清掃対象:クッコルセ・ウォンナキッシュ
クッコルセ、リベンジお掃除。
スミスピア様から私専用の清掃道具――新しい相棒達を受け取ると、すぐに王城の下水道へと向かった。
どうやら、シケアル殿下はまだお見えでない。
私の方が先に着けたようだ。
「いずれにせよ、時間はありませんか」
私は防水ブーツに履き替えると、下水道の奥へと進んで行く。
奥へと歩いていく最中、私は新たな装備の準備をする。
最強の手袋――浄化手袋。
最強の霧吹き――地気霧吹。
そして、最強のモップにして究極の清掃道具――箒天戟。
これら私にとっての新たな三種の神器――極・清掃三種の神器を身に着け、"汚れ"に満ちたこの下水道を進んで行く。
そして奥へと進むたび、"汚れ"の濃度が濃くなっているのが分かる。
間違いない。彼女は今もここにいる――
「……くっ!? またお前か!?」
「お久しぶりですね。クッコルセ団長」
――やはりいた。
王国防衛騎士団団長、クッコルセ・ウォンナキッシュ。
あの時と同じく、身に着けている鎧に"汚れ"が染みついた状態で、下水道の奥に一人たたずんでいた。
心なしか顔色が以前よりも悪くなっている。
"汚れ"の影響が心だけでなく、体にまで現れ始めたということだろう。
――これは危険な状態だ。
このままでは、クッコルセ団長の命に関わってくる。
「このような不衛生な場所に居続けるのは、あまりにも不健康です。そもそも、何故あなたはここを守るように居座っているのですか?」
「くっ! 関係ない! あんたには関係のない話だ! アタイの邪魔をする以上、あんたのような邪魔者は排除するだけだ!」
クッコルセ団長は私の話にも耳を傾けず、手に持った大剣を構えてくる。
やはり"汚れ"に囚われたままでは、まともな話など聞けそうにない。
――私も意を決して、極・清掃三種の神器をそれぞれ準備する。
地気霧吹はエプロンドレスのポケットに入れ、浄化手袋を着けた両手で箒天戟を体の右側に添える。
<清掃用務員>たる者の基本たる、モップの構え――
装備が変わろうと、お掃除の基本は変わらない。
清掃魂を研ぎ澄まし、これからやるべきことに集中する――
――クッコルセ団長のお掃除。
必ず私の手で、彼女を救い出してみせる。
「くっ! 新しい武器を用意したようだが……アタイには通用しないぞぉお!!」
そんな私に対して、クッコルセ団長が攻勢に出てきた。
持っている大剣に"汚れ"を纏わせ、それを振り上げて放たれる飛ぶ斬撃。
やはりクッコルセ団長の腕前は本物だ。
――だが、今の私には恐れることもない。
「まずは頼みましたよ。浄化手袋」
私はクッコルセ団長が飛ばしてきた"汚れ"の斬撃を――
ガシィインッ!
――左手で掴んで弾き飛ばした。
「くっ!? 馬鹿な!? アタイの斬撃を弾き――いや! それ以上に『掴んだ』だと!?」
「いくら強大な飛ぶ斬撃であろうと、"汚れ"を纏った攻撃であれば、もう私には通用しません」
クッコルセ団長は目を見開いて驚いているが、私はさも当然のように斬撃を掴むことができた。
浄化手袋――この子を装備した時から分かる。
ゴム手袋のような防菌性能はもちろん、この手袋はあらゆる"汚れ"を掴みとることができる。
<清掃用務員>なら誰でも夢見る、"汚れ"そのものを掴む性能――
今のクッコルセ団長の斬撃のように"汚れ"さえ含まれていれば、先程のように斬撃を掴んで弾くことさえ可能となる。
「くっ!? 調子に乗るなぁ! たった一発の斬撃を防いだところで……これは防げまい!!」
いきり立ったクッコルセ団長は、今度は大剣を激しく何度も振り回して、斬撃の数で勝負をしてくる。
「確かにこうまで数が多いと、全部を浄化手袋で弾くは厳しいでしょう。ですが――」
そんな大量の飛ぶ斬撃にも、私はクリーンな思考で対応する。
左手でエプロンドレスのポケットから地気霧吹を取り出し、トリガーに指をかけ――
シュ! シュ! シュ! シュ!
――"汚れ"の斬撃を全てスプレーして落とした。
「くっ!? アタイの斬撃を、全て撃ち落としただと!?」
「『撃ち落とした』のではありません。正確には『洗い落とした』のです」
そう。これもまたお掃除。
私が今左手に持っている地気霧吹からは、私の<収納下衣>とリンクして、あらゆる洗剤や消毒液を射出することができる。
<用務眼>で"汚れ"を分析し、私の意志一つで適応した液体の射出を自在に切り替えられる。
さらには取り付けられたタンクが空気ポンプの役目を担い、射出速度や範囲まで自由自在。
<清掃用務員>なら誰でも夢見る、至高の銃としての機能を持った、究極の霧吹き――
地気霧吹を手にした私には、弱点であった遠距離清掃さえも克服されている。
「くっ!? 小癪な! 何者なんだ!? さっきから見たことのない武器を使い、見たことのない技ばかり使いおってぇえ!!」
遠距離戦では分が悪いと判断したのか、クッコルセ団長は大剣を両手で構えてこちらへ駆けよって来た。
成程。近距離戦か。
前回の私なら身を守ることさえできず、あっさりやられていただろう。
――だが、今回は違う。
私は地気霧吹をエプロンドレスのポケットになおすと、浄化手袋に包まれた両手で、右手で体に沿わせていた極・清掃三種の神器の最後の一つを構えた。
それは『最後の一つ』にして、『最強の清掃道具』。
私の至高の相棒――箒天戟。
私は箒天戟を両手で優しく握りながら、向かってくるクッコルセ団長に言い放った――
「私の名前は、クーリア・ジェニスター。ファインズ公爵家にお仕えする、誇り高き<清掃用務員>です」
これが<清掃用務員>だ!




