清掃用務員に惚れた教員
クーリアは大変なものを盗んでいきました。
「シスター・マリアック……。私は自分の教え子の従者に……あろうことか、同じ女性に恋をしてしまいました……」
「あらあら~。勇者科の担任の先生でも~、そういうお悩みがあるのですね~」
「シスター・マリアック……。わひは齢百歳を迎えながら、若き乙女に恋をしてしまったのじゃ……」
「あらあら~。学園長も~、まだまだお熱いですね~」
俺がシスター・マリアックとして聞き始めた勇者科の担任と学園長の懺悔の内容は、やはりクーリアに関することだった。
性別や年齢など関係なく、クーリアは二人の心を奪ってしまったようだ。
俺もサーチ能力で様子を見ていたが、ある意味仕方ない話である。
それぐらいあの時のクーリアは魅力的だった。
(マジでクーリアって、魔性の女じゃねえか?)
担任と学園長の姿を見て、俺はそんなことを思い浮かべる。
この二人は仮にもこの聖ノミトール学園における、教育者の鏡とも言える人物だ。
そんな二人の心を射止めるクーリアがある意味恐ろしい。
――そして本人にその自覚がないのも恐ろしい。
「まあまあ~、お二方とも~。恋に性別も~、年齢も~、関係ないですよ~」
とりあえず俺もシスター・マリアックとして、それっぽい話を口にして二人に納得してもらおうとする。
「ああ……シスター・マリアックにそう言っていただけると、なんだか気持ちが少し楽になります。ですが、私はこのままこの胸の思いを吐き出さないままというのも、我慢できません……」
「わひもですじゃ。この胸の熱い思いをそのままにするなど、それこそ心臓に悪いですじゃ……」
(うわぁ……。めんどくせぇなぁ……)
ただ、どうにも二人は納得してくれない。
それだけクーリアへの思いが強いのかもしれないが、少しぐらいは折れてほしい。
(こっちは思いを伝えたくても、絶対に伝えられねえんだぞ? それに、思いの大きさなら俺も負けてねえってえの)
――などという愚痴と見栄を俺も心の中で零すも、これでは埒が明かない。
「それでしたら~、いっそのこと~、その女性に告白してみては~、いかがでしょうか~?」
俺も引き続きそれっぽいアドバイスをしてみるものの――
「で、ですが! これでフラれでもしたら、私は立ち直れません!」
「わ、わひもショックでそのまま天に召されるかもしれませぬ!」
(だぁああ!? 本当にめんどくせぇええ!!)
――やっぱり出口が見えてこない。
こんな面倒な人間がこの学園の中枢を担っていると思うと、それはそれで不安になってくる。
――ただ正直、俺も告白を踏みとどまってくれてよかったなどとも思ってる。
これでクーリアが万一了承でもしたら、それはそれで俺が立ち直れなくなる。
「お願いです! 私のこの思いはどうすればいいのですか!? 教えてください!」
「頼みますじゃ! シスター・マリアック! わひもこのままでは夜も眠れず、そのままお迎えが来てしまうのじゃ!」
「ま、待ってくださいよ~! どうか落ち着いてくださいよ~!」
そんな俺の気など知らずに、勇者科の担任と学園長は机を乗り出しながら、俺へと迫り寄ってくる。
とにかく何かしらの答えが欲しいらしいが、そもそも懺悔とは『相手の話を聞くこと』が目的であり、『答えを見出すこと』にはない。
それでもそんなことは関係ないとばかりに、俺にシスター・マリアックとしての解答を求めてくる。
俺から見ても大人な二人が、こんな子供っぽい反応ばかりしてくるのだが――
――いい加減、俺も腹が立ってきた。
「……おい。ちょっと落ち着け。そんで黙れ。テメェらいい大人だろうが?」
「……え?」
「……ほえ?」
――いかん。思わず『フェイキッド・スクリーム』としての素が出てしまった。
勇者科の担任も学園長も、目を丸くして動きが止まってしまった。
「ん~? どうかされましたか~?」
「い、いえ……。何でもないです……」
「す、すみませぬ……。わひも少し興奮してしまったのじゃ……」
