10.二回戦と優勝
一回戦は危なげもなくクリア。
馴染まない鎧とロングソードの重さに少しだけ疲れました。
本物の武器で斬り合う試合もスリリングですが、精神的に参っちゃいそうです。
次の試合までにはコンディションを整えておかないと。
「二戦目、スタートだぁぁぁぁ!!!」
と思ってましたが、控え室に戻る暇もなく、我々エンジェルダストの剣闘祭は二戦目を迎えました。
ワンデーイベントの大会らしく、どうやら休む暇もないようですね。あまり疲れていませんから問題ありませんけど。
一回戦は別の会場で同時進行だったようで、他のプレイヤーが闘技場に転送されて来ました。
「がはははは! 今度の相手は女か。 儂らの相手になるのか?」
「こりゃこの勝負は貰ったな」
相手の方々はもう既に勝ったつもりでいるようです。
無理も無いですね。送られた相手プレイヤーは筋骨粒々のプロレスラーのような大男のコンビです。私たちのような細い女の子二人ではどうあがいても筋力では勝てないでしょう。
しかも相手のおじさんは二人ともミリタリーカラーのフェイスペイント、上半身は裸で下は野戦服。
武器は棍棒とサバイバルナイフのみ、という、かなりこのゲームの趣旨を間違えておられる方々です。
お侍さんの次は軍人さんですか。またしても濃いキャラが来ましたね………。
ハリウッドの古き良きミリタリーアクション映画に出てきそうな殿方ですね。
「ねえロイヤル、あれをどうやったら倒せるのかしら?」
「足から崩して高さのアドバンテージを奪います。まあ見ててくださいよ」
お嬢様は速くもビビりスイッチが入ってます。今はビビりレベル2ってところですね。
最高はレベル5です。テレビで夏の怪談話とか放送されると怖いもの見たさで視聴しては、ほぼ絶対にレベル3になります。
しばらくはひとりでトイレにも行けなくなる癖に、怖い話を聞きたがるんですよね。困ったものです。
それで私がトイレに着いていってあげなければ私の朝の仕事にシーツの洗濯が加わります。どちらにせよ、余計な手間が増えるから止めて欲しい趣味です。
因みにレベル5はその場で失禁しながら泡を吹いて気絶します。
写メを撮って置けばお一人様でのお楽しみが捗ります。
「速攻でかたづけちゃいなさい………あいつら怖いから」
「かしこまりました。5分ほどお時間をください」
ロングソードを構えて相手の出方を伺います。
身体能力で大きく勝る相手に先手を譲るのはまずいですね。
受けに回ったら力と体格で押し切られて、間違いなく負けちゃいます。
屈強な大男に勇敢に挑むも、単純な暴力に抗えず蹂躙されて散る美少女も美しくて好きですが、それは私以外の女の子が被害側の話です。私がそうなるのは死んでもあってはいけません。
「こちらから行こうか、兄者」
「いいだろう弟よ、儂らの力を見せてやろう」
兄者と呼ばれた方は棍棒。弟はコンバットナイフを逆手に握って接近してきます。どうやら兄弟のようです。顔も似ているので多分血の繋がった兄弟なのでしょう。
装備の性能ならしっかり鎧を装着してリーチの長い剣を持ってる分、私が有利なのですが二体一は苦しいですね。力も負けてますし。お嬢さんはもう頼りにしてません。そんな人知らないもん。
「ですが………動きが直線ですね!」
なまじ腕力に自信がある方ほど、その人は力任せな動きをします。
彼ら兄弟も例に違わず、かなり直線的で直情的な単純な攻撃でした。
二人がかりの攻撃を受けているのに、まるで一体一のようにさえ感じられます。
「なぜだ、なぜ当たらんのだ?」
「兄者、こいつかなり素早いぞ」
空中を舞う羽根を素手で捕まえようとするかのように、兄弟の豪快な攻撃を紙一重で見切り、体重移動と反射神経を駆使して軽やかに回避。
息を切らして肩で息をする兄弟とは真逆に、私は汗一つかいてません。
筋力に任せて常に最大のパワーで動いている彼らと、体幹と身のこなしで最小限に動く私との差ですね。
「すごい、すごいぞロイヤル! 筋肉ブラザーズの攻撃をいとも容易くいなしているーー!!」
「ロイヤル頑張って!」
「強くて可愛いとか最高じゃん!」
「御姉様ー!」
観客席からの応援も集まってます。
「「「「ロイヤル!ロイヤル!ロイヤル!ロイヤル!ロイヤル!ロイヤル!ロイヤル!ロイヤル!」」」」
あ、この流れダメです。お嬢様が本格的に怒りそう。
「きぃぃぃいいいいい! これでも食らいなさい!」
ごつん、と弟さんの後頭部に盾が食い込みました。
やっぱり怒っちゃいました。明日からまた、お嬢様~怒りの給料半額~ってところですね。
不当なパワハラカットなのでお嬢様が旦那様に怒られますけどね。
