さらにお見舞いに来てくださりました。
マリアックとファブリ様がお見舞いに来てくれて、タワキスさんが追い払われた翌日も、私は大人しく自室のベッドの上で横になっている。
タワキスさんが鼻血で汚した床も、後輩メイドが綺麗にお掃除してくれた。
こういう時、後進の育成に力を入れていてよかったと、心から思える。
「寝てるだけというのは退屈ですが、今はしっかり休みませんとね」
昨日以降、私はココラルお嬢様達の言いつけを守り、自室でひたすら一人療養に努めている。
まだ体も重く、心臓の痛みも残っているが、多少はマシになって来ている。
それでももう、『お掃除をしたい』とワガママは言わない。
私の家族であるファインズ公爵家や、マリアックのような友人のためにも、とにかくこの体を治すのが先決だ。
「クーリア先輩! お客様がお見えです! お見舞いみたいです!」
そんな私一人の部屋に、後輩メイドが元気よく入って来た。
まだ治りきっていないこの体に大声は響くが、私のためにお見舞いに来てくださった方がいるなら、ひとまずお会いしたい。
「分かりました。どうぞ入ってもらってください」
私は後輩メイドに申し出て、お見舞いに来てくれたお客様を通してもらった――
「ゲホッ! よ、よぉ……クーリアの姉ちゃん……。た、倒れたって聞いたがよぉ……だ、大丈夫かぁ……?」
「……すみません。あなたの方が大丈夫でしょうか?」
――そうして入ってきたのは、スミスピア様だった。
スミスピア様もまた私を心配してお見舞いに来てくださったようだが、どこか様子がおかしい。
全身に巻かれた包帯。
体を支えるための松葉杖。
顔の傷はさらに増えて、十字傷が二重に重なっている。
――ハッキリ言って、スミスピア様の方が大丈夫ではない。
「へへっ……ゴホッ。この傷かぁ? まぁ……オレも色々あったからなぁ……ゲホッ」
私以上に息も絶え絶えで、今にも死にそうなスミスピア様だが、なんとか気力を振り絞って私に事情を話してくれた。
「な、なんとかカミさんと無事にヨリを戻せてなぁ……。こ、これは名誉の負傷ってぇやつだぁ……」
「……そうですか」
どうやら、スミスピア様は奥さんとヨリを戻せたらしい。
『そもそも全身の大ケガは大丈夫なのか?』や、『それは無事と言えるのか?』など、言いたいことは色々あったが、深く詮索はしないことにした。
私自身今の体調では、その話を聞くのも疲れると思ったし、何より聞いても無駄な気がした。
――きっとあの傷はスミスピア様と奥さんの愛情の証なのだろう。
私は無理矢理、心の中でそう納得させた。
「そういえば、ジーキライの奴もこっちに向かってるそうだぁ」
「ジーキライ陛下まで来られるとは……。流石に公務の合間に来られると、申し訳なくなってきます」
「心配するなぁ。あいつは筋肉ダルマでハゲでイカツイ外見だが、そこのところはしっかりわけまえてるさぁ」
さらにスミスピア様の話から、ジーキライ陛下もお見舞いに来てくださっていることが分かった。
スミスピア様もおっしゃる通り、確かに陛下はムキムキつるっぱげヤクザだが、フクシマンとしての福祉活動など、民に対して深い愛情を持っておられる。
それでも一国の主が私のような<清掃用務員>のためにお見舞いに来られると、わきまえられていても申し訳なくなってくる。
私の無事をお伝えしたら、すぐにお帰りいただいた方が――
「おい! クッコルセ! 早くあの変質者を捕らえよ!」
「くっ! かしこまりました! 今度こそあの変質者を、このクッコルセが捕らえてみせます!」
「あの変質者め! またクーリアを狙いに来たのか!? 今度という今度は許さん! とにかく縄で縛り付けてくれる!」
――いや、やはり少しの間はいて欲しい。
