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急ぐ必要があるようです。

お泊まり会の翌日。

「おはようございます、マリアック」

「おはようございます~、クーリア~」


 マリアックが生活している聖ノミトール学園内の教会で一晩を過ごし、起きた私はいつものメイド服に着替えた。

 先に起きていたマリアックもいつもの修道服に着替え、朝食の準備をしてくださっている。


「朝食まですみません。それにしても、マリアックは早起きですね」

「いえいえ~。クーリアはお客さんでもあるので~、当然のことをしたまでですよ~」


 マリアックはいつものほがらかな笑顔で、いつも通り接してくれる。

 お互いの名前を呼び捨てで呼び合うことにも、だいぶ慣れてきた。


 私とマリアックは共に席につくと、用意してくれた朝食のトーストを頬張る。


「モグモグ……おいしいですね。ありがとうございます、マリアック」

「そこまでかしこまらなくても~、大丈夫ですよ~」


 私はだいぶ縮まったと思っているマリアックとの距離感だが、まだ少し離れているようだ。

 だが、焦ってはいけない。

 友人関係とは、きっとこうして少しずつ築くものなのだ。




「……ん? 朝食中にすみません。少し気になる反応を感じ取りました」

「んふ~?」


 平穏にマリアックと朝食をとっていたが、私の脳内に気になる情報が入って来た。

 どうやら無意識のうちにファインズ公爵邸にいる時と同じく、<アサシン>と<メイド>スキルを使って周囲の状況を確認してしまったようだ。

 マリアックはトーストを口に頬張ったまま首をかしげるが、私にはどうしてもこの反応が気になってしまう。


「ココラルお嬢様が……もう登校されている?」

「ハフハフ~……ゴクン。おかしいですね~? 始業まではまだまだ時間がありますし~、来るのが早すぎますね~」


 マリアックも疑問に思った通り、ココラルお嬢様の登校が早すぎる。

 それどころか、確認できるだけでも大勢の生徒がすでに登校している気配を感じられる。


「これは何かあるのかもしれませんね……」


 私の心の中で清掃魂(セイソウル)の共鳴を感じる。

 私の想定外の事態が起ころうとしている。

 そんな気配が感じられる――


「すみません、マリアック。私は急いで様子を見てきます」

「え~? 朝ごはんが~、まだ残ってますよ~?」

「それに関してはありがたくいただきます」


 私はマリアックが用意してくださったトースト、目玉焼き、ベーコンを一斉に口に頬張り、すぐに教会を後にした。


「ク、クーリア~!? そんなに一度に口に入れたら~、食べきれませんよ~!?」


 その時にマリアックが私のことを心配してくださったが、その心配は無用だ。


 私は<清掃用務員>。

 急なお仕事にも向かえるよう、早食いには自信がある。





「ふぉふぉらるおひょうひゃま。ふぉんなはひゃふに、もうひょうほうひゃれへいふのれふひゃ?」

「クーリア!? 口に色々詰めすぎて、何を言っているか分からないですの!?」


 ココラルお嬢様がいた校門の辺りにはすぐたどり着けたものの、朝食を全て食べきることができなかったため、全く言葉にならなかった。

 これは計算外。私の早食い速度より、身体能力の方が上回ってしまったようだ。


「……ゴクン。失礼しました、ココラルお嬢様。それより、もう登校されたのですか?」

「え、ええ。シケアル殿下が人を集められて、何やら発表されるとのことですわ……」


 私は朝食を一気に飲み込み、改めてお嬢様へと事情を伺う。

 お嬢様は何故か少し引き気味だったが、どうやらシケアル殿下が関わっている話のようだ。

 周囲を見てみると、確かに多くの生徒達の中心で、馬に乗ったシケアル殿下がいるのが見える。


 そしてお嬢様も言われた通り、シケアル殿下が何かを発表され始めた――




「諸君! 先刻、王城より情報が入った! 王国防衛騎士団団長、クッコルセ・ウォンナキッシュが王城の下水道に籠り、クーデターの計画を立てているそうだ! 僕はこの事態を見逃すことができない!」

「クッコルセ団長が……クーデター?」


 シケアル殿下が話された内容に、私は思わず首をかしげてしまう。

 確かにクッコルセ団長は現在、王城の下水道に立てこもっている。

 だが、彼女は"汚れ"の影響で正気を失っているだけだ。

 もしもクーデターを考えているという情報があるならば、ジーキライ陛下がすでに動いているはず。


 ――どうにも話が見えてこない。


「僕はこれから反逆者たる、クッコルセ・ウォンナキッシュの討伐に向かう! 凱旋を待っていてくれたまえ!」

「キャー! シケアル殿下ー!」

「お待ちしてますわー!」


 そしてシケアル殿下は馬の手綱を握り、クッコルセ団長の討伐に向かおうとしている。

 ――これはもしかすると、マズい状況ではないだろうか?


