳ねて体が弾んでしまっていたようだ。
またしてもお嬢様のはるか頭上まで飛びあがったせいで、注意を受けてしまう。
――ただ幸いなことに、今回はタワキスさんは襲ってこなかった。一安心だ。
「いずれにせよ、無理はしないでほしいのですわ。これはわたくしからの命令ですわよ」
「重々承知しております。このクーリア・ジェニスター、全力で無理なく業務に当たります」
「……『全力』と言ってる時点で、少し気になるですの」
そんなココラルお嬢様と何気ない会話をしながら、一緒に聖ノミトール学園へと歩いていく。
やはりこうして一緒にと登校していると、日常が戻ってきたのを感じる。
こういう何気ない日常は私にとってかけがいのないものであり、何よりも大切なものだ。
<清掃用務員>として"汚れ"へと立ち向かう必要もあるが、今はこの時間を満喫しよう。
そのためにも、私はお嬢様に確認を取りながら歩き続ける。
「ココラルお嬢様。お店のゴミの分別は、このクーリアにお任せくださいませ」
「だから! お掃除から離れるですの! この清掃ジャンキーが! ですの!」
仕方ないんだ、ココラルお嬢様。
一週間以上お掃除から離れてたから、禁断症状が出てるんだ。




