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メイド服は譲れません。

「『"汚れ"を元から断つ』か……! 確かにそうしないと、いつまたこの屋敷やわしらが狙われるかも分からぬ」

「でも、大丈夫ですの? あんなに凄まじい"汚れ"という力……。その根源となると、クーリアが危ないですの……」


 旦那様もココラルお嬢様も、私の提案に賛同はしてくれた。

 しかし、同時に不安げな表情をしている。

 確かに(汚れ)の規模は未知数だ。私の想像できる相手ではない。

 だがそれでも、"汚れ"に対抗できる力を持つのは私だけだ。

 これはファインズ公爵家に仕える者であり、<清掃用務員>である私に与えられた使命――


「ご安心ください。もう二度とこのような悲劇(汚染)が起こらぬよう、このクーリア・ジェニスターが完璧に清掃業務完了ミッションコンクリーニングしてみせます」


 ――私はその使命感を抱きながら、胸に手を当てて宣言した。


「……分かった。確かにこの役目を任せられるのは、クーリアをおいて他にいない。わしもできうる限り力を貸そう」

「わたくしもお手伝いしますわ! お父様やクーリアと一緒に、"汚れ"を消し飛ばすのですわ!」


 私の強い清掃魂(セイソウル)に共感してくれたのか、旦那様もココラルお嬢様も協力的な意志と共に、私の志を認めて下さった。

 実に心強い。

 私には<清掃用務員>としての力はあるが、この世界での知識ならお二方の方が上だ。

 適材適所で、協力して作業を行う――これもまた、<清掃用務員>として必要な心構えだ。




「おお、そうだ! どうせなら服装も新しいものにした方がいいな!」

「そうですわね! これから何が起こるか分からないので、メイド服よりももっと強力な防具を身に着けたほうがいいですわ!」




 ――そんな私の耳に飛び込んできた、旦那様とココラルお嬢様のお言葉。

 まずい。言いようのない不安が襲ってくる――


「クーリア。メイド服よりももっと強力な防具を用意して――」

「結構です」

「……わしの伝手(つて)があれば、それぐらい遠慮せずとも――」

「結構です。私はメイド服がいいのです」


 旦那様のご厚意を押しのけるように、私は否定してしまった。

 確かに(汚れ)の正体が分からない以上、もっと強力な装備を整える必要があるのは当然だ。

 ――それでも私は嫌なのだ。


「もしかして、<収納下衣(タンスカート)>のことを気にしてますの? それなら、もっと別の扱いやすいマジックアイテムで――」

「ご遠慮願います」

「……メイド服のロングスカートでは、動きづら――」

「大丈夫です。私はメイド服がいいのです」


 ココラルお嬢様もメイド服以外の代替え案を用意してくださったが、私はそれも嫌がってしまった。

 本来こういう時はまず意見をすり合わせるべきなのだが、私はとにかく否定してしまった。


 ――否定せずにはいられなかった。

 それは清掃魂(セイソウル)とはまた別の、私の前世の記憶が拒んだからだ。




「私は前世ではメイド専門のコスプレイヤーだったのです。メイド服は譲れません」

「……こすぷれいやー?」

「……また知らない単語が出てきたですの?」


 そう、前世の私の趣味は『メイドのコスプレ』だ。

 よくよく考えてみれば、今の私は前世で死の間際に夢見た、『本物のメイドさん』だ。

 しかも着ているメイド服は、私の大好きなロングスカートのクラシカルタイプだ。

 おまけに、ヘッドドレスに黒のストラップシューズまでついている。

 ――完全に私の好みのどストライクだ。


 そんなメイド服を着替えるなんてとんでもない。

 前世だって、私はメイド服での清掃業務(ミッション)を希望したが、流石に断られることが多かった。

 それができたのはメイド喫茶ぐらいだ。


 ――だから今の環境は私にとって、まさに夢の舞台。

 メイド服のまま、お掃除ができる。

 そしてメイド服のまま、<アサシン>と<メイド>のスキルを活かして、<清掃用務員>として更なる高みを目指せる。

 旦那様とココラルお嬢様の好意は有難いが、私はメイド服を譲ることができない――




 ――それはかつて、メイド専門のコスプレイヤーだった私の意地だ。




「……ま、まあ、分かった。クーリアがメイド服のままでいいというならば、わしもとやかく言うつもりはない」

「そ、そうですわね。クーリアのやりたいようにしてもらうのが一番ですわ」


 旦那様とココラルお嬢様も、どこか渋い顔をしながらも、私がメイド服のまま清掃業務(ミッション)を行うことを認めてくれた。

 これは私の完全なわがままだというのに、本当にお二方ともお優しい。


 ――今の私は恵まれている。

 これはなおのこと、私は頑張らないといけない。

 主の期待に応えてこそ、<清掃用務員>というものだ。




「……む? 気が付けば、ずいぶん遅い時間になったものだ」


 旦那様の言葉を聞いて、私も部屋の壁にあった時に目を向けると、すでに時刻は二十四時を回ろうとしていた。

 思えば、今日一日で本当に色々なことがあった。

 前世の記憶を取り戻し、新しい力にも目覚めた。


 ――だが、今の私はファインズ公爵家に仕える身。

 優先順位を間違えてはいけない。

 "汚れ"の元凶を探すことも大事だが、今優先すべきことは他にある。


「ココラルお嬢様。お休みになりましょう。明日は学校もございます」

「ふあぁ……そうですわね。随分と遅くまで起きてしまいましたわ……」


 ココラルお嬢様は眠り眼を擦っておられる。

 学園生活が続くお嬢様にとって、夜更かしは厳禁だ。

 私も明日はお嬢様と一緒に学園へ同行することになる。


 それにココラルお嬢様にも染みついていた"汚れ"は、学園で染みついたものかもしれない。

 "汚れ"とは日常のいついかなる時にでも、染みついてしまうものだ。

 私が同行していれば、"汚れ"の根源の手掛かりが見つかるかもしれない。


 だから今夜はゆっくり休もう。

 明日からもまた、清掃魂(セイソウル)の導きがあらんことを――

メイド服は大事。モチベ第一。

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