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お泊り会というものでしょうか。

ややお風呂あり。

「クーリア~。お風呂が空きましたよ~」

「すみません。わざわざありがとうございます」


 教会に設置してあるお風呂が沸くと、先にマリアックに入ってもらった。

 この教会の主は彼女だ。よって、先に入ってもらうのが礼儀。

 何事における順番も、<清掃用務員>としての嗜み――


「クーリア~? 今~、お仕事に関係することを~、考えてませんでしたか~?」

「……すみません。少し考えていました」


 マリアックに心を読まれでもしたのか、少しいじわるな笑顔で思考を遮られてしまった。

 旦那様やココラルお嬢様にも言われたが、どうにも私は<清掃用務員>としての清掃魂(セイソウル)を第一に考えてしまう。

 これは私にとってのプライドだが、今は出すべき時ではない。

 『深く考えすぎる』ことは、友人関係において無粋なもの。

 清掃魂(セイソウル)も機会を考えて使い分けよう。


「では、私もお風呂いただきます」

「はい~、どうぞ~。ごゆっくりと~」


 私はマリアックのお言葉に甘え、お風呂で疲れを癒しに向かった。





「フゥー……。小さなお風呂ですが、一人でゆっくり浸かるのも心地よいものですね」


 教会のお風呂に浸かりながら、私は久しぶりにゆったりとした時間を過ごしていた。


 ――こうしていると、いろいろ気になってくることがある。


 ココラルお嬢様から始まった、"汚れ"に関する騒動。

 ファインズ公爵家だけでなく、ファブリ様やここ聖ノミトール学園をも襲った"汚れ"。

 今も尚、クッコルセ団長にこびりつき、その身を縛り付ける前世では想像もできなかった力を持つ"汚れ"。


 "汚れ"の正体を追うたびに、その力の異様さを感じ取れる。

 私が転生したこの世界は、所謂『魔法の世界』。

 前世と違う世界ゆえ、私の<清掃用務員>としての常識さえも通用しないことがある。


 ――それでも、私の<清掃用務員>としての常識が通用する場面も多い。

 私がこの世界に転生した理由など分からないし、正直そんなことはどうでもいい。


 今の私はクーリア・ジェニスター。ファインズ公爵家に仕えし者。

 前世の記憶が蘇るよりも前から二十五年間、ずっとこの世界で生きてきたのだ。

 今更私がこの世界にいる理由を考えようとも、そこに意味を感じない。


 大切なのは、『私に大切な人を"汚れ"から守る力がある』ということだけだ。




「……いけません。またしても考えすぎていたようです」


 湯船に浸かりながら、私はまたしても深く考えてしまったようだ。

 一人の時間とはいえ、今は休暇の最中。

 もし考えるならば色々考えるよりも、今の私に託されている最大の課題について考えよう。




 ――クッコルセ団長のお掃除。

 スミスピア様の装備作りさえ終われば、私はその清掃業務(ミッション)を再開できる。




「……さてと、考え事はこれぐらいでいいでしょう」


 目下の課題を心に決めた私は、湯船を出て体を洗い始めた。





「……あ~、クーリア~。丁度いいところで~、お風呂から出てきてくれました~」

「……何をされているのですか? マリアック?」


 そうしてお風呂から出て元の部屋に戻って来た私の目にまず飛び込んできたのは、棚から零れた本に埋もれたマリアックの姿だった。

 せっかくお風呂に入ったマリアックなのに、私がいない間にまたドジをして、こんな汚れそうなことをするとは――


「はぁ……仕方ありません。私も手伝いますので、片づけましょう」

「すみません~……」


 私はマリアックを本の山から助け出す。

 私も今はお風呂上がりで、借りているバスローブ姿だ。

 汚れてしまうのは嫌だが、流石にマリアックを放っておくわけにもいかない。


「助かりました~。……それにしても~、クーリアって~、髪を解くと雰囲気が~、変わりますね~」

「……そうでしょうか?」


 マリアックに言われた通り、今の私の格好は普段とはだいぶ違う。

 メイド服も着ておらず、身に着けているのはマリアックから借りたバスローブ。

 普段はお仕事のために括っている髪も解き、ロングストレートヘア。

 前髪もお風呂から上がりたてで、全体的にしっとりしている。


「成程~、成程~。これは勇者科の担任の先生や~、学園長が惚れちゃうのも~、無理はありませんね~」

「……? おっしゃる言葉の意味が分かりません」

「ご自身では気づいていないようですが~、今のクーリアって~、かなり色っぽいですよ~」


 マリアックはそう言うが、果たしてそうだろうか?

 私は表情の変化に乏しく、胸もあるわけではない。

 胸ゼロのマリアックと比べると流石にあるが、それでも魅力的とは言えない。

 『女性の胸は大きいのが正義』と、どこかで聞いたことがある。


 ――前世で聞いたのか、現世で聞いたのか、それすらも思い出せないが。


 いずれにせよ、こんな不愛想で見た目にも特徴のない私に、女性的な魅力があるとは思えない。




「やれやれ……。それにしても、よくここまで器用にドジを踏んで散らかして――ん?」


 マリアックの話を聞き流しながら散らかした本を片付けていると、私は一冊の本が目に入った。

 表紙を見たところ童話のようだが、この世界で二十五年生きてきた私でも初めて見る。

 表紙の絵に描かれているのは、『笑った狐のお面』を被った少年――

 その姿に、どこか興味を惹かれる――




「『フェイキッドの亡霊』……?」

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