お見舞いに来てくださりました。
お見舞いに来てくれたマリアック。
「マリアック……? 私のことを心配してきてくれたのですか?」
「当たり前ですよ~! お友達が倒れたんですよ~!? 本当に心配したんですよ~!」
マリアックは涙を浮かべながら、私の傍まで来て優しく手を握ってくる。
その一連の行動から、彼女が本当に私のことを心配してくれていたことが伝わってくる。
「心配をおかけして申し訳ございません。私は少し、無茶をし過ぎていたようです」
「本当に何をやってるんですか~!? 倒れるまで働くなんて~、無茶にも程がありますよ~!?」
マリアックは私のことを心配そうに見つめながらも、少し怒った口調で話しかけてる。
友人であるマリアックまで不安にさせてしまうとは、私は改めて己の愚かさを実感する。
「ココラルお嬢様にも注意されましたが、私は今後、もっと自分を大切にします」
「本当にお願いしますよ~……。私だけじゃなく~、他の人も心配してたんですよ~」
「他の人……?」
マリアックはそう言うと、部屋の扉へと目を向ける。
私も気になってもう一度扉の方を見ると――
「クーリアさん! 本当に大丈夫なんですか!?」
――私のことを心配そうに見つめる、ファブリ様の姿があった。
「ファブリ様も私のことを心配してくださったのですか?」
「心配するに決まってますよ! ココラル様から話を聞いた時、本当に焦りましたし……」
私の友人のマリアックだけでなく、ココラルお嬢様の友人のファブリ様にまで心配させるなど、私は本当に愚かなことをしたものだ。
それでも『心配してくれた』ということが、どこか嬉しく感じてしまう。
「ボクやシスター・マリアック以外にも、学園にいる大勢の人達からメッセージを頂いてますよ」
「私に……ですか?」
「クーリアは仮にも『聖ノミトール学園非公式人気投票』で一位に輝いたのですわ。これぐらいの反応があって、当然なのですわ」
そう言って、ファブリ様は持っていたカバンから大量の手紙を取り出された。
そこに綴られていたのは、私のことを心配する内容の数々――
『いつも学園を掃除してくれて、ありがとうございます』
『どうかゆっくり休んで、またお掃除しに来てください』
『元気になったら、またサインをお願いします』
『あなたがいないと、わひは生きていけない』
――一部気になるメッセージもあったが、どれもが私のことを思ってくれる内容なのは確かだった。
どうやら私は自分で思っている以上に、大勢の方々に心配をかけていたようだ。
そして、大勢の人々に慕われていたようだ。
「……これらのメッセージ、ありがたくいただきます。私も今は療養に全身全霊を注ぎます」
「『療養に全身全霊』って言葉も~、おかしな話ですね~。クーリアは何事にも~、全力すぎるのですよ~」
「それがクーリアのいいところでもありますが、今後はわたくしの方でも制御できるようにしますわ」
「ともかく今は、本当にゆっくりしててくださいね」
マリアックもココラルお嬢様もファブリ様も、私のことを思ったうえでの言葉をかけてくださる。
今後は本当に気を付けなければいけない。
私の体は、もう私一人のものではない。
ファインズ公爵家を始めとする、私が敬愛し、私のことを慕ってくれている方々のためにも、私はとにかく体を休めよう。
使命感も大事だが、私のことを慕ってくださる方々の思いを、無碍にするなどできはしない。
「それでは~、私とファブリさんは~、そろそろ失礼しますね~」
「そうですね。あまりボク達が長居しても、クーリアさんに負担がかかってしまいます」
マリアックとファブリ様は少しお話しした後、私のことを気遣って帰って行かれた。
なんとか体を起こして挨拶しようとも思ったが、今の私はそれすらも辛い。
お二方もそんな私の状態を理解した上で、横になったままの私に声をかけて帰られた。
「……クーリア。自分が周囲にどう思われているか、少しは理解できまして?」
「……はい、ココラルお嬢様。私は愚かではありますが、大変な幸せ者です」
これまでの私への暖かい思いに、また涙が溢れそうになる。
そんな姿をごまかすかのように、私は布団へと顔をうずめる。
心配してくださった方々のためにも、今はただゆっくり休んで――
バタンッ!!
「お、おい!? クーリアは無事か!?」
「お父様!? いきなりどうしたのですわ!?」
――眠りに入ろうとした時、今度は部屋の扉を勢いよく開けて、旦那様が入られてきた。
何やらかなり慌てているようだが――
「よ、よかった……。まだこの部屋には入って来ていないようだな……」
「ほ、本当に何があったのですわ……?」
旦那様は辺りをひどく警戒しておられる。
ココラルお嬢様同様、私にも状況は分からないが、話からしてこのお屋敷に侵入者が――
「ハァー、ハァー! ク、クーリアちゃ~ん……! やっと見つけたで~……! 全然姿を見ぃへんから、心配やったんやで~……!」
――その声を聞いた時、私の全身に悪寒が走る。
それは過労が原因によるものではない。
私の体に染みついたあらゆる本能が、最大音量で悲鳴を上げている。
そしてその声の主は、窓から私の部屋に入って来た――
「愛しきタワキスお姉ちゃんが、お見舞いに来たったで~!」
「おのれ、変質者が! クーリアに手を出すなぁあ!!」
――やはり、タワキスさんだった。
窓から入ってくると、両目を血走らせながら私ににじり寄ってくる。
旦那様も剣を構え、タワキスさんと私の間に入る。
今の私は動くことすらままならない。
だから、ここは旦那様に頼るしかない。
「だ、だだ、旦那様……! た、たす、助けて……!」
「当然だ! わしの家族に手出しなどさせるものか!」
私は震える声で、旦那様に助けを求める。
旦那様もそんな私を『家族』と言ってくださり、必死に守ろうとしている。
――本当に心強い。
「そないに拒まんでもええやろが~! ウチにかて、お見舞いする権利ぐら――ムッハァアア!?」
今にも襲い掛かってきそうなタワキスさんだったが、突然私の方を見ながら、大量の鼻血を出して倒れてしまった。
「さ、最高や~……。ク、クーリアちゃんの……ロングヘアーパジャマ姿……。ウチ……もう死んでもええわ~……」
どういう訳か、タワキスさんは恍惚とした表情で鼻血を出したまま、完全に伸びてしまった。
一応、助かったということだろう。
「……この変質者。本当にあの『ホトトギス』のボスなのか?」
「一応、今はそうみたいです……」
「ま、まあ、大事に至らなくてよかった。この変質者もとりあえず、屋敷の外に放り出しておこう」
突如私に襲い掛かったタワキスさんの毒牙だったが、とりあえず事なきを得たようだ。
タワキスさんは旦那様に首根っこを掴まれながら、部屋の外へと追い出された。
あれだけ大量の鼻血を出した理由も、あれだけ出してタワキスさん自身が無事なのかも分からないが、私にはやはり気になることが一つある――
「ココラルお嬢様。先程鼻血で汚れた床のお掃除を私に――いえ、どなたかにお願いできませんか?」
「それでいいのですわ、クーリア。床のお掃除は他の者に任せ、今は体を休めるのですわ」
お見舞われたタワキス。




