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(6)家族

『生き物は全て魔力を持っている。魔力を持っているのは生き物だけである。命の輝きを持たない物にも魔力を宿している物はあるが、それはあくまで残留魔力である。たとえば魔物の体内から出てきた魔石などがこれにあたる』


 おばば様がそう教えてくれたので、カリンもそうなのだと思っていた。


 しかし、魔力感知のレベルが上がったカリンは、おばば様の教えの中で、この部分だけは間違っているのではないかと思うようになった。


 残留魔力だとは思えない魔力を持つ“物”がカリンの身近に2つもあったからだ。




 1つはカリンのペンダントである。


 これまでも“まるで応援してくれているような”と思っていたが、このペンダント、本当に自分の意思を持っていた。


 自分の言葉や考えに、“まるで相づちをうっているような”と思ったのはいつからだったろう?


 魔力の光で、1回チカッと光ると“はい”2回の時は“いいえ”


 ドキドキしながらペンダントに話しかけ、その通りの反応が返ってきた時、カリンは驚くよりも嬉しかった。


 すぐに名前を決めた。“カリン”だと同じ名前になってしまうので、“リン”。


 リンの魔力の光は魔力感知の能力が高くないと見えないようだが、念のため、ペンダントは服の中に入れてある。ペンダントが体に触れていれば、カリンには魔力の揺らぎでわかるのだ。




 もう1つは、村長の短剣である。


 大切に手入れされながら長い年月、たくさんの人に使われてきた剣であった。


 100年以上前の村長のご先祖が領主様から褒美としてたまわった物で、代々の村長が受け継いできた物なのだそうだ。


 普段は大切に仕舞ってあるが、村長として公式の場に出る時、大切な話し合いの時には必ず身に付けている。


 この短剣が、村長とよく似た、でもまったく別の魔力を持っているのだ。


 厳しくも優しい。そして、とても温かい魔力だ。




 おばば様にこの事を話すと、びっくりして、「それは精霊憑せいれいづきだね。本当にあるんだね」と感心していた。


 でも、そのうちの1つが村長の短剣であると聞くと、「たしかにあの短剣は、子供の頃から特別な物だと思っていた」と納得していた。


 誰を思い出しているのか。おばば様はとても懐かしそうな顔をして目を潤ませた。




 この村に来て間もない頃、カリンはこの短剣から目が離せなくなったことがある。村長が会合に出かけようと準備していた時のことだ。


 なぜか目が吸い寄せられるような気がして、カリンがその短剣をじっと見ていると、村長が、「気になるか?」と短剣をさやごと抜いて、カリンに見せてくれた。


 カリンの顔の前に近づけられた短剣は、鞘に入っているのに、ギラッと光ったように見えた。


 カリンは何かぞっとするものを感じて、ブルッと身を震わせた。すると、村長はカリンを剣を持っていない方の腕で抱き上げてくれた。




「恐ろしいか?――――そうだ。これは武器だ。この短剣が実際に人をあやめたこともある。その時の持ち主は私ではなかったがな……」


 村長の声も雰囲気もいつもより厳しくて、でも優しくて、どこか悲しげだった。


「この短剣は、何があっても村人達を守るという覚悟の証しなのだよ」


「かくご?」


「そうだ。村長は命に代えても村人を守る。そのためには人を疑い、見極めることも必要だ」


 カリンの目を見る村長の目は優しい。




「ニールはまだ幼い。父親や私のことをいつも見ているから、あの子なりに村を守ろうという気持ちはあるらしい。だから、お前を警戒しているのだろう。怖がっているんだよ」


「こわい?」


 首をかしげるカリンの様子に、村長は顔をほころばせた。


「恐がりなんだ。守りたいものがあるからな」


 村長の中から温かい物が流れてくる。あれが魔力だとはあの時は知らなかった。




「お前は、良くも悪くも、この国では目立ってしまう。この先、お前をうとむ者、利用しようとする者もいるだろう」


 カリンはヒュッと息を飲んだ。


「お前も、人を疑うことと、信じることを学ばなければならない」


「うた、がう?」


 それはカリンにはなんだか恐ろしいことに思われた。


「強くなれ。腕白坊主どものいじめなんぞに負けるなよ」


 村長の口の端が少し持ち上がって、笑顔らしきものを作った。他の子供なら、それを見て泣き出していたかもしれないが、村長の中の温かいものを感じられるカリンはその笑顔を恐いとは思わなかった。


「大丈夫だ。お前なら……。お前が信頼できる人、お前を信頼してくれる人は、必ずいる。――――ここにも、お前の家族になりたいと思っているじじいが1人いるよ」


 あの後、村長はよそ行きのシャツの左胸のところが少し濡れてしまっているのを気にせず、会合に出かけて行ったのだった。




 あのペンダントの1件以来、ニールはカリンに「村から出ていけ」とは言わなくなった。


 それでも、あい変わらず他の子供たちと一緒にカリンを追い回している。家でも夜の食事の時はカリンも一緒に食べるのだが、ニールはいつもカリンの顔をにらみつけてくる。


 ニールの魔力は元気いっぱいで、くるくると目まぐるしく感情の動きが変化するので、カリンは目が回りそうになる。だからなるべくニールの方は見ないようにしているのだが……。


 家族は、そんな2人の様子を微笑ましく見守るのだった。





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