これが男の友情というものでしょう。
「ハァ……ハァ……! な、なんとか落ち着きました……」
「ほ、本当に大丈夫か? 少し休んだ方がいいぞ、クーリア」
「ご、ご心配なく。私は<清掃用務員>です。これぐらいの恐怖心、十分に抑え込めます……!」
「……<清掃用務員>とは、なんとも難儀な職業らしいな。吾輩でも想像できぬ……」
私はなんとか清掃魂を奮い立たせ、タワキスさんの恐怖に打ち勝った。
大丈夫だ。昨日だって見事に私はお掃除できたじゃないか。
もう、タワキスさんを恐れる必要なんてない。
ただちょっと、私の清掃魂が乱れただけだ。
タワキスさんは怖くない。私は強い。何も問題ない。
「フゥー……。ところでスミスピア様。どうしてわざわざ、王城まで来られたのですか?」
「あ、あぁ……。もう大丈夫なんだなぁ……。まぁ、まずはお前さんに要件だぁ」
気持ちを切り替えることができた私は、スミスピア様に気になったことを尋ねた。
どうやら、私にも要件があるようだ。
「お前さんに作ってやった装備達。ちゃんと使えてるかぁ?」
「はい。あの子達は本当にいい子です。スミスピア様に作っていただいたこと、誠に感謝いたします」
「フッ。それは何よりだぁ」
スミスピア様の要件は頂いた清掃道具達のことだった。
その件に関しては、本当に感謝しかない。
浄化手袋も、地気霧吹も、箒天戟も、全てが素晴らしくて愛おしい、まさに我が子だ。
あれからも手入れはしっかり行っている。
浄化手袋はしっかり消毒と乾燥。
地気霧吹は細部までしっかり綿棒で磨き上げ。
箒天戟の毛先もしっかりブラッシング。
もはや我が子であるこの子達には、最高のコンディションを維持してもらいたい。
<清掃用務員>として、極・清掃三種の神器の親として、あまりに当然すぎる嗜みだ。
「クーリアの姉ちゃんのほうは問題ないなぁ。……それともう一件。これはジーキライとアトカルにだぁ」
「ん? 吾輩達にか?」
「何やら深刻な顔をしているな……」
スミスピア様のもう一つの要件。
それは幼馴染である陛下と旦那様への話のようだが――
「大仕事を終えて、身も心も家も綺麗になったことだぁ。オレぁ、今からカミさんとヨリを戻しに行ってくるぜぇ……!」
「なっ……!? お、お主、死ぬ気か!?」
「ぐっ……!? こればかりはわしらも止めずに、見守る他ない……!」
――その内容は、スミスピア様が家出した奥さんを迎えに行くというものだった。
だがそれを聞いた陛下と旦那様は、なぜか歯を食いしばりながら苦悶の表情を浮かべられている。
「……スミスピア。お主にもしものことがあれば、吾輩は国葬でお主を送り届けてやる! このウォッシュール王国一番の<鍛冶屋>にとって、相応しい葬儀を行う!」
「わしも何かあった時は、相応の礼儀を尽くす。だが……約束してくれ! 生きて帰ってこい!!」
「へへっ……! もちろんだぁ……! たとえ両手両足がなくなろうと、オレはカミさんとヨリを戻してくるぜぇ……!」
そしてその話の内容はどこか物騒だ。
お三方の雰囲気も、どこか物々しい。
まるで死地へ送り出すかのように、陛下と旦那様は決意の表情でスミスピア様と握手を交わしている。
――スミスピア様はただ、家出した奥さんとヨリを戻したいだけのはず。
それなのに、この妙に熱い空気は何だろうか?
――いや、これはきっと俗に言う『男の友情』というものなのだろう。
女性では理解できない、未知の領域――
私はただイスに座ったまま黙って見ているが、お三方の間に熱い魂があるのをなんとなく感じられる。
ここは私は黙って見ておこう。
男の世界に、女性の私が割って入っていいものではない。
<清掃用務員>はただただクリーンにたたずむのだ。
「それじゃぁ、オレぁ行くぜ。クーリアの姉ちゃんも達者でな。お前さんに作った三つの装備は、オレの中でも最高傑作だぁ。大事にしてやってくれよぉ」
「もちろんでございます。スミスピア様もどうか頑張って来てください」
「フッ。オレがカミさんにやられたら、そいつらがオレの遺作になる。その時ぁ、墓参りに連れてきてやってくれぇ……!」
それだけ私に言い残し、スミスピア様は颯爽と蔵書室を出て行った。
立ち去る際のそのお背中はとても逞しく、それでいてどこか儚げ――
――まるで、『これから死に向かう歴戦の英雄』の背中だった。
「スミスピア様……。どうかご武運を……」
「クーリア……。わしらはただ、見守るしかないのだ……!」
「これはスミスピア自身の問題……。吾輩達はあやつの無事を信じるしかない……!」
旦那様と陛下も悲しそうな眼をしながら、私と一緒にスミスピア様を見送った。
スミスピア様の奥さんは話に聞くだけでも強敵だ。
あの槍の達人であるスミスピア様をズタボロになるほど引き裂く、人外とも言える力――
――悔しいが、やはり私達にできることはここまでのようだ。
「……スミスピア様のことも気になりますが、今は"汚れ"に関する調査に戻りましょうか」
「そうだな。気が付けば<百合魔法>にスミスピアに、余計な方に話が逸れてしまっていたか」
「とにかく今は、この文献をもっと詳しく読んでみよう。……一応、吾輩が代わりに読む」
スミスピア様を見送った私達三人は、席に戻って先程の文献を読み直そうとした。
その際に陛下が私の代わりに読むことで、先程の<百合魔法>のような有害情報が入ってこないようにフィルターすることを買って出てくださった。
確かにそれなら私が精神ダメージを受けることはない。
だが、そのために陛下の手を煩わせることも――
バタァンッ!!
「くっ! クーリア殿! まだおられるか!?」
――そうやって話を戻そうとしたところに、クッコルセ団長が勢いよく扉を開けて蔵書室に入って来た。
何やら慌てているようだが、タワキスさん関係の話でないことを祈る。
「何があったんだ、クッコルセ!? まさか、変質者が城に侵入したなどではあるまいな!?」
「くっ! そうではありません! と、とにかく! クーリア殿に早急に聖ノミトール学園へ行ってほしいのです!」
「聖ノミトール学園にクーリアを!? 本当にどういうことだ!?」
陛下も尋ねられたが、クッコルセ団長の要件はとりあえずタワキスさん関係ではないようだ。一安心。
それにしても旦那様も驚いているように、何故私が聖ノミトール学園へ急いでいく必要があるのだろうか?
「……考えていても仕方ありません。陛下、旦那様。私は聖ノミトール学園へ行ってみます」
とにかく、ここは優先順位の変更だ。
クッコルセ団長がここまで慌てるなど、学園で余程のことがあったに違いない。
"汚れ"に関する情報収集はまた今度にしよう。
――もしかすると、また学園で"汚れ"が発生したのかもしれない。
「くっ! ここはとにかく急いでほしい! クーリア殿!」
「分かりました。それでは行ってきます」
私はクッコルセ団長に言われた通り、すぐに蔵書室を出て聖ノミトール学園へ急いだ。
ただ蔵書室を出る時、クッコルセ団長がわずかに気になることを口にしていた――
「くっ!? なんであんな人気投票結果が――」
ツッコミ役はいません。




