表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

2.店員さん、少し助けてほしいんですけど

 それから一週間が経ち、リサイクルショップの店長・熊重正和くましげまさかずはその日も店番をしていた。

 来店客もあまりない、退屈な午後だった。

 レジのそばに座り、ぼんやりと空を眺めていると、ふと、あのまだ若い女性客を思い出す。


 女が椅子を持って行ってから、すでに一週間が経っている。

 今までは、どの客も、長くて三日だった。

 最初のうちは、返品された商品を売るのに、あえて説明もしなかった。

 単なる思い込みか、何らかの偶然に違いないからだ。


 しかし返品が続くにつれ、念のために説明をするようになっていた。

 そのときする説明は、いつも同じだった。

『あの椅子には、幽霊がついているらしい』と。


 返品の際に、誰もそのことを詳しく説明してくれなかった。

 だから熊重も実際に起こったことを知らなかった。

 ただ、返品に来た人間は、異口同音ではあるが、似たようなことを言った。


「夜な夜な、幽霊が現れて、ささやきかけてくるのです。『お前にはあの椅子の謎がわからない』とか、『手に入れた場所に返せ』とか、そんなことを」


 むろん熊重はそんな話は信じていなかった。

 それでも一応購入を希望する客には、返品の経緯として、幽霊の話は告げていた。


 そしてその話を聞いても、実際にあの椅子を買う人間はいた。

 あの椅子は、モノは確かにいい。こんなリサイクルショップに置いてあるのが信じられない。椅子が安く手に入れられるのならばそれでいい、という人間たちだ。


 そういった人間は、幽霊なんぞ、と鼻で笑った。

 熊重も彼らには喜んで椅子を売り渡した。

 しかし、結局のところそんな彼らだって三日ももたず返品に訪れた。


 気づくと、椅子のコーナーに目を向けている。

 あの女性客は未だに訪れない。

 あるいは今度こそあの椅子は、ふさわしい持ち主を見つけたのだろうか。

 そんなことを考えていたちょうどそのとき、リサイクルショップの自動ドアが開いた。

 椅子を胸に抱いたあの女がそこに立っていた。


 来てしまったか。

 少しは期待を抱かせてくれたのだが。

 そう考えて熊重は椅子から立ち上がった。


 しかし、すぐに気づく。

 その女性客の雰囲気は、いつもの返品に来た客の持つ、切羽詰まったような感じとは異なっている。


「店員さん、少し助けてほしいんですけど」


 懇願するような声の響きもなく、彼女はそう言った。

 別に青い顔もしていなかった。



  ※※※



「どうされましたか」


 レジの向こう側で優菜ゆうなを見る店員の目には、どこかに驚きが含まれていた。

 その驚きが何に由来しているものなのか、優菜にはわからなかった。

 何しろ優菜は、この椅子を買った誰しもが、三日以内に返品に来ていることを知らない。


 違和感はあったものの、それでも優菜は当初の頼みを口にした。


「あのー、実はこの椅子にはどうやら、謎があるんです。それがどうも、わたしだけでは解けない」


 優菜は店員の眉間に深いしわが刻まれるのを見て、やっぱそういうリアクションになるよな、と思っていた。

 何よりも説明不足だ。

 そうして自分が言っていることは、唐突でかつハチャメチャだ。


「あのですね、……どういうわけか説明したいんですが、ちゃんと聞いてくれます?」


 店員はわずかに首をかしげた。


「そりゃあ、お客様のお話は、聞かせていただきますよ」

「信じられないような話でも?」


 優菜の言葉に、店員の眉間にしわがよる。


「……まあ、程度にはよりますが」

「それじゃあ最初に言っておきますが、あの椅子には、幽霊がついています」


 優菜は慎重に、店員の反応を確かめた。

 信じない人なら、この段階ですでに鼻で笑うはずだった。


 しかし店員は慌ても、驚きもしていない。

 購入するときにも推測したとおり、やはりあの椅子は、いわゆる『いわくつき』だったらしい。


 そこまでは想像がついていた。

 だが心配なのは、次に口にするつもりの言葉の後の、店員の反応だった。


「それで、実はわたし、その幽霊が見える。それだけじゃなくて、話もできるんです。その気になれば」


 店員は、疑わしい、という風に目を細めた。

 ただ、ウソだろ、と頭ごなしに否定はしなかった。

 代わりに、店員はこう言った。


「一つ、お話を伺いましょうか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