銃の行方を尋ねてみます。
「……その口振り、なんや知ってそうやな?」
タワキスさんはワキワキさせていた手を止め、表情も真面目なものに変わった。
そして私の質問に対し、ようやく真面目に答えてくれた。
「……正直に言うわ。クーリアちゃんが使ってた魔法銃"ファルコン"なんやが……盗まれた」
「盗まれたのですか……!?」
「厳重に保管しとったんやが、いつの間にかやられてたわ……」
タワキスさんの声は重い。私も驚きを隠せない。
『ホトトギス』の警備は厳重だ。簡単に盗みに入れる場所じゃない。
そして何より、私も使っていた魔法銃"ファルコン"は名銃とも言える代物。
元々『ホトトギス』の管理品でもあったため、私がいなくなった後はアジトの金庫に保管されていたはずだ。
――それが盗まれた。
もしそうならば、盗んだ犯人はとんでもない手練れだ。
『ホトトギス』の管理をかいくぐるなんて、"超一流"の<シーフ>でもなければできそうにない。
そして盗んだ犯人はおそらく、私を襲ったあの『笑い狐の面』。
童話に出てくる"フェイキッドの亡霊"と同じ姿をしたレインコート――
「……"ファルコン"の件については分かりました。それでは、もう一つ聞かせてください」
「予想はできるな。とりあえず、言うてみい」
魔法銃"ファルコン"が盗まれたことは確定だ。
それが分かった以上、私にはもう一つ気になることがある。
私が<アサシン>時代に使っていたのは『二丁拳銃』だ。
魔法銃"ファルコン"にはもう一つ対となる、『実弾銃』がある。
「"ホーク"の方は無事なのですか?」
「ああ、そっちは無事やで。"ファルコン"が盗まれた後、さらに厳重にウチの方で管理しとる」
タワキスさんからその話を聞いて、少し安心した。
魔法銃"ファルコン"と対になる、実弾銃"ホーク"。
"ホーク"は実弾しか撃てないが、その殺傷力は"ファルコン"をはるかに上回る。
もし"ホーク"まで盗まれていたら、それこそ大勢の人の命が危ない。
そんなことは<清掃用務員>として許せない。
私の<アサシン>としての過去へのケジメでもある。
「では、タワキスさん。"ホーク"を私に見せてはくれませんか?」
一応無事だとタワキスさんは言っているが、それでも不安は収まらない。
先に"ファルコン"が盗まれている以上、対となる"ホーク"が盗まれる可能性だってある。
私はどうしても"ホーク"をこの目で確認したかったが――
「う~ん……。一応、クーリアちゃんはもう『ホトトギス』の人間やないから、簡単に見せるわけにはいかへんな~……。ほんなら、交換条件やな!」
――タワキスさんは条件を出してきた。
その言葉を聞いた時、全身に嫌な予感が走り、寒気で震えてくる。
この感覚は前世のあの時と同じ――
――私が命を落とした出来事、塩素系漂白剤と酸性洗剤を混ぜ合わせた時と同じ感覚。
「さ~……クーリアちゃん……! ウチと一緒のベッドに入ってもらおか。後は……分かるな?」
「い……嫌です……う、ううぅ……!」
ついに私は耐えきれずに泣き出してしまった。
最早<清掃用務員>としての嗜みや鉄則など関係ない。
――私はもう我慢できない。
怖くて仕方ない。
両眼から涙を流しながら、両腕で体を抱きかかえて震える。
「申し訳ございません……! ヒック……! ココラルお嬢様、旦那様、マリアック……!」
心の中での謝罪を口にも出しながら、私はただただこれから起こる事態に怯えた。
――私は今から、穢れる。
「……い、いや。やっぱやめとくわ。なんや……そこまで拒絶されると、ウチも罪悪感が強すぎるわ……」
だが、タワキスさんは突然手を引っ込めてくれた。
よく分からないが、ひとまず一方的に犯される展開は回避できたようだ。
「あ~~……! せやけどやっぱ、クーリアちゃんをウチの手でメチャクチャにしたい~……! どないしたら、この溢れ出る愛を存分に伝えられるんや……!?」
それでもタワキスさんは、まだ完全に私を犯すことを諦めたわけではないようだ。
両手で頭を抱え込みながら、何やら方法を模索している。
いずれにせよ、私も"ホーク"を見せてもらわないことには安心できない。
「……あっ、せや。クーリアちゃん。ちょっと中庭に出よか」
「中庭ですか? 私達がいつも訓練に使っていたところですよね?」
「そや。ちーっとそこで、ウチと手合わせしようやないか。ほんで、ウチを満足させれたら"ホーク"に会わせたる」
――あまりよろしくない代案が出てきた。
手合わせと言っても、私には<アサシン>としてのブランクが大きい。
何より今の私は<清掃用務員>として、人を傷つけるような行為を自らに禁じている。
『人々の生活を守る者』に、『人に危害を加える』ことなど許されない。
だがそれでも、タワキスさんと手合わせして満足のいく結果を出さないと、"ホーク"を見せてくれなさそうだ。
「……そうですね。<用務眼>発動」
ただここで、私はあることを思いつく。
ソファーを立って中庭に向かおうとするタワキスさんの後ろ姿を、<用務眼>で確認してみる。
以前のスミスピア様の時と同じように、彼女特有の"汚れ"を落とすことができれば、それで認めてもらえるかもしれない。
そう思って、私は注意深く<用務眼>でタワキスさんを観察した――
「た、確かに"汚れ"らしきものは見えます……」
――タワキスさん特有のものと思われる"汚れ"は見えた。
ただそれが見えた時、私は更なる不安に襲われた。
タワキスさんの"汚れ"はこれまでの黒い影のような"汚れ"や、ましてやスミスピア様の頭皮頭髪の"汚れ"とも違う。
――なぜか、ピンク色の"汚れ"だ。
究極にヤバい清掃対象戦。




