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小間使いは落とし物係ではございません  作者: まのやちお
第2章 魔法学院の小間使い
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(10)試験ですか?

 門番さんは悪くないとカリンは思う。


 では、誰が悪かったのかと言えば、やはりそれは自分だろう。カリンの言葉が足りなかったのだ。




 でもあの時カリンはとても具合が悪かった。


 なにしろ、王都である。そしてその中心に位置する王城の、その敷地の中にある魔法学院なのだ。


 学院には学生だけでも約500人いて、魔法について学んでいるという。気が遠くなりそうだ。


 カリンは、あまりの人の多さに、頭痛と気持ち悪さでフラフラの状態だったのだ。


 そんな時に、魔法学院にやって来た理由を尋ねられ、こう答えた。


「10歳になったので、魔法学院に行けと言われました」




 門番は、領民証明書とカリンとを何度も見比べて、首を捻っていた。


 10歳にはとても見えない。しかし領民証明書は本物だ。だとすると、貧しくてろくに食事も出来ず、成長が止まってしまったのか?


 そういえば、着ている服も田舎の子の普段着のままだ。王都に上がるというのに、よそ行きの服の1枚も用意してもらえなかったのか。


 どう見ても遠い国から来た子のようだからな。可哀想に。




 門番は、温かいまなざしでカリンを励ました。


「頑張れよ。採用されると良いな」




 今度はカリンが首を捻る番だった。


 試験があるの?


 それにしても、合格じゃなくて採用?




 門番に示された方に行くと、カリンと同じような大きな荷物を持った女性が2人いた。


 それを見て、カリンはさらに首をかしげた。


 2人とも魔法学院に入学する年齢にはとても見えない。1人はヘレンと同じくらい、もう1人は20歳くらいに見える。




 これは、どうやら何か手違いがあったらしいと思っていると、若い男がひどく焦った様子でやって来た。


「5人のはずだったのに、3人しか集まっていないのかっ。しかたない。もう時間が無いので、ここで締め切る。ついて来なさいっ」




 カリンは男の早口に、口をはさむことが出来ず、早足でずんずん進んで行く男のあとを小走りについて行った。


 どんどん人の気配の少ない方へ進んでいるようなのがありがたい。


 やがて、飾り気の無い大きな建物に入り、3階に上がって、1番奥の部屋に連れていかれた。


 大きな事務用の机が1つと壁際に資料の並んだ棚があるだけの部屋だったが、事務机の手前の床に、大中小3つの木箱が置かれていた。


 部屋の中には、書類仕事の手を止めて、こちらを見ている黒い服を着た年配の男性がいた。




「では、学院の小間使いの採用面接を行う」


 ここまで私たちを連れてきた若い男の言葉を聞いて、カリンは目を見開いた。


 小間使い。カリンの理想の仕事ではないか。




 カリンは面接を受けてみたいと思った。


 言われた通り、ちゃんと魔法学院には来たのだ。


 自分が小間使いとして採用してもらえるのか、自分でも出来る仕事なのかをここで確認出来るかもしれない。知りたい。


 本当のことがわかった時、もう「勘違いに気づきませんでした」は通らないだろうけれど、その時は謝ろう。




 難しい質問はされなかった。


 健康状態についてや、体力が必要な重労働であることを理解しているか、などについてだ。


 カリンの場合は、やはり年齢詐称を疑われた。それでも、領民証明書がある。領民証明書は記載をごまかすことが許されない書類で、信頼度が高いのだ。




 2人がカリンを“採用の対象外”として見ていることは感じていた。おそらく、体が小さいために非力で体力が無いと思われたのだろう。


 だから、「重い物は持てるか?」の質問に、その場に用意されていた木箱のうち、1番大きな木箱をカリンが軽々と持ち上げると、ひどく驚かれたが、即採用になった。




 というか、3人のうちで採用されたのはカリン1人だけだった。


 若い方の娘は非力で、1番小さな箱を動かすことも出来なかった。


 もう1人の方は、今回配属される職場が洗濯場であることを知ると、自分から辞退したのだ。


 どうやら、この女性は、下級貴族の若様や大商人の後継ぎのおめかけねらいであったらしい。


 洗濯場では、どう頑張っても、若様方との出会いは無い。




 “最後の採用試験”として、カリンが連れて行かれたのは洗濯場だった。


 けっこう広い洗濯場には、洗濯物が文字通り山になっていた。


 洗濯している人の姿は無い。魔力で確認しても、ここにいるのはカリンと、カリンを連れてきた若い男、従僕頭じゅうぼくがしら補佐のベンしかいない。


 ちなみに、事務室にいた黒い服の男性は従僕頭のマシューさんというらしい。


 “最後の採用試験”は、この洗濯物の山をカリン1人で全て洗え、ということなのかと思っていたら、「出来るかぎりで良い」と言われた。




 なんでも小間使いがいきなり3人立て続けに辞めてしまったのだそうだ。


 結婚。怪我。家族の不幸。それぞれ理由は違うが、3人の職場がそろって洗濯場であったことで洗濯物がたまってしまった。


 とは言っても、ここには学生たちの洗濯物は無い。洗濯場はいくつかあって、ここは従僕、小間使いなど、学院で働く下働きの者たちの洗濯物専用の洗濯場なのだ。




 新たな小間使いを採用しても、重労働のために、せっかく採用した新人がすぐに辞めてしまうのだとベンはため息をついた。


 そういう話を聞くと、本当のことを言わずに採用されてしまったことに罪悪感がわく。


 せめてここにある洗濯物の山は全て片付けようと、カリンは気合いをいれた。




 カリンが泳げそうな大きなたらい。洗濯場専用の井戸。広大な物干場。仕事に必要なことをカリンに説明するとベンはさっさと自分の仕事に戻って行った。


 他の建物から離れた場所なので、近くに人の気配は無い。じつに都合が良い。




 カリンはさっそく“洗濯魔法”で洗濯物の山を崩し始めた。


 今回は、汚れた水は捨てる。綺麗な水は井戸から汲めば良いのだ。でも、水の中の魔力だけは回収する。汚れと一緒にいちいち魔力を風に飛ばしていたら、これだけたくさんの洗濯物を全て洗うことは出来ない。




 小間使いや従僕の仕事着。こちらは馬屋番の仕事着だろうか。さすがに下着は自分達で洗っているそうだ。


 大物はシーツの山だ。下働きの者たちは地方出身者が多いため、職員寮で暮らしている者がほとんどなのだ。シーツの数はかなりの物である。




 カリンは“洗濯魔法”と“力持ち魔法”で次々に山を攻略し、お日様が1番高いところに上る前に、全てを物干場に干し終えた。




 さて、どうしよう。終わったことを報告したら、本当のことを話して謝らなくてはならないだろうか。


 カリンがそう考えていると、それまで誰もいなかった物干場に、いきなり、とても大きな魔力の反応が現れた。


 カリンが慌ててそちらを見ると、そこには1人の老人が立っていた。










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