清掃対象:クッコルセ・ウォンナキッシュⅡ
唸れ! 箒天戟!
「くっ! 三又の槍か!? だが、アタイの大剣の前では無力だぁあ!!」
クッコルセ団長は私の箒天戟を見て、分析しながらその大剣を振りかぶっている。
相当剣術に自信があるようだが、今の私には不思議と恐怖心がない。
箒天戟を握っているだけで、心の底から自信が沸き上がってくる。
とりあえず、まずは一つだけ訂正が必要だ――
「この箒天戟は槍ではありません。モップです」
「くっ!? 訳の分からないことを!」
やはり、クッコルセ団長は頭が固い。
私が箒天戟のことをモップだと主張しても、『訳が分からない』とはひどい話だ。
少々、<清掃用務員>としてのプライドも傷つくが、今はお掃除を優先しよう。
「死ねぇええ!!」
まずは私目がけて振り下ろされたクッコルセ団長の大剣への対応。
私は箒天戟を背中へと回し、クッコルセ団長の方に背中を向け――
ガキィインッ!!
――箒天戟で大剣を受け止める。
両手で箒天戟を支えながら、足を広げて体を低くし、受けた衝撃を地面へと流す。
<アサシン>スキルも交えた我流だが、なんとか上手くいった。
「くっ!? 堪えただと!? このアタイの大剣を!?」
「大剣に纏われているのは"汚れ"です。相手が"汚れ"である以上、<清掃用務員>である私と、この箒天戟の敵ではありません」
体を低くして背を向け、大剣を受け止めたまま私はクッコルセ団長へと言い放つ。
その言葉の通り、今の私にならクッコルセ団長をお掃除できる自信がある。
スミスピア様が作られた箒天戟の強度はバッチリだ。
大剣での直接攻撃にも難なく耐えられる。
大剣の"汚れ"もその剣圧も、私の<清掃用務員>としての力とこの箒天戟があれば問題ない。
――もう以前のように、相棒を殺されるような悲しい思いはしなくて済む。
「くっ! まだだ! そんな棒切れで、最強の<騎士>たるアタイに勝てるはずがない!」
クッコルセ団長も流石にまだ諦めないようで、大剣を私から一度はがす。
そして再度距離を置くと、今度はその切っ先から突きの構え。
流石に突きをそのまま受け止めるのは難しい。
だが、これもまた問題ない。
私はこの子を――箒天戟を握った時から、その扱い方を体で理解している。
浄化手袋越しに箒天戟を握りしめ、私の内に眠る清掃魂を込める――
「箒天戟――モデル『玄武』」
ブワァン!
ガキィイン!
「くっ!? これは何だ!? 先端が変化した!?」
箒天戟は私が思った通りの変化を見せてくれた。
この巨大フォークのような先端は、何本もの特殊な繊維がまとまってできている。
そこに私の清掃魂を流し込むと、私が望んだ形へと変化する。
今変化させたのは雑巾と同じだ。先端は大きな布状へと変化している
それによりクッコルセ団長の刺突を、包み込むようにして受け止める。
その包み込む姿は、まさに『海の清掃力』である雑巾と同じ。
もちろん、それで箒天戟が壊れることはない。
形状変化と強度の両立――完璧だ。
「まだだぁあ! くっらえぇええ!!」
だが相手も"超一流"の<騎士>である、クッコルセ団長。
すぐさま止められた大剣を引き、今度は体を回転させながら横なぎへと移る。
遠心力からの破壊力。これは防御しないのが賢明。
私の<アサシン>としての経験もまた、<清掃用務員>としての力を与えてくれる。
クリーンでクールな判断力。
それに従い、私は再び清掃魂を握った箒天戟へと込める――
「箒天戟――モデル『朱雀』」
ヒュンッ!
「くっ!? 今度はなんだ!? また先端が変化したのか!?」
私は箒天戟の先端を固い円筒状へと変化させ、それを地面へと突き立てる。
そして下水道の水を弾きながら箒天戟を支柱にして、棒高跳びの要領で体を宙に浮かせる。
私自身が舞うその姿は、まさに『空の清掃力』であるハタキと同じ。
そのまま体をしならせながらクッコルセ団長の頭上を舞い、大剣を躱しながら背後へと回り込む。
「くっそがぁああ!!」
私が背後に着地したのと同時に、クッコルセ団長も振り向いてくる。
だが、私はすでに次の行動へ移っている。
狙うはクッコルセ団長の死角――
「くっ!? いない!? ど、どこへ行った!?」
「下です」
――そう。クッコルセ団長の胸の下だ。
彼女は胸が大きい。よって、その真下は死角となる。
私は体を反らしながらその死角へと潜り込み、箒天戟を振るう――
――キュルリンッ!
