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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

85mmの導火線

作者: 0024

 煙草の長さは銘柄にもよるけれど、大体85mm〜100mmくらいらしい。


「へえ」


 僕はそんな細かい事を気にした事は一度もなかったし、そう言われても、へえ、としか言いようがなかった。


「そんな、わずか10センチ足らずの長さの棒っきれに、人を狂わせる魔力が備わってる。詩的だと思わないか?」


 ヘヴィ・スモーカーの友人が突然僕に問い掛けるが、正直まるで興味が無い。

 何せ僕は煙草を嗜まないからだ。


「健康に良くないから煙草は程々にしておきなよ」


 無粋な奴だな、と言われそうだが、友人の身体を気遣うつもりで僕は言った。

 まあ、どうせ止めたりはしないだろうけれど……。


「お前がそう言うならやめても良いが」


 え?

 知り合って10年、一度たりとも、一日たりとも欠かさなかった癖に?


「いや、そもそも僕、君にその手の忠告は何度かしたけれど……その度に適当に流していたよね」

「そうだったかな」


 そらとぼけて彼は言う。


「だから今もって吸ってるんでしょ。まぁ、個人の勝手だけれど。……それが急に『止めてもいい』だなんて、一体どういう風の吹き回しなんだよ」


 すると彼は言った。


「子供が産まれるんでな。確かに、お前の言う通り、煙草は控えた方が良さそうだと思い直したんだよ」


「え」


 結婚している事は知っていたけれど、いつの間にかそこまで話が進んでたのか。

 それは知らなかった。

 僕は驚きつつも祝福する。


「そいつは、おめでとう。じゃあ、ちゃんと禁煙しなきゃだね」


 僕がそう言って彼の方を向いた瞬間だった。

 彼は僕の口に新品の煙草のフィルターを咥えさせた。


「……代わりに、お前が喫煙を嗜んでみるのはどうだ?」


 不意に口に突っ込まれた煙草を僕は指でつまんで取り出し、親指と人差し指で玩ぶ。


「……健康に悪いから遠慮しとくよ」

「そうか」


 僕は吸わなかった煙草を彼に返す。


 ーーー彼はそれをそのまま口に咥えて、火を着ける。


「……導火線に、火が着いたな。起爆まではわずか85mm」


 彼はそんな風にひとりごちる。


 僕はその様子から目が離せず、煙草の灰が全て燃え尽きてしまうまで、ただジッとしていた。


 ◇


 久しぶりに電話をかけた。


「元気にしてた?」


「ああ。妻と息子共々」


「そっか。そりゃあ何より。……禁煙はちゃんと、継続してる?」


「爆死したからな。

 ーーーあの時の俺は、たった1本の煙草をお前に吸わせる事も出来なかったから」


「ーーーそっか」


 僕はただそれだけ言うと、電話を切る。


 僕は1本の煙草を口に咥えて、初めての喫煙を嗜んでみた。


 けほっ、けほっ、と咳き込み、肺腑の奥まで染みるような痛みを感じた。


「……こんなもの、何が美味しいんだか」


 泣き笑いのような表情を浮かべ、僕は殆ど吸っていない煙草を灰皿にギュッと押し付け、残り火を消すのだった。

はちじゅうごみりのどうかせん、と読みます。

雰囲気系でストーリーはあんまりないっすけど、唐突にBLを書きたくなったので。


奥さんがいる方の彼は、振られたんすかねえ。

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