新しい相棒達が出来上がりました。
「スミスピア様。お待たせしました」
「え? 早くないかぁ? 伝書鳩を飛ばしたのも、割とさっきだぞぉ?」
「私も急いで飛んできました」
屋根を飛び移り、平原を全速力で駆け抜けたおかげか、私はすぐにスミスピア様のもとへたどり着くことができた。
スミスピア様はそんな私を見て驚かれているが、私だって好奇心を押さえられない。
新しい清掃道具の完成と聞いて、<清掃用務員>の血が騒がずにはいられない。
「それで、私の新しい相棒はどこにいるのでしょうか?」
「まぁまぁ、落ち着けぇ。まずは順番に会わせてやるよぉ」
どうしてもウキウキを抑えられない私を諭すように、スミスピア様は奥の部屋へと行って清掃道具を取りに行かれた。
――それにしても、先程スミスピア様は『順番に会わせる』とおっしゃっていた。
これはどういう意味だろうか?
清掃道具は一つではないということだろうか?
「待たせたなぁ。まずはこいつからだぁ」
「これは――」
戻って来たスミスピア様は、まず机の上に何かを置かれた。
「手袋……ですか?」
「そうだぁ。手袋だぁ」
置かれたのは手袋。何の変哲もなさそうな黒い手袋だ。
見たところ、<メイド>が普段使う手袋と同じにしか見えない。
「フッ……。ただの手袋と思ってるのかぁ? そいつぁ違うなぁ。とりあえず、一度はめてみれば分かるさぁ」
「は、はあ……」
スミスピア様は自信満々といった感じで微笑している。
とりあえず私も言われた通り、その手袋をはめてみる――
「――ッ!? こ、これは!? この感覚は……!?」
――そしてはめてみて分かった、その手袋の素晴らしさ。
内側の肌触り、フィット感、動かしやすさ――
どれをとっても、完璧としか言いようがない。
これほどの手袋、前世でも身に着けたことがない。
それに、このゴム手袋と同じようなこの感覚は――
「どうやら気が付いたみたいだなぁ。これはお前さんの"魂"を元にして作った、お前さんだけのための手袋だぁ。機能面にしても完璧。その使い方は、お前さんにならよく分かるはずだぁ」
――感嘆のあまり、言葉も出ない。
スミスピア様が言う通り、私はこの手袋をはめただけでその機能を理解した。
この手袋だけでも、相当な一品。
ゴム手袋百枚分の清掃力と言っても過言ではない。
「感謝します、スミスピア様。こちら、ありがたく使わせていただきます」
「感謝するのはまだ早ぇなぁ。次の道具もあるんだぜぇ」
そう言ってスミスピア様は、足元からさらに別の道具を取り出された。
どうやら本当に複数の清掃道具を作ってくださったようだ。
作ってくださったのは良いのだが――
「これは……?」
「なんだぁ? お前さん、確か元<アサシン>だろぉ? これが何か分からねぇかぁ?」
「いえ……。分かることは分かるのですが……拳銃でしょうか?」
――次に取り出されたのは、この世界では珍しい拳銃だった。
珍しいと言っても、私は<アサシン>として使った経験がある。
ただ、この拳銃――
「この取り付けられている、タンクのようなものは何でしょうか?」
「オレにも分からねぇ。お前さんの"魂"を元にして作ったら、こうなっただけだぁ」
「ええぇ……」
――スミスピア様の言葉を聞いて、流石に不安になってくる。
今私の目の前にある拳銃には、水か空気を入れるようなタンクが付いている。
それはまるで前世で見た、子供用の高威力水圧水鉄砲のようだ。
――要するに、まるでオモチャだ。
「フッ……。この拳銃をただのオモチャだと思ってるなぁ? そいつぁ違うなぁ。とりあえず、一度手に取ってみろぉ」
「ご自身でもなぜこうなったのか分からないのに、よくそんな自信満々に言えますね……」
スミスピア様の自信の根拠は分からないが、一度手に取ってみる他ない。
<アサシン>時代を思い出すようであまりいい気はしないが、はたして――
「――ッ!? こ、この握り心地!? それに、トリガーへの指の掛けやすさは……!?」
――驚愕。またしても私の想像の上を行く品だ。
適度な重さ、私の手に合わせたデザイン、フレームとのかみ合わせをタイトにさせた精度向上――
全てが完璧だ。非の打ち所がない。
それに握ってみて分かったが、これは拳銃ではない。
言うなれば、超高性能の霧吹きだ。
前世でこんなものがあれば、全財産をはたいて借金してでも購入する。
「お前さんの想像通り、そいつもお前さん専用だぁ。その扱い方は、お前さんならすぐに理解できるだろぉ?」
スミスピア様に尋ねられるが、またしても感嘆のあまり声が出ない。
稀代の名銃を手にした工作員というものは、今の私のような心境なのだろう。
実に素晴らしい霧吹きだ。
これだけでも、霧吹き千個分の清掃力はあると言っても過言ではない。
「感謝します、スミスピア様。こちらも、ありがたく使わせていただきます」
「おっとぉ、まだ終わりじゃないぜぇ。最後に大本命が残ってるぜぇ……!」
そう言ってスミスピア様は足元から、最後の一品を取り出された。
布でくるまれた、長い棒状のもの――
私はそれを直接手渡され、その布を外す――
「こ、ここ、これは……!?」
取り外した布から現れたその姿を見て、私は思わず声を振るわせてしまう。
――先端が巨大なフォークのようになった槍のような道具だ。
だが、これはただの巨大フォークではない。
これまでスミスピア様に見せていただいた、手袋と霧吹き。
その流れから見ても、今こうして握っただけでも、その圧倒的な清掃力をひしひしと感じる。
間違いない。これこそ私が生涯をかけてでも追い求め、そして手にしたかったもの――
――『最強のモップ』だ。
握りしめるたびに、その力と性能と美しさを感じ取れる。
その清掃力――まさに、モップ一億本分。
「ほ、本当に私がこれをいただいても、よ、よろしいのでしょうか……?」
「何言ってんだぁ。そいつもまた、この世でお前さんしか使いこなせない代物だぁ」
「う……ううぅ……! ほ、本当に……本当にありがとうございます……!」
私は感動のあまり、涙を抑えられない。
受け取った新しいモップ――手袋と霧吹きも含めた『新しい相棒達』。
私だけのために作られたこれらの清掃道具を見て、私は確信した――
――今私は<清掃用務員>として、最強の武器を手に入れた。
今度こそ、私にお掃除できないものは存在しない。
「そ、そうでした、スミスピア様。これらの清掃道具達には、なんという名前があるのでしょうか?」
「フッ……。そいつぁ、お前さんが決めることだぁ。なんたって、お前さんだけの装備だからなぁ」
最後に新しい相棒達の名前を聞こうとしたが、確かに私のための装備なら、私が名づけるべきだ。
私はそれぞれの道具を見ながら、愛しさを込めてその名を呼んでいった――
「あなたは……浄化手袋」
私はこの最強の手袋に、そう名付けた。
「あなたは……地気霧吹」
私はこの最強の霧吹きに、そう名付けた。
「そしてあなたは――」
最後に私はこの最強のモップに強い清掃魂を込めながら、その愛しき名前を呼んだ。
このモップなら、自在箒をはるかに上回る自在性を発揮できる――
「あなたの名前は……箒天戟」
今ここに、最強の清掃道具を手に入れた、最強の<清掃用務員>が誕生した……!




