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国王陛下にお呼ばれしました。

モップは犠牲になったのだ……。

 フクシマンの格好のままの陛下と別れた後、予備のメイド服に着替えた私は王城へとやって来た。

 先に言われていた通り、陛下が話を通してくれたのだろう。

 私が来ると、すぐに陛下の私室に案内してもらえた。


 王城の中は非常に慌ただしかった。

 陛下が言っていた通り、クッコルセ団長の穴を埋めるために、<騎士>が奔走しているようだ。

 


「……陛下、失礼します。お呼びの通り、このクーリア・ジェニスターが参りました」


 そのまま案内されるがまま陛下の私室に入り、私はお辞儀をして挨拶した。




「おぉ。来たか、クーリア。ジーキライが言うには相当落ち込んでたようだが、大丈夫か?」

「自分のところの従者の心配をするのもいいが、この者、吾輩に相当失礼なこと言ってたぞ? アトカル」


 部屋に入って私にかけられた声を聞くと、二人の男性の声が聞こえた。

 一人は陛下だが、もう一人は私も聞きなれたお声だ。

 私は下げていた頭を上げて、そのお顔を確認する――


「旦那様……? なぜここに……?」

「ジーキライから話を聞いてな。お前が落ち込んでいるのも心配だったし、何よりわしも力になれると思ってな。ハハハッ」


 旦那様は私に対して、穏やかな笑顔で接してくださった。

 私のような者を心配してくださったことも有難いが、何よりも気になることがある――




 ――旦那様は先程から陛下のことを、『ジーキライ』と呼び捨てにしている。

 公爵と陛下では身分があまりに違う。

 そのような気軽な呼び方が通用するものなのだろうか?


「……おい。お主のところの従者が困惑しておるぞ。さては説明してすらいなかったな? このバカアトカル」

「お前だって、『フクシマン』とかいうあのダサい格好を見られたんだろ……。アホジーキライ」

「あの……すみません。お二方は一体、どういう関係なのでしょうか……?」


 どうにもこのお二方、身分とは関係なしに何か別の関係性が見えてくる。

 私は恐る恐るその理由を尋ねてみた――




「ああ、すまんな、クーリア。わしとこのジーキライは幼馴染なんだ」

「アトカルがおかしくなってからは距離を置いていたが、久しぶりに気楽に話せたわい。そういう意味でもお主には感謝せねばな。ガハハハッ!」


 ――なんと驚き。旦那様と陛下が幼馴染だったとは。

 いや、幼馴染だったことにも驚きだが、それ以上に階級を超えて親しいやり取りをする光景にも驚きだ。


 私がいた前世の世界では競争が激しかった。

 同じ世代同士でも社会的地位で差がついてしまえば、そこには格差も生まれていた。

 私も<清掃用務員>としては"超一流"で、人々から一目置かれている面はあった。

 逆に<清掃用務員>であることを舐められて、下に見られるという屈辱を受けたこともあった。

 だが私としてはそんな地位や立場に関係なく、できうる限り仲良く人々と接したかった。

 私自身が人との接し方が苦手というのも、原因だったのかもしれない。

 それでも普段の清掃業務(ミッション)とは違う、上辺だけではない人付き合いがしたかった。


 だが、今私の目の前にいるお二人はどうだ?

 幼馴染というだけで、身分の差など関係なく接しておられる。

 旦那様が元に戻られた今、こうやって親しい間柄を続けておられる。




 ――正直、羨ましかった。

 私には前世にも現世にも、こうやって親しく語り合える人がいない――




「……ん? どうしたんだ、クーリア? 何やら悲しそうな顔をしているが……?」

「いえ、お気になさらないでください、旦那様。私は大丈夫ですので、どうかお話をお進めください」

「まあ……本人がそういうなら仕方あるまい。ほれ、クーリアよ。お主もそこに腰かけよ」


 ――いけない。旦那様にまた心配を掛けさせてしまった。

 <清掃用務員>たるもの、常にクールでクリーンでクラシカルに立ち振る舞う。

 この世界で定義した、私の更なる嗜みだ。

 そんな悲しそうに見えた私は気遣われながらも、陛下に言われた通り、旦那様と陛下がいる向かいのソファーに腰掛ける。


「それで早速なのだが、お主の『新たな武器』について話をしたい」

「お言葉は有難いのですが……陛下。私は人を傷つける武器は持ちたくありません」


 ここだけは先に陛下にお伝えする必要がある。

 私は<清掃用務員>だ。その誇りだけは失えない。

 『新たな武器』が人を傷つけるものならば、いっそ私の方が命を絶つ。




 ――私にだって、譲れない一線はある。




「……アトカルから聞いてはいたが、本当に芯が通っているな。いや、感心感心」

「クーリアはわしを元に戻す時も、一切傷つけるようなことはしなかったからな。今のこの子は、<アサシン>にさえ向いてない」


 そんな好意を無碍にするような無礼とも取れる態度を私がとっても、陛下はむしろ感心してくださった。

 横から旦那様も口を挟むが、そのお言葉には優しさが見える。


「クーリア・ジェニスター。吾輩はその『新たな武器』で、人を傷つけてほしいとは思っていない。アトカルからも聞いているが、吾輩が提案したいのはお主がクッコルセ団長とも渡り合えるようになる、『強力な清掃道具』の作り手についてだ」


 そして陛下はあらかじめ旦那様から聞いていたと思われる話を元に、その提案内容を明確に話し始められた。


「『強力な清掃道具』……。そのようなものの作り手が、陛下のお知り合いにいるのですか?」

「清掃道具を作るのが本職ではないが、吾輩が思うに"あの男"以上に適した人材などおるまい」


 『強力な清掃道具』と聞くと、私も反応せずにはいられない。

 私も詳細が気になって、体を前のめりにしながら陛下のお話を伺う。

 陛下もまた、そんな私に寄り添うように手を合わせながら前のめりになる。




「だがな、ジーキライ。本当にあのボケで大丈夫なのか? あいつ今、相当荒れてなかったか?」

「……それは吾輩も気にしている。そこをどうするかが問題だな……」


 ただ、そんな私と陛下の会話に割り込んできた、旦那様の疑問。

 旦那様は苦い顔をしているが、陛下もまた考え込んでいる様子がうかがえる。


 ――そんなに問題がある人物なのだろうか?


「ともかく、私としては一度そのお方に会ってみたいです。何というお方なのでしょうか?」


 どのような人にしろ、クッコルセ団長の"汚れ"を落とす可能性があるならば、私はその人に賭けざるを得ない。

 "汚れ"の強大さに怖気づき、ただ手を止めるような真似は許されない。


 ――工夫、協力、可能性の追求。

 <清掃用務員>として、打てる手はすべて打つ。

 お掃除を諦めるようなことは絶対にしない。

 それが私の清掃魂(セイソウル)だ。




「……あい分かった。元より吾輩もお主にどうにか会わせたかった男だ。吾輩はクッコルセが抜けた穴を埋めるためにも、城に残る必要がある。だから代わりに、アトカルに案内してもらう」

「今からクーリアに会ってもらう男もまた、わしとジーキライの幼馴染でな。わしもあいつのことは詳しい」


 成程。陛下と旦那様の更なる幼馴染か。

 このお二方は非常に優秀で、私も心より尊敬できるお人だ。

 そんなお二方の幼馴染ともなれば、俄然期待が高まってくる――




「今から会いに行く男の名は――スミスピア・ガンランス。このウォッシュール王国一の<鍛冶屋>だ」

新たなモップを求めて。

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