部屋の外から聞こえる声だけでも、なんとなく状況は分かる。
おそらく、タワキスさんがまたこのお屋敷に忍び込んだようだ。
そして、それを陛下の命令で動いた付き添いのクッコルセ団長と旦那様が捕まえようとしている。
――もう、見なくても状況が分かってしまう。
「チィ! あの変質者め! なんであんな奴が『ホトトギス』のボスをしているのだ!?」
そして私の部屋には、陛下だけが愚痴を言いながら入って来られた。
「なんだぁ、ジーキライ? 変質者ってぇのは、例の『ホトトギス』のボスかぁ? さっさと捕まえて、牢屋にでも入れちまえよなぁ」
「吾輩だって、できるものならそうしたいわ! だが、仮にもこの国の裏社会を牛耳る組織、『ホトトギス』のボスを投獄したとなれば、抑止力やパワーバランスも崩壊して、治安は悪化するばかりだ!」
「陛下も大変ですね……」
私の部屋に入ってきた陛下は、とにかく愚痴を述べられていた。
一国の主という立場も大変なようだが、陛下の言うことも一理ある。
それほどまでに『ホトトギス』という組織は昔から、このウォッシュール王国に影響を与える組織なのだ。
――そんな組織のボスを、タワキスさんがやっている理由もよく分からない。
「ああ、すまぬな、クーリアよ。お主の見舞いに来たはずなのに、何やら妙な騒動を起こしてしまったようだ……」
「お気になさらないでください。私としても、陛下にいていただく方が心強いです」
陛下は頭を下げられるが、今のこの状況で陛下がいてくれるのは助かる。
陛下はムキムキで強い。
万一タワキスさんがここまで押し入って来ても、陛下がいれば何とかなるかもしれない。
私が寝たきりの状態なので、申し訳ないが陛下に頼らせてもらおう。
「それにしても……聞いたぞ、クーリアよ。お主、相当無茶をしていたそうではないか?」
「誠に申し訳ございません。ココラルお嬢様や旦那様からもお叱りを受け、今後は自分の体も大事にするようにします」
「まったくだぞ……。ポーションをがぶ飲みして疲労をごまかしていたそうだが、そこまで効果があるはず――んんぅ?」
陛下もお嬢様達と同じように私へ注意するが、その最中に部屋の片隅にあったポーションへと目を配られた。
私が以前無理をしていた時に飲んでいたもので、とりあえず部屋の隅に置いていたのだが――
「……クーリアよ。このポーションはどこで手に入れたものだ?」
「お屋敷にいつも出入りしている業者のものですが?」
「ふむ……妙だな。暫し待っていてくれ――」
どうやら陛下は私が飲んでいたポーションが気になるらしい。
何の変哲もないただのポーションのはずだが、おかしなところでもあったのだろうか?
私がそんなことを考えていると、突如陛下が胸の前で腕をクロスさせるポーズをとり――
「変身! フクシマン!!」
カッッ!!
――まばゆい光と共に、フクシマンへと変身した。
「なぁ、ジーキライ。前から思ってたんだけどよぉ、ホントだせぇよなぁ。そのフクシマンとか言う恰好ってよぉ……」
「う、うるさい! 吾輩だってスキルのレベルを上げるために、仕方なくやっているのだ! 文句があるなら、吾輩のご先祖様に言え!」
陛下ことフクシマンはスミスピア様に苦言を呈されているが、そんなことは関係ないとばかりに手に取ったポーションの観察を始められる。
「吾輩の<キュイジーヌ>のスキルがあれば、飲食物の成分を正確に分析できる。少々気になる点がある故、調べさせてもらうぞ」
どうやら陛下はポーションの成分が気になるようだ。
だがそのポーションは、普段からこのお屋敷の仕入れをしている業者が納入したもの。
特におかしな成分など、入っているはずがないのだが――
「……やはりな。このポーション、わずかながら麻薬が入っておるぞ……!」
事件発生。




