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パンドラの恋人  作者: 櫛名田慎吾
第一章
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私は援交で復讐をしようと思っただけ

――この男も違う。


 興奮で鼻息を荒くしている中年男性を目の前にして、私の心は落胆していた。


 スーツや持ち物は小綺麗でお金も持っている様子だったけれど、この男は独身だった。それに見たところ普通の会社のサラリーマン。私が破滅させる相手としては、この男は小物すぎた。


「ねえアヤミちゃん、お金出すから最後までダメ?」


 薄暗い車内でもわかる充血した目。男が私を見る。お金を出せばなんとかなると思っているのだろうけれど、あいにく私の目的は復讐。お金が目的ではない。


「ダメ。手でするのと、胸を触らせるだけって言ったでしょ」


「でもさあ、アヤミちゃん本当に可愛いし……。じゃあ口はどう」


 制服の上からお尻と太ももを触ってくるのは中年男。そして私がいま手で触っている汚らしいものを口にふくめと言う。虫酸が走った私は手を止めて狭い車内で身を起こす。


「ねえオジサン。約束を守ってくれないならお金もいらないし、私、これで止めるから」


「え、ちょ、ちょっと待って!」


 私は男からもらった札束を車の中にばら撒いてドアを開けた。胸元が少し乱れているけれどそんなことは気にせずに外へと出る。


「アヤミちゃん? ちょっと、アヤミちゃん」


 後ろの方から間抜けな声が聞こえてきた。けれど、下半身を露出しているあの男がすぐに追ってこられるはずは無い。私は歩きながら手早くブレザーの胸元を直して中年男の元を去った。


 私は自分の復讐のために自分の身体を利用している。かといって、汚らしい男どもに最後まで身体を許すつもりはこれっぽっちも無い。私のような高校生の身体を買って喜ぶ男に復讐をしたかった。私の家を崩壊させたアイツのような、お金も家庭も社会的地位もあるヤツを破滅させるのが私の援交の目的だった。


 相手は政治家でもいいし、役所の公務員でもいい、でもやっぱりできれば金融機関のお偉いさんが一番の獲物。とにかく私の身の破滅に付き合ってもらえるなら、出来るだけ私の望みに叶う男が良かった。 


――もうあと一年も無い。 


 その復讐は私が十八歳になる十一月の誕生日までにしなければいけないことだった。十八歳未満への猥褻な行為の露見、これこそがアイツらの人生を破滅においやるには最適な復讐に思えた。被害に遭ったと警察に言えばそこで男の人生も家庭もすべてが終わる。なにしろ痴漢のえん罪とは違って、本人は確実に私を買っているのだ。


 初めは要領がわからずにラブホテルに行ってしまった。その最初の男が至って普通の男だったのは私の幸運だったのかもしれない。


 ラブホテルになど入ったことの無い私は、部屋から出るときに内側からカギを開けられないことを事後に初めて知ったのだった。もしその男が約束を守らずに無理矢理私を押し倒していたら……。私は部屋から逃げることもかなわずに、本当にレイプされていたかもしれない。ラブホテルから出るまでは平然を装っていた私だったけれど、一人になった瞬間膝が震えてしゃがみ込んでしまった。

 

 それ以来私はラブホテルは拒否することにした。場所として一番安全なのはカラオケボックスとかマンガ喫茶の個室、そして今日のような自動車の中は少し注意が必要。


 自動車は突然連れ去られたり、レイプされそうになって逃げても追いかけられたりする場合が考えられる。だから今日は最初から逃げられるように準備をしながら行為に及んでいた。


 もし今日の相手が私の望むような地位のある男だったら逃げなかったかもしれないけれど、今のように普通の独身サラリーマンだったら何も危ない橋を渡ることもない。


 私は何食わぬ顔で公園の側を通り過ぎて大通りまで歩く。一旦舗道に立ち止まってスマホを見た。そこに映っているのはさっきまで一緒にいた男からの罵詈雑言のメッセージ。


「ふっ……」


 その男の小物具合に思わず鼻で笑ってしまった私は、見ていたSNSのアカウントを消す。


 もう何回アカウントを消したかわからない、中には本当に態度が紳士な男もいた。けれど私の中では高校生を買っている時点で紳士などでは無い。オトナの男なんていうものは全員欲望の塊だ。仮面を外せばその本性が現れる。そんなことを思いながら再び新規のアカウントを作る私。


――プチ援しませんか


 いつもと同じような書き込みをして、私はスカートのポケットにスマホを仕舞った。

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