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煩悩に苦悩する男

クーリアのお風呂タイムの裏で起こっていた、ドン引き騒動。

「クーリア~。お風呂が空きましたよ~」

「すみません。わざわざありがとうございます」


 俺は風呂が沸いた後、クーリアより先に入らせてもらった。

 クーリアに一番風呂を譲ろうとも思ったが、正直、俺が先に入らないといろいろ危ない。


(クーリアが入った後の湯舟とか、興奮で頭がおかしくなる……!)


 そんな俺の理性を保つためにも、俺が先に入らざるを得なかった。

 クーリア自身は俺のことを完全に女だと思っているのに、俺は男であることを隠さなければいけない。

 滾る邪な欲望を押さえつけなければならない。


(初恋の相手とこんな状況って、どんな地獄だよ……!)


 俺はそんなことを考えながらクーリアに次の風呂を譲るが、何かを考えているのか、なかなか動かない。


「クーリア~? 今~、お仕事に関係することを~、考えてませんでしたか~?」

「……すみません。少し考えていました」


 そう思った俺はマリアックとして声をかけてみると、やはりというべきかクーリアは仕事のことを考えていたようだ。

 こいつはとにかく真面目なのだが、どうにも切り替えが下手すぎる。

 休暇の過ごし方さえよく分かっていなさそうだが、俺としては少しでも休んでほしい。


「では、私もお風呂いただきます」

「はい~、どうぞ~。ごゆっくりと~」


 俺の話を聞いたクーリアは、ようやく風呂へと向かってくれた。

 狭い風呂だが、ゆっくり湯船に浸かって休むぐらいはできるだろう。




(ハァ~……。でも、どうするよ? 今から一晩、クーリアと二人きりだぜ? とにかく、ここは俺も『マリアック・アリビュート』の役に徹して、余計なことは考えねえようにしねえとな……)


 クーリアが風呂に向かった後、俺は自室で一人考え込む。

 流されるままにこうなってしまったが、俺はクーリアのためにも余計な煩悩を捨てないといけない。

 こんなところで俺が男としての本性を見せてしまえば、嫌われるどころかクーリアを傷つけてしまう。

 それだけは避けないといけない。それが男として、ヘタレであってもだ。




 ――フェイキッド・スクリームは決して、愛する女の心に傷などつけない。

 そんな風に心の中では息巻いていたが――




(……でも、今クーリアは一人で風呂に入ってんだよな?)


 ――早速俺の心の中に雑念が入り込んでくる。

 以前学園内の様子を探った時のように、俺には各種スキルを融合させた高度なサーチ能力がある。

 この学園の敷地内であれば、本当に見ているように脳内で観察することができる。

 そしてこの教会も学園の敷地内にある。


 つまり――




(クーリアが風呂に入ってるところを、覗けるじゃねえか……!?)




 ――そんな変態極まりない思考が、俺の頭の中に浮かび上がってしまう。


(ダ、ダメだ! そんなことをすれば、俺の"フェイキッド(アレ)"が"スクリーム(アレ)"しちまう!)


 俺は何とか考え直し、その愚行を踏みとどまろうとする。

 たとえクーリアにバレないとしても、超えてはならない一線がある。


(俺は! 絶対に! クーリアの! 風呂を! 覗かないぃい!!)



 ガンッ! ガンッ! ガンッ!



 俺は部屋の机に何度も頭をたたきつけ、必死にその煩悩を押さえつける。

 いくら愛しい初恋の相手が近くで風呂に入っていて、それをこっそり覗く手段があり、俺が女で通っていて男だと思われていないにしても――




(この一線だけは、超えちゃならねえ……!)




 ――俺は机に何度も打ち付けて血が滲み出た額に回復魔法を使いながら、歯を食いしばって死に物狂いで欲望をこらえる。

 ハッキリ言って、とんでもなく辛い。

 とにかく『覗きたい』という欲望と、それを叶えられる要因が揃いすぎている。

 兄貴にボコられるのよりも辛い。


 『マリアック・アリビュート』の演技をしようと、<アブソリュート(完璧なる)アクター(役者)>として他人のように振舞おうと、どれだけ他人に騙そうと――




 ――自分の心までは騙せない。




(お、おお、落ち着くんだ! まずは目を閉じて、余計な思考を遮るんだ!)


