15.ほのぼの系殺伐剣士キリカさん
これは、ある日のエデンオンライン内での事件です。
〝エンジェルダストの強い女の子〟として名の知れた私は、お嬢様のエスコートのもと、モンスターハントに励んでいました。
「ほら頑張ってキリカ! 頑張ったらご褒美に頬っぺにチューしてあげるわよ!」
「そんなの要りませんからお給料上げてください」
すばしっこいネズミ型のモンスターの大群に、私と私のかわいいティムは大苦戦してます。
「ミテ!ミテ! ボクモガンバッテルヨ! コノネズミボクガタオシタ!」
ティムは口に咥えたアキレスのロングソードでネズミちゃんを切り裂いています。
彼が積み上げたネズミ型モンスター(スモールラットというらしい)の山を見て、お嬢様は大変御満足されている様子です。
ゲーム内通貨が稼ぐためのモンスターハントでもありますが、お嬢様は課金までされている筈ですのに、まだお金が欲しいのですか…………?
無駄に大きい胸を支えるように腕を組んで、うんうんとしきりに頷いています。因みに私よりは小さいです。
レベリング制というものはリアルモード使用者である私には存在しないシステムなのですが、剣闘祭で入手した武器『アルテミスの弓』を使用していました。
強力な武具ではありますが、慣れないと足枷になったしまいそうな武器です。
だってこの弓、矢を射ったら射った矢が爆発するんですよ。
使っているのは普通の木の矢なのに敵に刺さって、そのままドカン!って大爆発です。
お嬢様いわく、アルテミスの弓には火属性の付与魔法『大爆発』という機能がついているそうです。
そんな仕様を知らなかった当初の私は至近距離でこれを射って大火傷しました。
お嬢様にポーションという回復用のお薬を戴いて治療しましたが、火傷のリアル過ぎる痛みにゲームから離脱しようとも考えました。ポーションという特効薬を使えばは火傷の痛みも即座に癒えます。けど、痛みもリアルで本当に涙が出そうでした。
女の子ですから。
回復した後も幻肢痛がじわじわと残ってます。
リアル世界に逃げればこんな火傷の痛みもどうってことありません。
でも幻肢痛は現実にも残っています。三日ほど苦しみました。
製作者を訴えようか真剣に悩みました。お嬢様にこのことを相談したら爆笑されました。
お嬢様は明日のティータイムで沸騰したエスプレッソをご馳走して差し上げますので盛大に苦しんでください。
「ところでヘラクレスの大剣があったわよね。 あれは私が使うことにしたから渡して」
そう言って、私に「んっ」と手を出すお嬢様。
あの剣とすら呼べない鉄の塊を普通に振り回すおつもりなのでしょうか。
リアルモードの私達では絶対に使えないでしょうに。
「昨日のアップデートで強化アイテムも買えるようになったのよ。 リアルモード使用者のために、身体能力を大きくパワーアップさせる秘薬が追加されたから、私でもこの剣を持てるようになるわ」
なるほど。ならばいいでしょう。
私はこれは売ってお金に買えようと思いましたけど、お嬢様がそういうならお嬢様の手に渡しましょう。
データ化して保存してあるヘラクレスの大剣をメールに添付してお嬢様に送信。
ピロン♪というポップな着信音。
無事に送信できた証拠です。
「まずはどれくらいの大きさか、確認されせんか? まだ一度も実物を目にしてませんし」
私がそう提案すると、お嬢様もにべもなくうなずきました。
そしてアウトプットされた剣を見て、その大きさに私たちは絶句しました。
剣の幅はおよそ三十センチメートル。
刀身の長さ、およそ二メートル。
厚さはおよそ十センチメートル。
柄は不良もののドラマでよくお目にかかるような鉄パイプ並みに太く、長い。
柄の先端部分には菱形をしたメイスのような打撃武器が搭載されていて、これだけでも立派な武器として機能しそうです。
総合して評価すると、剣の形をした鉄塊です。
総重量はどれほどでしょうか。
一トンはあります………………というのは言い過ぎですが、百キロなんてものじゃないのは確かです。
これを作った人は、恐らくこの剣を人が持つことを前提にして作ってはいないでしょう。
そうでなければ、これをリアルモード専用装備として考えた運営スタッフさんは究極の変態さんです。
「お、おお、お嬢様、こ、こここ、これ、本当に使うおつもりですか?」
ドン引きですよ。こんなの漫画の中の世界じゃないですか。
華奢な女の子にこれを振るのは無理ですよ。
見てくださいよ、今倒れた剣に潰されたスモールラットがご昇天されましたよ。
「………………」
何ですかその沈黙は。
「無理かもね」
やっぱりダメじゃないですかー!
