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(9)7歳時(?)魔力検査

 サイモンが持ち込んだ酒には痺れ薬が入れられていた。宴会で男たちに薬を盛り、動けなくなったところで村を制圧する計画だったのだ。


 その計画が村を助けることになった。




 今は果実の収穫期である。収穫、加工と1番忙しい時期だ。そのため、酒盛りは日が落ちてからと決まっている。日のある日中は少しでも乾燥果実作りにあてなければならない。


 なかなか計画が動き出さないことに、サイモンたちはさぞかしイライラしたことだろう。




 そして、あたりが暗くなった頃やっと宴会が始まり、サイモンの思惑通り、村の男たちはたちまち痺れ薬で動けなくなった。


 しかし、女たちと子供たちをかばって自分を睨み付けてくるヘレンを前に、サイモンが気持ちよく高笑いをしていると、なぜかそこに、いきなり空から断罪者たちが舞い降りて来たのだ。


 それは、砦から飛んできた3騎の飛竜と竜騎士であった。




 サイモンとその一味は、突然の竜騎士の登場に慌てて逃げ出そうとしたが、村の外に待ち構えていた砦の兵士たちに全員捕縛された。


 村を包囲していたサイモンの仲間たち45人は兵士たちによってすでに制圧済みだ。




 その後の尋問によって、彼らが男爵を襲撃した盗賊団であることが判明。また、公金横領の罪を隠そうとした男爵の側近が襲撃を手引きしたこともあきらかになった。




 最初の計画では、サイモンがヘレンと結婚したあと村長親子をまとめて始末し、サイモンを村長に据えて、村を隠れ蓑のアジトにするつもりだったらしい。


 計画が、村人を全員殺して村の財産を奪うというものに変更されたのは、結婚の申し込みをあっさり断られ、プライドをへし折られたサイモンの逆恨みのためだったようだ。




 そんなわけで、翌朝、砦の兵舎の治療室でカリンが目を覚ました時には、全てが終わっていたのだ。


 あの時、森の中でカリンを追いかけていたのは、哨戒飛行中の竜騎士だった。


 小さい体に見合わぬ速度で砦に向かって移動する正体不明の存在を、魔物と判断し警戒していたのだそうだ。


「森の出口で待ち構えていたら、飛び出してきたのが、まさかこんな小さな女の子だったとは」


 そのあとの砦を揺るがすほどの大声といい、子供とは思えぬ健脚といい、新種の魔物の疑いが晴れず、助けに行くのが遅れて苦しい思いをさせてしまったと、竜騎士様はカリンに頭を下げた。




 小さな女の子が砦に助けを求めて駆け込んで来た。1番近い村に何事かが起きたに違いない。


 砦の男たちは、ただちに動き始めた。


 助けを求める女の子の大音声だいおんじょうで呼び覚まされた男たちの気合いは、力尽きてぐったりした幼い少女のいたいけな姿に、1段階も2段階も上がった。


 この砦の兵士は、子持ちの父親が多かったのである。




 竜騎士による偵察で村が武装した集団に包囲されていることが判明。


 少女が1人、命がけで森を抜けて来たことから推察して、村人が人質にされていることも考慮して動かなければならない。


 森を抜けて、村には村人保護のための隠密偵察部隊を、村を通らないルートで、武装集団の方には精鋭の制圧部隊を送り込んだ。




 そうして、村人の命を1つも失うことなく盗賊団を壊滅させることが出来たこの事件は、小さな砦による男爵殺害犯の早期捕縛という大手柄となった。




 そしてカリンにとっても大きな変化をもたらすことになったのだ。




 じつは、3騎の竜騎士のうち、1騎はこの砦の所属ではない。


 今年のこの地域の魔力検査を行う魔術師を連れてきた、王都の騎士団所属の1騎だったのだ。


 つまり、魔力検査担当の魔術師がこの砦に滞在していたのだ。




 この国の国民は7歳の時に魔力検査を受ける。


 まず、簡単に魔力量を調べて、上級、中級、低級という3段階で判定する。そのうち、中級以上と判定された者は、10歳になると王都の魔法学院に行かなければならないのだ。




 カリンは今年推定7歳。カリンを迎えに来た村長の了解も有り、ちょうど良いのでここで検査を受けて行くことになった。




 鑑定魔法は鑑定できる情報量が使い手によって違う。今回の魔術師が鑑定できるのは、魔力量と年齢だった。


 これでカリンの記録から“推定”の文字を外すことができると、大人たちは気楽に考えていたのだが……。




 カリンを鑑定した魔術師の顔が、青くなった。


 よほどとんでもない魔力量なのかと心配して尋ねてみれば、魔力量は中の中だと言う。


 だとすると、彼が青くなった理由は……。




「10歳です」


「はぁ?」


「だから、彼女はすでに10歳です。誕生日はわかりませんけど」


 砦も村も大騒ぎになった。




 なぜ、そこまでの騒ぎになったのかと言うと、10歳で魔力量中級のカリンは王都の魔法学院にすぐに行かなければならないからだ。


 学院に行かずに11歳の誕生日を迎えると、最悪の場合は、首長が罪に問われることになる。今回の場合、首長とは村長と男爵になる。


 問題なのは、カリンの誕生日がわからないことだ。明日にも11歳になってしまうかもしれないのだから。


「まあ、事情があるんだし、多少は大目にみてくれると思うがな」と砦の司令官は苦笑いしていたけれど……。




 学院に入るには、領主が発行する領民証明書と魔法学院への紹介状が必要だ。


 領主不在の時は次期領主、それもいない時は領主の側近…………。


 とりあえず、男爵家の文官に掛け合い、領民証明書だけはなんとか作ってもらった。




 それにしても、どこへ行っても必ず言われる言葉が「嘘だろう」「そんな小さな10歳がいるものか」「鑑定が間違ってるんじゃないか?」の3つだ。


 1番「嘘でしょう」と言いたいのは、いきなり3つも年齢が上がってしまったカリン本人なのだが……。体の大きさを見れば、周りの7歳の子供にも負けていたりするのだから。




 王都までは、特別に、竜騎士が送ってくれることになった。


 同行者はカリンが断った。村はただでさえ果実の収穫で大変な時期だ。そこに盗賊団の騒動が加わって、人を出す余裕など無いことをカリンはわかっていたのだ。




 慌ただしく準備を整え、翌日、カリンは村の広場で出発前の見送りを受けた。


 あれから3年。カリンはもうこの村の子供だった。


 村人たちが口々にカリンを心配し、激励してくれる。


 珍しく、杖をついて広場まで出てきたおばば様は「いいかい。うつむくんじゃないよ」と目を潤ませ優しく笑った。


 村長は「半年後でも、1年後でも、いつでも帰って来なさい。ここはお前の村だ」とカリンの頭を撫でてくれた。


 ヘレンはお弁当を作ってくれた。ニールは顔を真っ赤にして、唇を噛み締めている。




 本当のところを言えば、たくさんの人に囲まれ、たくさんの情報が一気に入ってくる状況はカリンにとってかなり辛かった。頭痛と吐き気をカリンは必死にこらえていた。


 でも――それでも、とても嬉しかったのだ。


 ここはカリンの村だ。みんなも自分も自然にそう思っていて。ここに自分の居場所があることがこんなにも心強い。


 必ずここに帰って来よう。


 涙ぐむカリンを乗せて、飛竜は王都に向け、広場から飛び立った。













 

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