2.店員さん、少し助けてほしいんですけど
それから一週間が経ち、リサイクルショップの店長・熊重正和はその日も店番をしていた。
来店客もあまりない、退屈な午後だった。
レジのそばに座り、ぼんやりと空を眺めていると、ふと、あのまだ若い女性客を思い出す。
女が椅子を持って行ってから、すでに一週間が経っている。
今までは、どの客も、長くて三日だった。
最初のうちは、返品された商品を売るのに、あえて説明もしなかった。
単なる思い込みか、何らかの偶然に違いないからだ。
しかし返品が続くにつれ、念のために説明をするようになっていた。
そのときする説明は、いつも同じだった。
『あの椅子には、幽霊がついているらしい』と。
返品の際に、誰もそのことを詳しく説明してくれなかった。
だから熊重も実際に起こったことを知らなかった。
ただ、返品に来た人間は、異口同音ではあるが、似たようなことを言った。
「夜な夜な、幽霊が現れて、ささやきかけてくるのです。『お前にはあの椅子の謎がわからない』とか、『手に入れた場所に返せ』とか、そんなことを」
むろん熊重はそんな話は信じていなかった。
それでも一応購入を希望する客には、返品の経緯として、幽霊の話は告げていた。
そしてその話を聞いても、実際にあの椅子を買う人間はいた。
あの椅子は、モノは確かにいい。こんなリサイクルショップに置いてあるのが信じられない。椅子が安く手に入れられるのならばそれでいい、という人間たちだ。
そういった人間は、幽霊なんぞ、と鼻で笑った。
熊重も彼らには喜んで椅子を売り渡した。
しかし、結局のところそんな彼らだって三日ももたず返品に訪れた。
気づくと、椅子のコーナーに目を向けている。
あの女性客は未だに訪れない。
あるいは今度こそあの椅子は、ふさわしい持ち主を見つけたのだろうか。
そんなことを考えていたちょうどそのとき、リサイクルショップの自動ドアが開いた。
椅子を胸に抱いたあの女がそこに立っていた。
来てしまったか。
少しは期待を抱かせてくれたのだが。
そう考えて熊重は椅子から立ち上がった。
しかし、すぐに気づく。
その女性客の雰囲気は、いつもの返品に来た客の持つ、切羽詰まったような感じとは異なっている。
「店員さん、少し助けてほしいんですけど」
懇願するような声の響きもなく、彼女はそう言った。
別に青い顔もしていなかった。
※※※
「どうされましたか」
レジの向こう側で優菜を見る店員の目には、どこかに驚きが含まれていた。
その驚きが何に由来しているものなのか、優菜にはわからなかった。
何しろ優菜は、この椅子を買った誰しもが、三日以内に返品に来ていることを知らない。
違和感はあったものの、それでも優菜は当初の頼みを口にした。
「あのー、実はこの椅子にはどうやら、謎があるんです。それがどうも、わたしだけでは解けない」
優菜は店員の眉間に深いしわが刻まれるのを見て、やっぱそういうリアクションになるよな、と思っていた。
何よりも説明不足だ。
そうして自分が言っていることは、唐突でかつハチャメチャだ。
「あのですね、……どういうわけか説明したいんですが、ちゃんと聞いてくれます?」
店員はわずかに首をかしげた。
「そりゃあ、お客様のお話は、聞かせていただきますよ」
「信じられないような話でも?」
優菜の言葉に、店員の眉間にしわがよる。
「……まあ、程度にはよりますが」
「それじゃあ最初に言っておきますが、あの椅子には、幽霊がついています」
優菜は慎重に、店員の反応を確かめた。
信じない人なら、この段階ですでに鼻で笑うはずだった。
しかし店員は慌ても、驚きもしていない。
購入するときにも推測したとおり、やはりあの椅子は、いわゆる『いわくつき』だったらしい。
そこまでは想像がついていた。
だが心配なのは、次に口にするつもりの言葉の後の、店員の反応だった。
「それで、実はわたし、その幽霊が見える。それだけじゃなくて、話もできるんです。その気になれば」
店員は、疑わしい、という風に目を細めた。
ただ、ウソだろ、と頭ごなしに否定はしなかった。
代わりに、店員はこう言った。
「一つ、お話を伺いましょうか」