「ごふぁっ!? 後ろからとか、卑怯だぞ」
私ばかりが目立っているのが癪に触ったのでしょうか、お嬢様も参戦して来ました。
弟筋肉を後ろから盾で殴り倒しました。とってもワイルドです。
それともう一つ、敵に背中を見せたあなたが悪いんですよ。
卑怯なんて言葉はこの私の辞書には存在しません。
隙があれば倒します、斬ります、殴ります。
「あなたばかりに活躍させてあげない。 世界の主役はこの私なんだから!」
なんか物語の最後で酷い目に合いそうな悪者少女みたいなセリフですが、なんだか頼もしい限りです。
「さて、兄者さん。あなたも倒してしまいましょう。 シロハタしてくれると私も無駄に体力を浪費しないので助かりますが」
「ふんっ。 笑止千万。 この儂が敵に降伏などするか!! カレーにして今宵の晩酌に食ってやるぞ!」
カレーは海軍カレーと掛けているのでしょうか? シャレの効いたお洒落な台詞ですね。私も一生に一度はこんな台詞言って見たいです。
「ならば、参りましょう」
私は腰を落とし、肘を曲げて剣を両手で構える突きの構えをとります。
先ほどまでの剣道構えとして有名な日本刀向けの〝切る〟構えよりも、西洋剣のための〝刺突〟に特化した構え。
彼の筋肉は確かに硬いですが、現実世界の人間を再現しているのであれば、金属の剣を防げるほど硬くはありません。
兄者さんも棍棒振り下ろしの構えで私と対峙しています。
勝負は次の合で決まります。
不動で構える私と彼の間に風が吹き………。
「くちゅん!」
お嬢様の可愛らしいくしゃみが切っ掛けを作ります。
「!! いざ!」
「行くぞ!!」
同時に駆け出す私たち。剣を突き出し、棍棒を振り下ろす。
お互いの死線が交差していき――――――――――――――。
◇
「優勝おめでとうございます!」
私たちエンジェルダストは勝利を重ね、遂には黄金のトロフィーを手に勝利の栄光を味わうことになりました。
早い話が優勝ですね。
「やりましたねお嬢様」
「よくやったわ。 それでこそ私の従者ね」
お嬢様からのお褒めのお言葉、感謝感激雨あられです。
剣を象ったトロフィーはプレイヤートロフィーとして、サービス終了まで永遠に残り続け、プレイヤープロフィールに飾られるのでうっかり敵に奪われることもないらしいです。
お嬢様はこのトロフィーを気に入ったらしく、先ほどから私には全然触らせてくれません。戦ったのは私なのにひどいです………。
「景品をどうぞ」
歓声の響くなか、私はラウンドガールから優勝景品を受けとりました。
バニーガールの似合う金髪のかわいい女性です。私もかわいいですけど、あなたもかわいいですよ。
「ありがとうございます」
パネルには賞金一千万クレジット(?)と書かれています。クレジットってなんでしょうか? エデンオンラインのゲーム内通貨でしょうか。
「武器はこちらです」
ピロン♪
脳内に聞こえる着信音。武器は運営からのメールにデータとして転送されて来ました。さて、お嬢様がお待ちかねの限定武器ですよー。
「ヘラクレスの大剣、アキレスのロングソード、アルテミスの弓」
これが賞品ですか。ギリシア系の神様の名前で統一された、強そうな武器のラインナップですね。
ですが〝ヘラクレスの大剣〟、これは私とお嬢様には持てないと思います。
だってこの剣二メートル以上ありますし。厚さはなんセンチでしょうか。 軽く十センチメートルはありますよ。
ヘラクレスの大剣と言うよりも竜殺しの剣、鉄塊、置物、文鎮代わり、そう呼ぶべきです。
この剣はとりあえずデータのままで保存して置いて、後で武器屋さんに売りましょう。お嬢様も使えない武器を売るくらいなら分かってくれるはずです。
「どうでしたかロイヤル選手。 今夜の主役はあなたですよ? 初出場で優勝した選手なんて前代未聞です。 今のお気持ちをどうぞ」
「思いっきり人斬りして楽しかったですね。 またやりたいです」
「あ、ありがとうございます!」
ちょっと引いてますね。失敗失敗。
「ちょっとあなた! 私にも聞きなさいよ! エンジェルダストのリーダーは私なのよ!」
「では一言どうぞ」
「こっほん。 わたくしとロイヤルなら、これはある意味当然の結果ね。 愚民たちはわたくしたちの栄光を伏して拝み――――」
「はいありがとうございまーす」
「最後まで聞きなさいよ!」
お嬢様には興味が無かったのでしょうね。
「では今夜のイベントはここでも終了とさせて頂きます! 」
「だから聞きなさい!」
はいはいどうどう。 もう帰りますよお嬢様。明日も私は朝からお仕事があるんですから。