 ともかく俺は風呂に入るクーリアの姿を見ないためにも、一度目を閉じ、気持ちを落ち着ける。

 余計な思考の一切を遮り、波一つ立たない水面のような心を意識する。

 こうして何も考えず、俺の心に任せていれば――






「……さてと、考え事はこれぐらいでいいでしょう」


(ああぁああぁあ!? 無意識にサーチ能力がぁああ!?)


 ――そうして何も考えなかったことが裏目に出てしまった。

 俺は無意識のうちにサーチ能力を発動させ、クーリアがいる風呂をついに覗いてしまった。


 <アブソリュート(完璧なる)アクター(役者)>も、煩悩には勝てなかった。

 そして何より、俺にとって衝撃的だったのは――




 ――ちょうどクーリアが湯船から立ち上がった場面を、覗いてしまったということだ。


(やべぇ!? メッチャスタイルいい! 髪が濡れてて、艶やかでエロい! ああぁああ!! 全部エロいぃいい!!!)


 俺はなんとかクーリアには聞こえないよう、その叫びを決して声には出さずに、心の中だけへと留める。

 それでも俺の心はいろいろ限界だった。


 クーリアの裸を見てしまったことへの罪悪感。

 クーリアの裸を見れたことへの満足感、達成感、幸福感。

 そんな複雑怪奇な感情が入り混じりながら――


(やっべ……。もう……立ってるのも限界……)



 ガラララァッ!!



 ――肉体の方まで限界に来た俺は、近くの本棚を巻き込みながら盛大に転んだ。

 そしてそのまま、本の山へと埋もれてしまった。


(やってしまった……。でも、よかった……。だけど、最悪だ……)


 動こうと思えばいくらでも動ける状況だが、なおも続く複雑な心境のせいで、まず動く気が起きない。

 後悔、満足、罪悪感――それらの感情が一度に襲い掛かる。

 それからしばらく、俺は本の山の下敷きになりながら、放心状態となっていた――





「……あ~、クーリア~。丁度いいところで~、お風呂から出てきてくれました~」

「……何をされているのですか? マリアック?」


 ――そして気が付いた時、風呂から上がってバスローブ姿となったクーリアが傍に立っていた。

 その姿は普段とは違い、結われた髪も長く下ろされ、水に濡れてどこか官能的だった。

 バスローブの隙間から程よい胸の谷間も見えるし、眼福極まりない。


 ――ただ、さっき見てしまった裸姿よりは衝撃が少なかった。


(……結果として、初見でクーリアのこのバスローブ姿を見ていたら、俺は卒倒していたかもしれねえ。それ以上のインパクトを先に見ておいたから、そうならずに済んだんだ。……うん、そういうことにしておこう)


 俺は心の中で風呂に入っているクーリアの姿を見てしまったことを、強引に納得させる。

 そうでもしないと、俺はここからマリアックの演技を続けることすら難しい。


 ――罪悪感はハンパないが、仕方のないことだったと割り切ろう。


「はぁ……仕方ありません。私も手伝いますので、片づけましょう」

「すみません~……」


 その後、俺はクーリアの助けを借りて本の山から脱出し、一緒に本棚を片付ける。

 途中でクーリアの容姿について褒めたりもしてみたが、ここまで来るとなんだか一線を越えてしまったせいなのか、マリアックとして素直に言葉を交わすことができた。

 『勇者科の担任や学園長が惚れるのも仕方ない』とか、『色っぽい』とか言ってみたが、すべてマリアックの役にのめりこむことで自然と話せた。

 ただクーリアは俺の話を不思議そうに聞いており、まったくと言っていいほど信じていないようだった。


(自分に向けられる好意に、ありえないほど無自覚……。こいつ、マジで魔性の女だな)


 そんなことを考えてみたが、変に一線を越えた俺はマリアックの演技に集中した。

 クーリアも俺が本棚を散らかしたことについては、ただのドジだと認識している。

 それらの要因もあってか俺は『フェイキッド・スクリーム』という本来の姿を忘れるぐらい、『マリアック・アリビュート』の演技に徹した。


「やれやれ……。それにしても、よくここまで器用にドジを踏んで散らかして――ん?」


 そんな最中、クーリアが片付けていた本の中の一冊を手に取る。

 表紙に描かれているのは、『笑い狐の面』を被り、漆黒の衣装を身に纏った少年の姿。



 マズい。その本は――




「『フェイキッドの亡霊』……?」

"フェイキッドの亡霊"は覗き魔だった。

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