「くっ!? ……あ、あれ? 攻撃じゃない……?」
「あなたの鎧にこびりついている、"汚れ"だけを狙いました」
――上手くいった。
本来モップ等の清掃道具を人に向けて振るうなど、<清掃用務員>として言語道断な行為だ。
それでも、私には『問題ない』という確信があった。
箒天戟を始め、浄化手袋と地気霧吹を含めた極・清掃三種の神器。
この子達がいれば、私は人に危害を加えずにお掃除ができる。
この子達は私の意志の通り、"汚れ"だけを落としてくれる。
――私は今、お掃除の常識を超えようとしている。
「くっ……!? ど、どういうことだ……!? 急に力が抜けて……!?」
クッコルセ団長の様子を見ても、その効果が見てとれる。
先程、私は箒天戟をハタキのように変化させ、クッコルセ団長の"汚れ"を落とした。
箒天戟の先端は形状だけでなく、固さも自在に変化させられる。
大剣を躱す時は固かった先端も、"汚れ"を落とす時にはフワフワとした優しい肌触りに変化していた。
それどころか地気霧吹と同じように、<収納下衣>とリンクしてその先端に洗剤を宿すことまでできる。
本当にこの子は驚くほど優秀だ。愛してる。
「くっ……おのれぇええ!! お前みたいな訳の分からない奴に……負けてたまるかぁああ!!」
だが、肝心のクッコルセ団長はまだ終わらない。
それどころかその気合の叫びと共に、"汚れ"が再び膨れ上がっているのが見える。
「これはどうやら、一気にお掃除した方がいいようですね」
クッコルセ団長に染みついた"汚れ"は甚大だ。
台所の油汚れ以上に深刻と見える。
これほどの"汚れ"を落とすには相応の時間が必要だが、正直そんな余裕もない。
急がなければ、クッコルセ団長の命に関わる。
そんな事態は、人々の生活を守る<清掃用務員>たる私が許さない。
そんな願いを清掃魂に込めながら、私は再度箒天戟を変化させる――
「箒天戟――モデル『白虎』」
今回変化させたのは、私にとって最もなじみ深い、『地の清掃力』であるモップの形態。
そして<清掃用務員>の嗜みたる、体の右側に右手だけで箒天戟を沿えるようにして構え、クッコルセ団長の方に体を向ける。
「クッコルセ団長。これより私の全身全霊を持って、あなたをお掃除いたします……!」
「くっそぉお! アタイに対して意味の分からない言葉ばかり言って……調子に乗るなぁあ!!」
私は覚悟を決めて、大技の準備をする。
クッコルセ団長も私が大技を使う気配を感じ取ったのだろう。
大剣を低く構え、離れた位置から前屈姿勢をとっている――
「くったばれぇええ!! 意味不明メイドがぁああ!!」
――そして勢いよく大剣を振り上げる構えをとりながら、私の方へ向かってきた。
私もこの技を使うのは初めてだ。
だが信じるんだ、クーリア・ジェニスター。
私が現世で培った<アサシン>としての身体能力、<メイド>としての仕える心。
そこに前世の記憶から手に入れた、<清掃用務員>の圧倒的清掃力。
さらに今は、愛しき我が子のような相棒――箒天戟もいる。
恐れる必要はない。
私の清掃魂は決して屈しない。
「くっらえぇええ!!」
ブオォオンッ!!
――シュン!
「くっ!? 躱された!?」
私はまずクッコルセ団長の大剣による振り上げを、大きくしゃがんで躱す。
まるで礼儀のために地に伏す従者の如く、<メイド>としての心得を意識する。
そして大剣を振りぬいて隙だらけとなったクッコルセ団長の鎧へ、今度はこちらが箒天戟を振り上げる。
まるで獲物を捕らえた<アサシン>の刃の勢いの如く、しゃがんだ状態から一気に振り抜く。
そして、『絶対にお掃除する』という<清掃用務員>としての断固たる決意のもと、その大技を放った――
「――<従伏絶掃勢>!!」
キュキュリィィイイン!!
「くっこ~~~~!?」
――まさに一瞬。
私は振り上げた箒天戟で、クッコルセ団長の鎧にこびりついた"汚れ"を一瞬で洗い落とした。
そのひと振りで鎧の"汚れ"を全て落とし、さらに彼女自身には一切の衝撃すら伝わっていない。
完璧すぎる。流石は箒天戟。
私の願いを全て叶えてくれた、まさに愛しき我が子。
完璧な<清掃用務員>奥義、<従伏絶掃勢>であった。
「くっ……ち、力が抜ける……」
"汚れ"から解放されたクッコルセ団長は膝から崩れ落ち始めた。
私はそんな彼女の体を左手で抱え込み、介抱する。
「お気分はいかがでしょうか? クッコルセ団長」
「くっ……な、なんだか清々しい気分だ……。あんたがアタイを助けてくれたんだな……。感謝する」
私が顔を覗き込みながら容態を伺うと、先程までとは打って変わって穏やかな表情だ。
これでクッコルセ団長については大丈夫だろう。
「あなた様については清掃業務完了です。後はこの下水道のお掃除を終わらせましょう」
清掃業の方々、改めましてごめんなさい。