「ファブリ。君も僕の帰りを、待っていてくれたまえ」

「は、はい……」


 最後にシケアル殿下はファブリ様に挨拶を交わし、馬を走らせていかれた。

 かなり丁寧に思いを伝えたシケアル殿下だったが、お相手であるファブリ様は困惑しておられる。


「それにしても、何故シケアル殿下はクッコルセ団長を反逆者と判断したのでしょうか?」

「わたくしが思うに、クッコルセ団長に関する真実はそこまで重要には見えませんことよ」


 馬に乗って駆けて行くシケアル殿下を見て疑問に思っていると、ココラルお嬢様が口を挟まれた。


「シケアル殿下の目的はおそらく、『自身のイメージアップ』ですわ。そして何より、『ファブリさんへのアピール』と考えられますわね」

「や、やっぱりそうなんですね……。ボク、あの人苦手なんですけど……」


 お嬢様が自身のお考えを述べていると、ファブリ様もこちらへとやってこられた。

 その表情はどこか疲れた様子で、シケアル殿下への苦手意識が感じられる。


「確かにシケアル殿下はファブリ様に気があるようでしたね。そうなってくるとやはりお嬢様の言う通り、アピールが目的でしょうか」


 おそらくココラルお嬢様の考えは正しい。

 こんな短時間でこの結論を導き出せるとは、流石はお嬢様だ。

 聡明な令嬢魂(レイジョウル)をお持ちである。


 だがいずれにせよ、この状況は非常にマズイ。

 いくらシケアル殿下が優秀な未来の<勇者>であろうとも、クッコルセ団長が相手では荷が勝る。

 何より、シケアル殿下はクッコルセ団長を本当に討伐するおつもりのようだ。

 そんなことは<清掃用務員>たる私の道理に反する。

 クッコルセ団長は"汚れ"に囚われているだけ。危害を加えるわけにはいかない。

 だがこうなってしまった以上、私が急いでクッコルセ団長をお掃除しなければいけないが、肝心のモップが――




 バサッ バサッ


 クルッポォウ



「ん? 鳩ですか? 私の方に飛んできますが?」

「あ! あれは伝書鳩ですね。きっとクーリアさんにお手紙ですよ」


 ――そうだった。ファブリ様に言われて思い出した。

 この世界には前世のスマホといったような通信機器はないが、その代わりとして優秀な伝書鳩がいる。

 前世にも伝書鳩はいたが、この世界の伝書鳩は特に優秀だ。

 伝達速度もさることながら、手紙を足に結びつけるのではなく、口にくわえてしっかり運んでくれる。


「私に手紙ですか。一体、どなたからでしょうか?」


 私は飛んできた伝書鳩を右手の甲に乗せ、左手でくわえられていた丸まった手紙を受け取った。

 手紙を渡し終えた伝書鳩が飛び立った後、私は手紙を広げてその内容を確認する――




『クーリアァア・ジェニスタァァア! お前さんのぉお! 新しい清掃道具がぁあ! 完成したぞぉぉお!! 今すぐぅう! オレのところまでぇえ! 取りに来いぃぃい!! スミスピアァア・ガンランスゥゥウ!!』




「……なぜあの人は、手紙に書いてある字で叫んでいるのでしょうか?」


 送り主はスミスピア・ガンランス様。

 内容は私が依頼していた品が完成したことについて。

 一応『清掃道具』と書かれているので、その点については忘れられていなかったようだ。

 字が叫んでいるのは、余程気合いが入っていたからだろうか?


「いずれにせよ、今はゆっくり考える時間も惜しいですね」


 このままではクッコルセ団長もシケアル殿下の身も危ない。

 スミスピア様に依頼していた清掃道具が完成したのならば、大急ぎで取りに向かおう。




 そして、私が誰よりも先にクッコルセ団長のお掃除を終わらせる。

 そうすれば、誰にも被害は及ばない。

 <清掃用務員>としての、意地の見せ所というものである。




「ココラルお嬢様、ファブリ様。私は急用ができました。これより、清掃業務(ミッション)に向かいます」

「クーリアはいつも何かで動いてますわね……。もう少し休暇を取ってもよろしくてよ?」

「お言葉だけありがたく受け取らせていただきます。ですが、休暇はもう十分いただきました」

「……一日だけですよね?」


 お嬢様もファブリ様も、どこか呆れたような心配なような顔をしておられるが、今回ばかりは本当に急を要する。

 休暇についても一日もいただいたのだ。十分すぎる程だ。


 私は軽く靴のつま先をトントンとし、数回軽く飛び跳ねて準備運動を終えると、全身に<アサシン>の身体能力強化をかける――




「それでは行ってきます。全てはこの、クーリア・ジェニスターにお任せください」



 ビュゥウン!!



「は、速いですわ!?」

「わわっ!? か、風が!?」


 ――そこから一気に飛び上がり、学園の塀を超えて民家の屋根を飛び跳ねながら、スミスピア様のもとへと急ぐ。

 屋根の上を走るのは少々無作法な気もするが、とにかく今は時間が惜しい。

 最短かつ、最速で目的地へと向かう。




 ――そして何より、『私の新しい清掃道具』の存在が気になって仕方ない。




「一体どのようなものが完成したのでしょうか? ……フフッ。胸が高鳴りますね……!」


 思わず笑いがこみ上げる程の期待を胸に、私は清掃道具のもとへと急いだ――

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