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小間使いは落とし物係ではございません  作者: まのやちお
第2章 魔法学院の小間使い
14/36

(14)手配書き

この前の13話が増量になっています。物語の流れとしては変わっていないのですが、学院に来てからのカリンの立場と周りの人々との関係などを書き加えました。

よろしかったら読んでみてください。

 気がつくと、カリンは洗濯物が詰まった袋を枕にして寝ていた。


 場所は物干場の小屋の中だ。洗濯物干場には、乾いた洗濯物を取り込んで、たたんで置いておく小屋があるのだ。


 真っ暗だ。カリンが洗濯場に来てから、そんなに時間は過ぎていないようだが……。


(夢?)――――チカッチカッ!


(そうよね夢なんかじゃないわ。2人の魔力はちゃんと覚えているもの)――――チカッ!





 井戸の女神様そっくりの男の子に出会ったのも、その直後、誰かにナイフを突きつけられたのも現実にあったことだと思う。リンも夢じゃないと言ってくれている。


 ただ、あの後のことが思い出せない。




 ナイフを持った人物からとても恐ろしい魔力を感じたのは覚えている。村を襲った盗賊団に感じた黒い魔力に似て、それよりももっと鋭い魔力。あれは“殺気”と言われるものなのかもしれない。


 カリンは恐ろしさで気を失ってしまったのか。それとも、何らかの魔法で一時的に意識を奪われたのか。


 そして、誰がカリンを小屋の中に運んだのか。あの華奢な男の子だとは思えないので、おそらくナイフの人物の方だろう。




 目が覚めてすぐに魔力感知で確認したが、物干場にも、洗濯場にも、井戸の周りにも人の気配は無かった。


 あの男の子もナイフの人物もカリンが感知できる範囲にはもう見当たらない。




(困ったわね。人が来ない素敵な洗濯場だったのに。夜も駄目なのかしら)――――チカッ?




 その後、さいわいと言うべきか、カリンが恐る恐る近づく夜の洗濯場にカリン以外の人が訪れることは無かった。




 ◇◆◇◆◇




 たらいの水に映る自分の顔を見る。


(鼻ならちゃんとあるもの…………ちょっと低いけど)――――……。


 鼻が無いだの、魚みたいな顔だの、カエル顔だの言われ続けると、女の子としてはさすがに傷つく。リンも反応に困っているようだ。




(大丈夫よ。おばば様は可愛いって言ってくれたもの)――――チカッ!




 おばば様に会いたい。ヘレンのスープを飲みたい。村長さんの温かい魔力に触れたい。


 村がひどく懐かしくなることがある。


 村長さんは「帰っておいで」と言ってくれた。


 自分でも、いつか必ず帰ろうと思っていた。


 でも――――。




 マシューさんの執務室の壁に、木の板が壁1面にたくさんぶら下がった場所がある。近くで見てみると、板には文字が書かれている。髪と瞳の色。顔の特徴。身長。黒子ほくろや傷の場所。


 カリンが眺めていると、マシューさんが“お尋ね者の手配書き”だと教えてくれた。


 盗賊。強盗。悪質な詐欺師。人殺し。逃亡中の凶悪犯が下働きとして雇われることが無いように。紛れ込んでも誰かが気づくように。誰もが見やすい場所に手配書きをぶら下げてあるのだそうだ。




 その中に、かなり長い間ぶら下げられたままなのか、色の変わってしまった板がある。その板が以前から気になっていた。


 夜中の物騒な出来事についてマシューさんに報告に行った時、思いきって聞いてみた。


 その板に大きな文字で書かれた最初の言葉の意味がわからず、マシューさんに教えてもらったのだ。




 “謀反むほん”“連座れんざ


 その意味を知った時、胸をぎゅっとつかまれたような気がした。板は、隣の国の取り潰された貴族の家の子供の手配書きだった。


 その子供が罪を犯したわけではない。でも捕まれば処刑される。子供をかくまった者も罪にとわれると書かれていた。




 カリンは思った。(私はどうなのだろう?)と。


 カリンには、森で拾われるまでの記憶が無い。


 ただ、森に捨てられただけなのかもしれない。魔物か盗賊に襲われ、カリンだけが助かったのかもしれない。それとも、人拐いから逃げて来たのかもしれない。




 もう、それはどうでも良い。




 それよりも、親は?――――自分はどこの誰なのだろう?


 記憶が無いということは、都合の悪いことも覚えていないということだ。


 たとえば自分や自分の親が犯罪者として追われる立場であったとしたら……。




 村長たちが役人と兵士たちに捕まる夢を見た。夜中に泣きながら目が覚めた。


 そして、2度とあの村には帰るまいと思った。




(1人で生きていかなくちゃ)――――チカッチカッ


(ああ、ごめんね。リンは一緒よ)――――チカッ…………チカッチカッ


(どっちなの?)――――…………。




 人と話をすることが減った。ただ黙々と仕事をする。笑顔も見せなくなった。


 こうなると、自分を差別し、見下す人々の存在は逆にありがたい。カリンが自分の殻に閉じこもっても不思議に思われない。


 ライラやシェリーともあまり仲良くしないほうが良いかもしれない。


 村の人たちが見たら、村に預けられたばかりの頃の人形に戻ってしまったと言うだろう。


 カリンが王都に来て、3か月がとうとしていた。




 洗った洗濯物を全て干し終わった頃、空がかなり明るくなってくる。そろそろ学院の生徒たちが起きてくる時間だろうか。


 ふと、気配を感じた。


 振り返ると、繁みの影からこちらを窺うように、あの夜の男の子が立っていた。




(男の子……なのよね?)――――チカッ?


 リンの反応も疑わしげだ。


 キラキラと豪華な、それでいて清楚な印象のドレス。長い髪は綺麗に結い上げられて、花の髪飾りで留められている。


 そこにいたのはどう見ても、かなり高位の貴族のお嬢様だ。


 でも魔力は、あの夜に感知したもので間違いない。だとしたら――――。




 カリンは魔力感知を強化した。(あのナイフの人がいるはず!)


 カリンは振り向いた。後ろの繁みをじっと見る。


「怖がらなくて良い。何もしない」


 可愛らしい声に、お嬢様(?)の方を見ると、その後ろに男が1人立っていた。


 あまり大きな男ではない。暗い茶色のローブを着て、フードで顔を隠している。




 男からはあまり大きな魔力を感じない。だがこれは、この男の本当の魔力ではないと、カリンは気づいていた。


 カリンの“かくれんぼ魔法”と同じ、いや、それよりもはるかに上手く、男は自分の魔力を隠していた。


 あのナイフの人物だった。




 カリンの体がかってに震える。


 それを見たお嬢様(?)が男に文句を言った。


「ほら見ろ。怖がられちゃったじゃないか。お前のせいだぞ」


 ローブの男は声を出さず。黙ってカリンに頭を下げた。





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