鍛冶屋さんに会いに行きます。
「あいつに会うのも久しぶりだな……」
「旦那様のご友人ですか。"超一流"の<鍛冶屋>であることを除いても、私も興味があります」
陛下にお呼ばれした翌日。
私は旦那様と一緒に、目的の鍛冶屋さんに会いに向かっていた。
――スミスピア・ガンランス。
その腕前は陛下をもってして、王国一と評されるほど。
<鍛冶屋>に清掃道具が作れるのかは不明だが、ここは陛下や旦那様を信じよう。
お二方の幼馴染ともなれば、自然と期待も沸いてくる。
■
「……着いたぞ。ここだ」
「こ、ここですか……」
そうして旦那様に案内されてやってきたのは、街外れにある一軒の家屋。
鍛冶道具と思われるものもたくさんあるのだが、何よりも気になることがある――
――汚い。凄まじく汚い。
道具はそこら中に散らかっており、片づけられていない。
それどころか使いっぱなしで、置き方も雑だ。
鍛冶用の油の匂いも含まれて、不衛生なこと極まりない。
「……お掃除したいです」
「……正直、お前なら言うと思った。だが今は耐えてくれ。ともかく先に、スミスピアのボケに会うぞ」
旦那様も周辺の様子に顔をゆがめ、家屋の主に苦言を呈しながらも中へと入っていく。
私も清掃魂から来るお掃除衝動を押さえながら、旦那様の後に続いて入っていく。
こんな整理整頓も何もない場所にいる人間が、本当に頼りになるのだろうか――
■
「ウィ~ック! お~? なんだ~? アトカルのバカじゃね~か~? かわいいメイドさんなんか連れて来て、オレに何の用だ~? ヒック!」
「……お酒臭いです」
「……今は耐えてくれ」
――結論。とても頼りになりそうにない。
私と旦那様が会いに来た目的の人物は、酒瓶を手にしながらお酒におぼれていた。
「すみません。あなたがスミスピア様でよろしいでしょうか?」
「お~? メイドさん、オレのことが気になっちゃう~? そうだぜ~。オレが稀代の名工、ウォッシュール王国イチの<鍛冶屋>、スミスピア・ガンランスだ~。ウィック!」
念のために確認してみたが、やはり間違いないようだ。
この酔いどれが陛下も推薦された名工、スミスピア・ガンランス様なのか――
――不安しかない。
「クーリア。こいつの態度は大目に見てやってくれ。ちょっと色々あって荒れてるんだ」
「左様でございますか」
私の不安を感じ取ったのか、旦那様が小声で注釈を入れて下さる。
スミスピア様は陛下ほどではないにしろ、ガッチリとしたガタイをしておられる。
そして何より、生身の部分から見える大量の古傷――
お顔に至っては大きな十字傷が刻まれており、何か激しい戦いを終えた後であることが伺える。
それはまさに、大戦争の後の兵士のような、あるいは超巨大な猛獣に襲われでもしたような、とても痛々しい傷――
これらの要因から推測するに、その戦いが原因でこのようにお酒に入り浸っているのだろう――
「実はスミスピアの奴、少し前に奥さんに逃げられてな。その時に奥さんから全身に大ケガさせられるわで、以来ずっとこんな調子なんだ……」
「ええぇ……」
――前言撤回。ケガの理由が意味不明。
私の口からも、思わず呆れた声が漏れる。
奥さんに逃げられて荒れていることについては、まだかろうじて理解できる。
だが、スミスピア様の傷はとても人間一人――いや、人間に負わされたものには見えない。
このお方の奥さんは猛獣か何かだろうか?
「さっきから何二人でべちゃくってんだ~? ヒック! オレに用があるんじゃないのか~?」
「おっと、そうだった。スミスピア。お前に頼みたい仕事がある」
呆れたまま固まっていた私だが、それを見たスミスピア様の言葉で本題に戻る。
旦那様はをの内容を、スミスピア様に話し始めた。
「彼女の――わしの従者のクーリア・ジェニスターに、お前の手で一つ武器を作ってほしい」
「このメイドさんに~?」
「ああ。だが武器と言っても、『人を傷つけること』を目的としないものだ。手っ取り早く言えば、『強靭な清掃道具』を作ってほしい」
「清掃道具だ~~!?」
旦那様から依頼内容を聞いて、スミスピア様は愕然とした表情で声を上げられる。
確かに<鍛冶屋>が清掃道具を作るなどという話、聞いたことがない。
それでも旦那様や陛下がご指名されたお方だ。きっと力になってくれる。
――正直、この酔っ払い具合を見ると心配で仕方ないが、それでも私も信じてみよう。
「スミスピア様。王国随一の<鍛冶屋>であるあなた様にこのようなことを頼むのは、私としても気が引けます。ですが、これは私のお掃除に――いえ、この国のために必要なことなのです。高い強度を持ったモップで構いません。どうかお願いします」
私は頭を下げ、酔っ払い――いえ、スミスピア様にお願いする。
モップを作るなど、<鍛冶屋>の誇りに傷つくかもしれない。
それでも私には必要だ。
この人の腕前を一度信じ、クッコルセ団長にも対抗できる新たなモップを作って――
「……クーリア・ジェニスターだったな? お前さん、何か勘違いしちゃいねぇかぁ?」
「……え?」
私の話を聞いていたスミスピア様が口を開かれたが、そこから出てきた言葉はこれまでの酔っ払いのものとは違う。
私の体へのしかかってくるような、どこかドスの利いた重みのある言葉。
表情も先程までと違い、酔いが抜けたように見える。
――私の<アサシン>としての本能が告げている。
このお方は優秀な<鍛冶屋>らしいが、それよりも何よりも――強い。
「どんな武器にせよ、道具にせよ、そこには魂が宿るってもんだぁ。使い手だけじゃねぇ。作り手も魂を込めてこそ、本当の意味で"超一流"の装備ってもんが出来上がると思わねぇかぁ?」
「た、確かに……!」
「それだってぇのに、お前さんは『高い強度を持ったモップで構わない』とか……。そんな妥協点みたいな要望をして、<鍛冶屋>を舐めてんのかぁ?」
「も、申し訳ございません……!」
さらにそこから放たれたお言葉から垣間見える、<鍛冶屋>としての誇り。
私も慌てて大きく頭を下げて謝罪する。
――今のは私が悪い。完全に私の落ち度だ。
流石は旦那様や陛下が認めた、王国随一の<鍛冶屋>だ。
自らが作るものならば、どんな妥協も許さない覚悟――
――直感で理解できた。
この人になら、私の『新しい相棒となるモップ』を作ってもらえる。
「……分かってくれたのならいい。だが、いくらアトカルの頼みとはいえ、オレがまったく知らない奴の装備を作ってやるわけにはいかねぇ」
「お、おい……スミスピア。お前まさか、クーリアにも――」
私の誠意が通じたのか、スミスピア様は私の気持ちを汲んでくださったように見える。
だが、素直に私の新しいモップを作ってくれるわけではなさそうだ。
旦那様も戸惑いながら様子を見ているが、そんなことは関係ないとばかりに、スミスピア様は近くにあった槍を手に取られる。
――マズい。嫌な予感がする。
私の<アサシン>としての本能がそう告げてくる。
「表に出ろ、クーリア・ジェニスター。オレが一つ、お前さんを試してやるよぉ……!」
<清掃用務員>を舐めるなよ?