俺がすぐさまマリアックの演技に戻すと、二人ともどうにか落ち着いて、おとなしくイスに座りなおしてくれた。
素の俺の口調とマリアックの落差に驚いたようだが、とりあえず結果オーライとしよう。
それにしても<アブソリュートアクター>であるはずの俺だが、いつの間にかムキになってしまったようだ。
どうにもクーリアが絡む話だと、俺も落ち着けないところがある。
――まあ、『アブソリュート』なんて名乗ってるけど、俺も人間だから仕方ない。
「それでは~、こう考えましょう~。お二方の想い人が幸せになるように~、陰ながら支えるのです~」
「な、成程……。直接は伝えられませんが、それなら私も少しは納得できそうです」
「わひもこんな老いぼれよりも、もっといい相手をあの女性には見つけてほしいのじゃ」
とりあえず俺も思いついた妥協点を述べることで、なんとか納得してもらった。
先程俺が本来の『フェイキッド・スクリーム』としての素顔を見せたことで、委縮してしまったことも効果があったのだろうが、とりあえずこれで良しとしよう。
「と、ところでシスター・マリアック」
「先程何やら、わひらも見たことのない表情と口調をされていらっしゃったような……」
「余計なことは~、考えないのが~、長生きの秘訣ですよ~?」
――ただ最後に、二人とも俺が見せた本性について尋ねてきたので、そこだけは釘を刺しておいた。
口調自体はマリアックのままだが、表情はフェイキッドのまま睨みつける形で完全に脅す形で語り掛ける。
我ながら器用なことをしているとは思うが――
「わ、分かりました~!」
「し、失礼しますのじゃ~!」
――効果はあったようだ。
勇者科の担任も学園長も、すぐさま席を立ちあがって教会から走って出て行った。
さすがにクーリア達にやってドン引かれるのは嫌だが、こういう面倒なだけの時ぐらい、俺も自分自身を出してみたい。
「ハァ~……。でもこんな時にしか本当の自分を出せないとか、本当にムカつく話っつーか――」
「本来なら、お前は何があっても表向きには『マリアック・アリビュート』でないといけないんだがな」
「あ、兄貴……!?」
俺が一人教会で悪態をついていると、いきなり後ろからシケアルの兄貴の声が聞こえてきた。
どうやら教会の裏口から入って来たらしいが、一体どこから聞いてたんだ?
「……さっきの俺の話、聞いてたのか?」
「お前が『マリアック・アリビュート』の演技を忘れて、表情を今僕に向けているようなものに変えたところはな」
「チィ……! 趣味の悪い野郎だ……!」
それとなく確認してみたところ、どうやら俺がさっきの二人を威圧して追い出したところは見ていたようだ。
だがその前の話――特にクーリアにつながりそうな話は聞いていないようだ。
とりあえず、そこについては助かった。
「お前にしても、担任や学園長にしても、僕の用意した計画通りの行動をしてもらわないと困るじゃないか。まあ、あの二人についてはただの名前のないモブキャラだ。今回は大目に見てやろう」
「……? 言ってる意味は分からねえが、許してくれんなら俺も助かる」
シケアルの兄貴は時折俺にも分からない言葉を口にするが、こちらも余計なことは聞かない。
いつも俺を無理矢理従わせてくる兄貴と、余計な言葉を交わしたくない。
「ただ、それとは別にお前に確認したいことがある」
それでも兄貴は俺に命令を押し付けるため、向こうから口を開いてくる。
俺も嫌々ながら従うしかない。
なんともヘタレでダサい話だが、今の俺にはこうすることしかできない。
せめてこうすることで、クーリアに被害が及ばないようにする。
そう考えることで、俺は愚かにも自分を正当化するしかない。
そして兄貴は俺に対し、あることを尋ねてきた――
「今回お前が学園にばらまいた<暗黒魔法>だが、僕が解除する前になぜか消えていたんだ。……お前は何か知らないか? フェイキッド?」
盗んだのは勇者科の担任と学園長の心と、シケアルの出番です!