「なあお嬢さんたち、俺たちとパーティーでも組まねぇいかい?」
私たちの美貌に惹かれたのか、次はお近づきになりたいとでも思ったナンパ男さんたちのお出ましです。
どうやら私たちが変態剣に戸惑っているのを見て、いい格好を見せればアピールになると思ったようです。
「はい、なんでしょうか?」
しかし私は名門のお屋敷で働くメイドです。営業スマイルも波風立てずに男を追い払うのもお手の物。
男たちの容姿は金髪に雑に染めた汚ない野良犬のような髪と、なにやら長い髪をボサボサに逆立てています。ピアスも開けていて、鎧も無駄に金色のごてごてを施していて、無駄に派手めです。
それに顔も少し不細工で下品な下心が透けています。
全体的に清潔感に欠けた勘違い男感が否めません。
ゲーム中毒の汚ない軟派男の手など、お嬢様には指一本触れさせませんよ。風呂入って出直してこい。
「俺たちならその大剣持てるわ。大活躍できるよ?」
「だから俺たちとパーティー組もうぜ」
私に向かって手を伸ばしてきます。
この野郎…………私の肩に馴れ馴れしく手を触れようとしやがりましたね。
お仕置きが必要です。
男の手を電光石火の速さで回避して素早く捻り上げます!
「イテテテテ、なにしがんだこのクソアマァ!」
「申し訳ありませんが、私はおさわり厳禁ですので」
もう一人の男がなにを思ったのか、クラブという打撃武器で殴ろうとしてきます。
クラブは木の枝を削り出して作ったこん棒のことです。
現実なら安価ですし、木材の種類によっては鉄の剣よりも驚異的な武器になりますが、ゲーム内は現実と違います。
木で作った武器が、鉄に勝つなどあり得ないのです。
お嬢様がロングソードを抜いて、剣筋一閃。
またつまらぬ物を切ってしまった、と言って納剣すると、クラブはするりと壊れました。
なんともお粗末な武器ですね。はい。
「お、おい、こいつエンジェルダストの、ロイヤルとリアじゃねえか」
今さらながらに私たちの正体を知ったようです。気づくのが遅くありませんか?
「ヤベェ、ヤベェよ」
「逃げるか」
踵を返してダッシュで逃げるお二方。
私は自らの過失を認めない人、謝りもしない人は許さないことにしてるので、彼らを許しません。
逃げるなら、一言、せめて一言、お嬢様と私にお詫びすれば許して差し上げたものを………。
「ぶち殺して上げます」
アルテミスの弓矢を構えて、矢をつがえて、引き絞る。
狙いは走って逃げる男たちの背中。高レベルプレイヤーなのでしょうか、生身の癖に車並みに速いですね。
しかし、私は幼き頃より様々な戦闘方法を叩き込まれたスーパーメイド。
時速百二十キロメートルで暴走するバイクのドライバーを狙撃することもできる女です。
風、気温、湿度、重力。的の移動速度、距離。
弾道計算に必要な全ての情報を五感で正しく測定し、計測し、演算。
「死んでお詫びしなさい」
つがえた矢を解放。
正確なフォームで弦に蓄えられた運動エネルギーは矢に伝動し、放たれた矢は男の片割れの背中に突き刺さり、大爆発を起こしました。
「また、つまらぬものを撃ってしまいました………」
逆に面白いものがあるなら撃ってみたいですけどね。
後日、風の噂で聞いた話によると、このナンパ男たちは他のプレイヤーに寄生虫のように付きまとい、アイテムを盗んだり強奪したり、あるいは女性プレイヤーへのセクハラやストーカー等の罪状で悪質プレイヤーとして激しく嫌われていたそうです。
運営さんからの通知によると、彼らは今週中にはアカBANと永久追放が決まっていたそうなので、私たちが彼らに遭遇することは二度とないとのこと。
全く、ゲームの中に来てナンパなんて、どこまでも迷惑な人たちです。




