学園で前代未聞の結果が出ました。
王城を後にした私は、言われた通り大急ぎで聖ノミトール学園へとやって来た。
今回は<清掃用務員>としての"静"の清掃魂を意識することで、<アサシン>の身体能力強化にもその効果を反映させた。
まるで『いつの間にお掃除が終わっていた』といった気配の殺し方で、誰にもバレないように、しかして素早く学園に到着できた。
これなら騒ぎになることもない。
――<アサシン>時代よりも隠密スキルが上がっている気がする。
「とりあえず確認してみましたが、"汚れ"は見当たりませんね」
ひとまず安心できたのは、以前のように"汚れ"が発生した事態ではなかったことだ。
各種スキルによるサーチを入念に行ったが、"汚れ"は今のところ見当たらない。
――ただ、一つだけ気になることがある。
学園校舎の玄関辺りに、大勢の人だかりができているのも確認できる。
反応を見る限り、ココラルお嬢様もいらっしゃるようだ。
「……お嬢様に会うのも、なんだか久しぶりな気がします。いずれにせよ、気になることは多いですね」
人だかりも気になるが、ココラルお嬢様の様子も気になる。
私はココラルお嬢様の従者。
忠実なる<メイド>にして、誇り高き<清掃用務員>だ。
兎にも角にも、私は校舎の玄関へと行ってみることにした。
■
「お久しぶりです、ココラルお嬢様。しばらくお傍におられず、申し訳ございませんでした」
「来ましたのね、クーリア……。やはりこの件は、当事者であるあなたも知っておくべきだと思い、急だけど呼ばせてもらったのですわ……」
私がココラルお嬢様の元へ行くと、どこかげんなりとした表情で言葉を返された。
お嬢様がこのように元気がないのは、余程の事態が起こったからに違いない。
「ココラルお嬢様。お元気がないようですので、まずは私がティータイムの用意を――」
「今それはよいのですわ……。とりあえず、クーリアもあれを見てほしいのですわ……」
私がココラルお嬢様のためにティーセットを<収納下衣>から取り出そうとしたが、止められてある一点を指さされた。
私も指さされた方向に目を向けると、そこには掲示板の前に立たれるファブリ様の姿があった。
「す、すいません! 今から『聖ノミトール学園非公式人気投票』の結果について、実行委員であるこのボク、ファブリ・フレグラから再度発表をします!」
そしてファブリ様の口から出た、なんとも気になる話の内容。
『聖ノミトール学園非公式人気投票』とのことだが、一体何の話だろうか?
「『聖ノミトール学園非公式人気投票』というのはこの学園の生徒達が行う、文字通り非公式の人気投票ですわ。とにかく幅広い人達を対象にして、人気投票をしていましたのよ……」
「左様でございますか。それで非公式ながらも、ファブリ様が実行委員をされているということですね」
首をかしげる私を見て、ココラルお嬢様が疲れた表情をしながらも教えてくださった。
こういうものは前世の世界でも見たことがある。
私は全く興味がなかったが、『推し』というものなのだろう。
おそらくココラルお嬢様が私を呼び、ここまで疲れられているのはこの件が原因だ。
もしや、投票結果に何か問題が――
「え、えっと。改めて上位三名を発表します! まずは三位ですが――」
そんな私の疑問とは関係なく、ファブリ様の人気投票結果の発表が始まった。
掲示板にも大きく、三位のお方の名前が張り出されるが――
『三位:ファブリ・フレグラ』
「すみません! ボクです! すみません!」
――実行委員であるファブリ様本人であった。
ファブリ様は何度も掲示板の前で頭を下げている。
確かに実行委員であるファブリ様が三位にランクインしていると、場がしらけかねない。
それでも周囲の反応は――
「気にしないで! ファブリさん!」
「そうだぞ! 俺達はファブリちゃんがいい子だって知ってるから!」
「ありがとうございます! すみません! ありがとうございます!」
――上々であった。
ファブリ様は周囲の生徒達から応援を受け、感謝の言葉を述べながら頭を下げておられる。
私としてもこの結果は納得だ。
ファブリ様は平民の出でありながら、とても頑張り屋で成績優秀だ。
そんな彼女に対して、応援したくなる気持ちが出るのは当然というものだ。
「えっと……で、では、次の発表に移ります。第二位なのですが――」
周囲の声援に支えられながら、ファブリ様は次の発表へと移る。
掲示板にも大きく、二位のお方の名前が張り出されるが――
『二位:ココラル・ファインズ』
「ファインズ公爵家のご令嬢、ココラル様です!」
――ココラルお嬢様だった。
これは非常に嬉しい。私も心の中でガッツポーズをとる。
この広い聖ノミトール学園において、私の主が人気投票で二位にランクインすることは、実に誇りである。
「ココラル様は親しみやすさが増したよな!」
「カリスマ性も最高よね!」
周囲の反応も素晴らしい。実によく理解しておられる。
やはりココラルお嬢様は周囲も認める、最高のご令嬢だ。
「おめでとうございます。ココラルお嬢様」
「え、ええ……。感謝いたしますわ、クーリア……」
私もお嬢様に賛辞の言葉を送るが、どこか反応はよろしくない。
人気投票で二位という結果を聞いても、どこかげんなりしたままだ。
もしかすると――
「ココラルお嬢様。もしや、一位の人物に何か問題があるのですか?」
「ええ……。そういうことになりますわね……」
――やはりそういうことか。
そうと決まれば、私は一位の人物に問い詰める必要がある。
私が敬愛するココラルお嬢様を苦しめる存在ならば、<清掃用務員>としてクールながらもクリーンな答弁をしよう。
「そ、それでは……第一位の発表です……」
そして私も気になっていた一位の人物の名前が、掲示板へと張り出される――
『一位:クーリア・ジェニスター』
「……ココラル様の従者の……クーリアさんです……」
――それは私の名前だった。
いや、そうはならんやろ。




