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私は狙われているようです。

「麻薬……ですか!? そ、そんな……私が飲んでいるポーションに、そんなものが入るはずが――」

「いや、間違いなく入っておる。成分を見る限り、中毒性と覚醒作用があるものだな……!」


 ジーキライ陛下の分析結果を聞いて、私は耳を疑った。

 私が飲んでいたポーションに麻薬が入っていた――

 そんなことある訳がないと思ったが、陛下の声は真剣だ。


「クーリアよ。お主以外にこのポーションを飲んだ者はおるのか?」

「いえ……。最近は私専用に仕入れていましたし、他の者は誰も飲んでいません……」

「すると、なんだぁ? もしかして、クーリアの姉ちゃんだけが狙われてるってぇことかぁ?」

「おそらくな。クーリアがこのポーションを飲むことを知り、何者かが麻薬を仕込んだと考えるのが自然だな」


 陛下はさらに私に対し、ポーションについての確認をとってこられる。

 幸い、このポーションを飲んだのは私だけだが、ここでスミスピア様も話された言葉が気になってくる――




 ――私は誰かに狙われている。




「このポーションに含まれる麻薬だが、かなりいろいろな種類の原材料を混ぜ合わせているな。こんなポーションを飲み続ければ、嫌でも心臓に負担がかかってしまう。クーリアが職務に没頭してしまったのも、これの覚醒作用が原因やもしれぬ」

「おいおいぃ……。それってよぉ、完全に命を狙われてるんじゃねぇかぁ?」

「うむ。おまけに<医者>スキルでも見分けられない原材料を使い、調合面でも隙がない。吾輩の<キュイジーヌ>のスキルでないと、これは見破れぬな……!」


 陛下とスミスピア様の話を聞いて、私は寒気が止まらなくなってくる。

 私は本当に命を狙われていて、下手をすればそのまま死んでいた。

 しかもこんなことをした犯人は相当な手練れだ。

 私も元<アサシン>だから多少は分かるが、麻薬の調合など簡単にできるものではない。

 それが<医者>スキルでも見破れないとなるとなおさらだ。


 こんなことができる人間は、裏社会でもいるかどうか――



 バタァンッ!!



「お、おい! ジーキライ! スミスピア! クーリアの命が狙われていると聞こえたが、それは本当か!?」

「ウチも聞こえたで! ウチのクーリアちゃんの命を狙うやなんて、どこの輩や! すぐに『ホトトギス』の総戦力でぶちのめしたるわ!」


 ――そうして考えていると、部屋に旦那様とタワキスさんが押し入って来た。

 なお、タワキスさんは旦那様によって縄でグルグル巻きにされ、肩に担がれている。


「聞こえていたか、アトカル。吾輩の見立て通りなら、おそらく間違いないな」

「くそ! わしの大事な家族であるクーリアの命を狙うなど、一体どこのどいつの仕業だ!?」

「それについてはまだ分からぬ。だが、丁度お主が犯人を見つけられそうな者を連れてきてくれたようだ」


 旦那様も私のことを心配してくださっているようだ。

 肝心の犯人については分からないが、陛下はフクシマンの格好のまま、何やらメモを取り始める。

 そしてそのメモを旦那様の肩に乗せられた、縄でグルグル巻きのタワキスさんへと見せ始めた。


「『ホトトギス』のボス、タワキス・ユリアンヌだったな? お主ほど裏社会に精通した者なら、ここにある麻薬の原材料の出所も探れるのではないか?」

「なんや、この変な格好のオッサンは? それにこのメモに書いとるの、麻薬なんやって? 確かにウチなら出処ぐらいは探れそうやが、時間がかかる――」

「ここに書いてある麻薬が、クーリア・ジェニスターの命を狙っていた」


 最初は陛下が身に着けておられる、フクシマンの異様でダサい格好を見て難色を示すタワキスさんだったが、最後の言葉を聞くと表情が一変した。

 一度物凄く真面目な顔になると、今度は歯を食いしばりながら怒りを滲ませ始める。


 そして――



 ブチブチブチィイ!!



「許さへんでぇええ!! これがクーリアちゃんの命を狙った犯人の手掛かりなんやな!? ほんなら、ウチに任せとけや! この裏社会を取り仕切る『ホトトギス』のボスにして、クーリアちゃんのお姉ちゃんのタワキス・ユリアンヌ様が、絶対に犯人を見つけ出したるわぁああ!!」


 ――自らの体を縛っていた縄を引きちぎりながら、大声で宣誓した。


「なんだこの変質者は!? ギチギチに縛っておいたのに、力尽くで抜け出しただと!?」

「今は放っておけ、アトカル。こういう情報を得るためには、裏社会に精通した者の力が必要だ」

「まぁ、ジーキライの言う通り、ここはこの『ホトトギス』のボスの力を借りるのが一番だなぁ」


 そんなタワキスさんの姿を見て、驚く旦那様。

 だが陛下もスミスピア様も、『そんなことは関係ない』といった様子だ。

 確かにタワキスさんなら、この麻薬の出処が分かるかもしれない。


「待っとれや! クーリアちゃん! ウチが必ずこの麻薬の出処を探り出して、犯人も見つけたるさかいなぁ! かわいい妹の命を狙う輩なんて、絶対に許さへんでぇええ!!」


 そしてタワキスさんはそう絶叫しながら、大急ぎで部屋を飛び出していった。

 私はあの人の妹ではないし、何よりあの人が苦手なのだが、今は頼りにさせてもらおう。


「わしの方でも、ポーションの納入業者を洗ってみるか……」

「吾輩も万一のことを考え、国内に流通しているポーションの検査が必要だな……」

「どうにも、きな臭くなってきたなぁ……」


 旦那様も陛下もスミスピア様も、渋い顔をして考えておられる。

 私が過労で倒れただけかと思われた今回の騒動だが、もしかすると裏でとんでもない事件が起こっているのかもしれない。


 かつての私も<アサシン>として命を狙うことはあった。

 その逆で任務の最中に命を狙われることもあった。


 ――まるであの日々が蘇ってくるようで、言いようのない恐怖が襲ってくる。




「クーリア、安心しろ。お前のことはわしらが守ってやる」

「旦那様……ありがとうございます」


 そんな私の恐怖心を感じ取ってくださったのか、旦那様は優しく私の頭を撫でながら慰めてくださった。

 今の私は体の自由も効かず、とにかく無力だ。


 ――今の私には旦那様達の力が必要だ。





 その日の夜は不安ながらも、なんとか眠りについた。

 あの後もお屋敷の中は慌ただしかったが、幸い今のところは大丈夫なようだ。


 命を狙われているのが私なら、まずは私がこのお屋敷を離れるのが本来の選択だろう。

 それでも私は離れたくない。




 今はただ、私のことを"家族"と呼んでくださる方々のお傍にいたいのだ。




「んんぅ……。少し目が覚めましたか……」


 それでも不安はぬぐい切れないようで、私は真夜中に目が覚めてしまった。

 眠り眼を擦りながら、ベッドの上で目を開けようとする――






「どうやら、目が覚めたみてえだな」




 ――その時、私しかいないはずの部屋で声がした。

 そして私が目を開けた先には、ある人物が立っていた――




「久しぶりってところか。クーリア・ジェニスター」

「"フェイキッドの亡霊"……!?」

それにしてもこの亡霊、クーリアが起きるまでずっとスタンバってたのか?

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