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なんてことのない日常です。

少し時が経ち、

 『聖ノミトール学園非公式人気投票』で私が一位になってしまった事件から、早一週間は過ぎようとしていた。

 あれからも私は陛下や旦那様と協力しながら"汚れ"の正体を追っているが、いまだに尻尾は掴めていない。


 それでも、私には日常の清掃業務(ミッション)がある。

 旦那様達にも許可を頂いて、私は王国中のお掃除もさせてもらっている。

 たとえこれまでのような黒い"汚れ"が見つからなくても、こういった普段からのお掃除は重要だ。

 『お掃除をする』ということは、『その場所を長持ちさせる』ということにもつながる。

 お掃除は一度限りでなく、日頃から行うことが大切である。


 <清掃用務員>として、当然の嗜みだ。

 当然すぎる嗜みだ。


 そうして先日、私の胸の内で誓った『大切な人々を守る』ために、私は一層日常のお仕事に励む毎日を送っている。




「クーリア先輩! ここのお掃除はどうすればいいですか!?」

「細かいところのお掃除には、この『クーリア特性綿棒』が役に立ちます。場所ごとに使い分けてお使いください」


 そして最近、私はお屋敷の他のメイドとも話すようになった。

 これまで私がメイドのリーダーとして指示を出すことはあったが、自分からも話しかけるようにしてみた。

 『何か困っていることはないか?』、『最近気になることはないか?』などといった普遍的な会話からだったが、それでも最近の私は以前よりも会話が増えた。

 まだまだお仕事の話しかできていないが、他のメイドとの距離が近づいているのを感じる。


 マリアック達に相談して以降、私は私自身を変えるように努力している。

 相談を持ち掛けられることも増えてきて、業務内容も増えてきた。

 少し大変ではあるが、不思議と悪い気はしない。

 思えば前世の私は自らを磨くあまり、後進の育成をしていなかった。

 <清掃用務員>たるもの、清掃魂(セイソウル)を宿す者が増えるのは喜ばしいことだ。


「クーリア先輩のお話はためになります! それではこれで失礼します!」

「頑張ってください。ですが、無理だけはなさらぬように願います」


 私のアドバイスを聞き終えたメイドは、自身の業務へと戻って行った。

 私は<収納下衣(タンスカート)>から取り出したポーションを口にして、一息つく。

 最近このポーションを飲むと、調子がいいのだ。


「さてと、お屋敷での業務はお掃除も含めて終わりですね。やはり、この子達は本当に優秀です」


 そうやって一息つきながら、私は身に着けている専用清掃道具(我が子)へと目を向ける。


 最強の手袋、浄化手袋(ラーグローブ)はどんな"汚れ"でもつかみ取れる。

 指が入る隙間なら、それだけで"汚れ"をすくいとってくれる。

 <収納下衣(タンスカート)>とリンクして洗剤を纏わせることもできるし、清掃魂(セイソウル)の伝導率も高い。

 他の子達を使う時にも、とても頼りになる。


 究極の霧吹き、地気霧吹(アースプレー)は拳銃のように手軽ながら、その威力は絶大だ。

 ライフルのような距離。ガトリングガンのような連射。ショットガンのような範囲。

 撃ち出す弾丸(洗剤)も、<収納下衣(タンスカート)>とのリンクで自由自在。

 この子はどんな名銃よりも、気高き(霧吹き)だ。


 そして至高のモップ、箒天戟(ホウテンゲキ)

 自在箒(ジザイボウキ)をも上回るその変形機能は、モップどころかあらゆる清掃道具の中でも至高。

 『玄武(ゾウキン)』、『朱雀(ハタキ)』、『白虎(モップ)』、『青龍(セイソード)』。

 場面に応じたモデルの使い分けで、この子に対応できない清掃業務(ミッション)など存在しないと言ってもいい。


 この子達、極・清掃三種の神器クリーンアップアルティメットリオは私の清掃魂(セイソウル)を宿した、まさに愛しき我が子。

 だが、使いこなすには親である私の技量も必要になる。


 後進の育成。ココラルお嬢様や旦那様の従者。お屋敷のメイドのリーダー。マリアックとの交流。

 それらの大事の時間の間をぬいながら、私は王国中のお掃除をすることで、この子達を扱う練習もしている。


 "汚れ"はいつまた襲ってくるか分からない。

 こうした日々の鍛錬で、いついかなる事態にも対応できるようにしておく。

 それでこそ、<清掃用務員>というものだ。




「クーリア先輩! また教えてほしいことがあります!」


 そうやって私が少し考え事をしていると、先程の後輩メイドがまた相談にやって来た。

 実に良い心得だ。

 分からないことはこうして聞きに来てくれるのが、一番ありがたい。

 私が答えられることならば、私は何度でも相談を受け付ける。


「少々お待ちください。今そちらに――」


 私は飲み終えたポーションの容器を一度<収納下衣(タンスカート)>へと戻し、後輩メイドの元へ行こうとした――






 ――カランッ




「あ……あれ? 箒天戟(ホウテンゲキ)が――」


 ――その瞬間。私は右手に持っていた箒天戟(ホウテンゲキ)を落としてしまった。

 愛しき我が子を手を滑らせて落とすなど、親として言語道断の行為。

 私はすぐに箒天戟(ホウテンゲキ)を拾おうと、体をかがめるが――




 クラッ――


 ――バタン




 ――逆に私の方が床へと倒れ込んでしまった。


「ク、クーリア先輩!? 大丈夫ですか!?」


 後輩メイドが心配そうに倒れた私に声をかけてくる。

 すぐにでも『大丈夫です』と返事したいが――




「ハァ……ハァ……。だ、だい……じょ……」




 ――声がうまく出ない。

 何故だか息苦しく、体中が熱い。


「うぅ……い、痛い……!?」


 さらに左胸に突き刺さるような痛みが襲ってくる。

 まるで、心臓を直接握られているような感触だ。


 これはどういうことだろうか?

 私の体に何があったのだろうか?

 ダメだ。考えようとしても頭が回らない。


 だんだんと私の意識そのものが、闇へと飲み込まれていく感覚――

 心臓の痛みが全身へと襲い掛かるような感覚――

 瞼を開けるのも辛くなってくる――




「クーリア先輩! しっかりしてください! だ、誰かー!?」


 後輩メイドが助けを呼ぶ声が聞こえるが、もう私の体は言うことを聞いてくれない。

 心臓の痛みもひどく、とても耐えられるものではない。

 このまま意識を失うしかないようだが、もしかするとこれは――




 ――私自身が"汚れ"に蝕まれたのかもしれない。

ピンチの始まり。

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