清掃対象:タワキス・ユリアンヌ
清掃用務員 VS クレイジーサイコレズ
「さ~さ~! クーリアちゃ~ん! 久しぶりにウチとええことしようやないか~!」
周囲を建物の壁に囲まれた『ホトトギス』アジトの中庭に出てきた、私とタワキスさん。
タワキスさんは私と向かい合いながら、恍惚とした表情で体をくねらせている。
――気持ち悪い。
ただその右手に握られているのは、十年以上前からのタワキスさんの愛銃――魔法弾実弾兼用拳銃"ヤタガラス"。
私が使っていた"ファルコン"や"ホーク"より大型の拳銃で、魔法弾と実弾の両方を撃つことができる、ハイブリッドタイプだ。
「安心せいや、クーリアちゃん。ウチは今回、"ヤタガラス"で実弾は使わへん。使うのは魔法弾のみ。もっと言えば、ウチのクーリアちゃんへの『愛』が弾丸や~!」
「そ、そうですか……。お気遣い、一応感謝します……」
一応手合わせという名目は守ってくれるらしく、タワキスさんはその手の内を明かしてくれた。
確かに魔法弾は実弾よりも殺傷力は低く、ある程度は威力も調整もできる。
――だが、『愛が弾丸』とはどういう意味だろうか?
タワキスさんもあれから十年経っている。
この魔法の世界における、新しい技術でもマスターしたのだろうか――
「あ~~! もう我慢できひん! 早速ウチの愛を……受け取ってくれやぁあ! クーリアちゃんんん!!」
ポシュゥウン! ポシュゥウン!
「ッ!? な、何ですか!? この弾丸は!?」
私が考えている矢先に、タワキスさんは"ヤタガラス"から魔法弾を発射してきた。
突然のことだったが、私とて元々は"一流"の<アサシン>。
回避することはできた――
――ただ、タワキスさんが"ヤタガラス"から発射した魔法弾は、彼女から溢れる"汚れ"の色と同じ、ピンク色だった。
ピンク色の煙のような"汚れ"を弾丸にして、私へと連射してくる。
こんな魔法を私は知らない。
銃に関することなら、<アサシン>としての経験である程度は知っているが、こんなものは知らない。
ただ、これは予想にはなるのだが――
――このピンク色の魔法弾。
タワキスさんの性根そのものではないだろうか?
「と、とにかく応戦を! 浄化手袋! 地気霧吹! そして……箒天戟!!」
私は大急ぎで<収納下衣>から極・清掃三種の神器を取り出し、それぞれを装備しようとする――
「見えた!! クーリアちゃんのパンツは……黒や! カ~~~! たまらへんわぁああ!!」
「わ、私の下着を見ないでください!」
――ただ、<収納下衣>のためにロングスカートをめくりあげた時、私の下着をタワキスさんに見られてしまった。
そして下着の色を確認すると、さらに興奮するタワキスさん。
その場で天を仰ぎ、ガッツポーズをとっている。
――その姿を見ていると、寒気が止まらない。
もしかすると、以前のマリアックも今の私と同じ気持ちだったのかもしれない。
彼女には本当に申し訳ないことをしたと、心の中で反省する。
「ハァハァ! あかん! 辛抱ならん! やっぱこのままクーリアちゃんを押し倒して……手籠めにしたるわぁああ!!」
「ひ、ひいぃ!? こ、来ないでください!」
タワキスさんはその目を見開いて血走らせ、さらに鼻息を荒くしながら襲い掛かってくる。
最初に言っていた『手合わせ』という言葉も、もう頭の中から吹き飛んでいるようだ。
私はとにかく逃げる。逃げ回る。
<アサシン>の身体能力強化、<清掃能力強化>と<除菌疾走>。
それら全てを全開にして、周囲の壁を飛び跳ねながら、ひたすら逃げ回る。
「逃げんといてくれやぁあ! ウチとええことしよやないかぁああ!!」
「嫌です! こ、怖いです!」
だが、タワキスさんも負けじと身体能力を上げて、私と同じように壁を飛び跳ねながら追ってくる。
その強化率は私以上。何重にも能力強化を重ねている私をも上回っている。
ポシュゥウン! ポシュゥウン!
