表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/168

童話を読んでみます。

ちょっと童話を読んでみる編。

「あ~……。その本ですか~……」

「マリアック。この本は何でしょうか?」


 私が拾った奇妙な本。

 『笑った狐おの面』を被った少年が描かれたこの本について、持ち主であるマリアック自身に尋ねてみた。

 マリアックはどこか複雑な表情をしながら、この本について語ってくれた。


「この本のタイトルは~……『フェイキッドの亡霊』。かつて、このウォッシュール王国の第二皇太子だった人――シケアル・スクリーム殿下の双子の弟の~、フェイキッド・スクリーム様を題材にした童話です~……」

「第二皇太子『だった』人……ですか?」

「フェイキッド様は~、幼い頃に~、亡くなられてるのです~……」


 本の説明をしてくれるマリアックは、どこか悲しそうな表情をしている。


 ウォッシュール王国元第二皇太子殿下、フェイキッド・スクリーム。

 現皇太子、シケアル・スクリーム殿下の双子の弟。

 幼い頃に亡くなられたそうですが、そのようなお方がどうして童話の題材に――


「すみません、マリアック。少々この本を読んでみてもよろしいでしょうか?」

「いいですよ~。私も一緒にもう一度~、読んでみますね~」


 気になった私はマリアックの許可を得て、二人で一緒に『フェイキッドの亡霊』を読み始めた――



〇 〇 〇



 ――『フェイキッドの亡霊』――


 昔、ウォッシュール王国には双子の皇太子がいました。


 一人は兄のシケアル・スクリーム。

 もう一人は弟のフェイキッド・スクリーム。


 二人の兄弟は仲が良く、幼い頃から周囲に愛されて育っていました。

 兄のシケアルは剣、魔法、学問に優れ、王国の次代の『政治』を担う存在でした。

 弟のフェイキッドは芸術面で多彩であり、王国の次代の『文化』を担う存在でした。

 双子の皇太子は、それぞれの力でそれぞれの未来を期待されていました。




 ――ですが、ある者がこんな噂を流し始めました。


『弟のフェイキッド様は芸術ばかりで、ウォッシュール王国の品性に悪い影響を与えている』


 それは根も葉もない噂でした。

 そのような事実はどこにもありませんでした。

 その噂はただ、フェイキッドの才能を妬んだ者の『嘘』でした。


 それでもそれが『嘘』と知ることができない民は、そんな噂を信じ初めてしまいました。

 噂をどんどんと拡大し、王国中の民にとっては『真実』となってしまいました。


 一人の何気ない『嘘』は、大きく広がり――

 その『嘘』はいつしか、あるはずのない『真実』として存在し――

 人々にとっての『真実』が、『嘘』を塗り替えてしまいました。




『フェイキッド・スクリームの芸術は、品性に悪影響を与える』

『フェイキッド・スクリームの存在は、王国にとって害である』




 『嘘』から産まれた民にとっての『真実』は、さらに歪んで変化しました。

 そんな歪んだ『真実』は、当事者であるフェイキッドの耳にも入りました。


 まったく身に覚えのない『真実』の存在。

 それが『嘘』だと主張しようとしても、フェイキッドの言葉に耳を貸す者はいませんでした。




 ――それほどまでに、『嘘』が人々にとっての『真実』として染みついていました。




 フェイキッドは絶望しました。

 まだ幼いフェイキッドには、心無いこの噂が耐えられませんでした。




 そして、ある日。

 フェイキッド・スクリームは王城の自室から飛び降り、その命を自ら絶ってしまいました。




 その事実を知った兄のシケアル・スクリームは嘆きました。

 そして亡き弟のためにも、弟の分も生きるように文武に励みました。


 シケアルの望みは、『本当の真実』が語られる世界の創生。

 『嘘』による犠牲なき、本当の意味での『真実』の存在が許されることを望みました。




 ――ただそれとは別に、フェイキッドの怨念は残りました。

 『嘘』によって死に追いやられたその魂は、今尚亡霊としてこの世に留まり続けています。

 自らが芸術の一つとして嗜んでいた演劇。

 その際に使っていた『笑い狐の面』を被り、夜な夜な嘘つきを襲っています。