さらに私を追いながら、ピンク色の弾丸を連射してくる。
ダメだ。怖すぎる。私はすでに半泣きだ。
本当に助けて、ココラルお嬢様。
「で、ですが! そのピンク色の何かも"汚れ"の一種! ならば私の<清掃用務員>としての力で、お掃除できます!」
なんとか気力を振り絞り、私は清掃魂を滾らせる。
タワキスさんを相手にすることへの動揺は抑えきれないが、それでも私には<清掃用務員>としての務めがある。
過去最恐にして最悪の相手だが、お掃除しなければ生き残れない。
「なんや、なんや~!? クーリアちゃんの新しい武器か~!? ええで、ええで! その武器で……ウチの愛を受け止めてくれやぁああ!!」
私が箒天戟を構えて向き直ったのを見て、タワキスさんも"ヤタガラス"からピンク色の弾丸を発射してくる。
あの弾丸も"汚れ"の一種。
<用務眼>での分析の結果、生物が腐った時に発生するアンモニアの成分に近い。
まずはあのピンク色の弾丸を、浄化手袋で捌いて――
「ダメ! できません!」
――だが、捌けなかった。
私は再度回避に徹し、タワキスさんから逃げ回る。
あのピンク色の弾丸は、いくら何でも汚過ぎる。
あれはもう、お掃除でどうにかなるレベルではない。
私のあらゆる本能がそう告げている。
あのピンク色の弾丸は――前世で言う放射能汚染の類だ。
「なんや~!? ウチの愛を受け止めてくれへんのか~!?」
「この子達は私の愛しい我が子同然です! あなたのような、高濃度の汚染物相手に使いたくありません!」
「どういうこっちゃ~~!?」
浄化手袋だけではない。
地気霧吹も箒天戟も、タワキスさん相手に使えば、清掃道具として再起不能になるほど穢れてしまう。
この子達は私の相棒であると同時に、私の子供だ。
我が子を進んで穢そうとする親などいない。
相手がお掃除の範疇を超える汚染物である以上、私がこの子達を守らないといけない。
「そないに逃げるんやったら……クーリアちゃんの、お胸にドーン!!」
「きゃふぅ!?」
だがそんな私の思いは関係ないとばかりに、タワキスさんは身体能力をさらに上げて、顔面から私の胸へと突っ込んでくる。
その突然かつ異常な行動により、私の体は思いっきり壁まで吹き飛ばされる。
「あぁ……最高……! やっぱクーリアちゃんの胸は程よい大きさと弾力で、うっとりせずにはいられへん……!」
「た……助けて……ください……!」
「そないに怯えた表情で、ウチを見んといてくれや……! 折角自重しようと思うとったのに、そそられるやろ……!」
もう私に戦う気力はない。
タワキスさんへの恐怖によって、完全に腰が抜けてしまった。
そんな私に対し、タワキスさんはピンク色の"汚れ"を身に纏いながら、にじり寄ってくる――
もうダメだ。助からない。
私は穢される。
私は犯される。
死ぬよりも――怖い。
「もう我慢できひん! まずはそのメイド服をはぎ取って……全裸にむいたるわぁあ!!」
「い、いやぁあああ!?」
今まで出したこともない悲鳴を上げる私の気持ちなど他所に、タワキスさんはメイド服に手を掛けようとしてきた――
ブゥウウン!
「な、なんや!? この武器は!? なんでウチがクーリアちゃんを襲うのを止めるんや!?」
「箒天戟……!?」
――そんな時、私とタワキスさんの間に、箒天戟が光りながら浮かんで割り込んできた。
それはまるで私の身を守るように、神々しい清掃魂の輝きを放ち、タワキスさんの手を遮っている。
「ま、まさか……私を守ろうと……?」
箒天戟が言葉を発することはないが、それでも私にはなんとなくわかる。
この子はきっと、私にこう言いたいんだ――
『俺達を信じろ。あんたの子供を信じろ』
――と。
「……そうでした。私は<清掃用務員>。たとえ相手がどれだけ高濃度な汚染物でも、必ずお掃除してみせる……!」
タワキスさんというあまりの強敵を前にして、私は気弱になっていたようだ。
私は眼前に浮かぶ箒天戟を手に取り、両手で強く握りしめる。
そうだ。私にはこんなにも頼れる清掃道具がいる。
怖気づく必要はない。
スミスピア様によって作られし、私の清掃魂を宿したこの子達がいれば――
「私は……絶対にお掃除できます……!」
「な、なんや……!? クーリアちゃんの雰囲気が変わった……!?」
箒天戟を握りしめて立ち上がる私を見て、タワキスさんは後ずさりしている。
流れた涙をハンカチで拭い、私は再度清掃魂を滾らせる。
今度こそ屈しはしない。
その決心と共に、私は箒天戟を最後の形態へと変化させる――
「箒天戟――モデル『青龍』!!」
箒天戟、最終形態!