 『嘘』をついていたら、"フェイキッドの亡霊"に襲われます。

 『嘘』をつくと、フェイキッドと同じ結末が待っています。




 ――だから、『嘘』をついてはいけません。



〇 〇 〇



「――なんと。このような話が、このウォッシュール王国にありましたとは……」

「この物語は~、事実かどうかは私にも分かりません~。王族の方なら分かるでしょうが~、多少の脚色は入ってると思います~」


 『フェイキッドの亡霊』を読み終えると、何とも言えない辛い気持ちになってきた。

 本当に悲しい気持ち。例えようとしても例えられない。

 マリアックはそんな私を見て、慰めるように説明を入れてくれる。


「この話は~、教訓とも言える童話なのですよ~。フェイキッド様が亡くなられたのは事実ですが~、この物語が伝えたいのは~、『嘘をつくのは悪いこと』ということです~……」


 マリアックも普段の調子を取り繕おうとしているが、声色からは悲しさが感じられる。

 確かに教訓にはなるかもしれない。

 前世で私が読んだ、『オオカミ少年』の逆パターンとも言える。


 しかし、フェイキッド・スクリーム様が亡くなられた事実を考えると、どうにも複雑だ。


「マリアックもこの本が『真実かどうか』までは、完全には知らないのですよね?」

「そうですね~。脚色はあるでしょうけどね~」

「それならば、私は『嘘をつく』のもいいと思います」

「……はい~?」


 マリアックは不思議そうな顔で私の話を聞いているが、そもそもおかしな話が一つだけある。


「この童話は事実を元にしているとはいえ、"作り話"です。脚色という『嘘』が織り込まれています。"フェイキッドの亡霊"というものも実際に存在していれば、私の耳に入っていてもおかしくありません」

「そ、それはそうでね~……」

「ですが、こういう童話が教訓になるのであれば、私は『嘘をついてもいい』と考えます」

「……クーリアって~、お掃除のことしか頭にないかと思ってましたけど~、そうでもないみたいですね~」


 マリアックは私の意見を聞きながら、どこかいつもとは違うニマニマとした笑顔で私を見てくる。

 それはまるでいたずら好きな子供のような笑顔だ。

 前世で幼稚園のお掃除をした時、私のスカートをめくって来た男児に近い。


「……心外ですね。私もお掃除以外のことだって考えます」

「本当ですか~?」

「……本当です」


 そんなマリアックの態度に、私も少し腹が立ってしまう。

 思わずムッとした顔で返事してしまう。


 ――ただ、心の底から『嫌だ』という風には思わない。

 <清掃用務員>としてこのような不快な感情を表に出すなど、本来あってはならないこと。

 それでも、私は不思議と今の行動を受け入れられた。


「いずれにせよ~、クーリアは嘘なんて~、つけなさそうですよね~」

「それを言うならば、マリアックとて同じことでしょう。フフッ」


 マリアックの協力もあって、私は自然な会話ができている。

 私自身の心だけでなく、表情も不思議と穏やかになっている気がする。




「あ~! クーリア~! 今の笑顔は~、実に女の子らしかったです~!」

「……え? 今、私は笑っていたのですか?」

「笑ってましたよ~。実にいい笑顔でした~」


 マリアックに言われて気付いたが、私は確かに笑っていたようだ。

 それも自然とした笑顔でだ。

 <清掃用務員>としての業務的な笑顔ではない。




 ――これが友人関係というものか。

 いつの間にか、私はマリアックとそういう関係を築けているのだろう。




「さてと~。もう遅い時間ですので~、ご飯を食べたら休みましょうか~」

「ええ、そうですね。私もお料理をお手伝いします」


 そんな穏やかな時間をマリアックと過ごしながら、私は夕食をとって眠りについた。

 夕食の準備もマリアックと一緒にし、寝る時も隣り合わせの布団。


 ――前世の二十八年と現世の二十五年を合わせても、初めてする経験だった。




 ――ただ、マリアックは夕食の準備中に三回、布団の準備中にも三回転んだ。

 これはもう慣れた経験だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