15
気づいた時、そこは一条家の庭だった。
キラキラと細かな星がその場にいる皆に降り注いでいる。
疲労のために立つことも出来ない雅緋を蓮華芽衣子が見下ろして笑っている。そのすぐ隣では、伽音の膝に座った沙羅がミツボシを抱きしめている。
それは不思議で奇妙な光景だった。
そして、瑠樺の目の前にいるのはーー
「よく頑張ったね」
「あやのさ……いえ、ふみのさん?」
「そうだよ」
それは死んだはずの美月ふみのだった。そして、その隣には矢塚冬陽の姿まであった。
「生きていたんですか?」
だが、ふみのは静かに首を振った。
「いいや、違うよ。私たちは死んだ身。きっと私たちの心の一部が『魔化』の中に囚われていたのだろうね。こうして戻ってこれたのは一時的なものさ。瑠樺ちゃんが起こした奇跡だよ」
「でも、何か方法がーー」
「いいんだ。僕たちはやるべきことをやった。もう十分だよ」
と言った矢塚の顔は笑っていた。それは本当に満足そうな顔に見えた。
「そうだよ。瑠樺ちゃん、ありがとう。私たちはね、瑠樺ちゃんに会えて良かったと思っているんだよ」
「でも、二人共……命を落とすことに」
「瑠樺君、ボクはね、妖かしの一族なんてものに興味なんてなかったんだ。それでもボクは君に会うことが出来て何かが変わった。君が何かを変えてくれると思ったんだ。そして、君はボクの思った通りに奇跡を起こしてくれた。ボクたちが死んだことが喜ばしいとは言えないが、君はそれ以上の結果を残してくれたよ」
「矢塚さん……」
二人の姿に瑠樺は胸がいっぱいになっていた。
「さあ、瑠樺ちゃん、時間は少ないよ。ちゃんと話しておいで」
そう言ってあやのは瑠樺を促した。その先に父の辰巳の姿があった。光の粉が降る中で、ぼんやりと宙を見上げている。
瑠樺はその父のもとへゆっくりと歩み寄っていった。
「お父さん……」
「凄いなぁ、瑠樺は。あの『魔化』の真実を見つけだすなんて。俺は見誤った。ただ、皆を不幸にしてしまっただけだ。俺はどうして……いつからこんなふうになってしまったんだろうなぁ。子供の頃からずっと『妖かしの一族』の未来のことを考えてきた。『魔化』のことを知って、俺に何が出来るだろうって考えてきた。それなのに……俺は昔考えてきたと真逆のことをするようになっていた」
「お父さんはきっと一生懸命に皆を助けようとしただけなんだよ。だからこそ、まわりが見えなくなってしまっただけ」
「でも、おまえは為すべきことを出来た」
「きっと私はよくわかっていなかったから。お父さんみたいにいろいろなことを知らなかったから。だから、雅緋さんを、蓮華さんを、一族のみんなを信じることを優先出来た。きっとそれだけの違いなんだよ。それに大切なのはこれからのほうだから」
「じゃあ、なおさらおまえたちに任せるしかない」
「どうして?」
「俺は向こうに行かないとな」
「どうして? 人形を使えばこっちにいられるんでしょ?」
「それは自然な姿じゃない。それは今の俺にはわかるよ」
辰巳は少し恥ずかしそうに笑った。
「ちゃんと話は出来たの?」
美也子が近づいてきて、瑠樺の肩に手を当てる。
「おまえにも悪いことをしたな」
「いいよ。私たちは夫婦なんだから。あなたのことを叩いたのは初めてだね。良い記念になったよ」
「嫌なことを言うんだな」
そう言いながらも辰巳は嬉しそうだった。その身体が少し薄くなってきている。
「……お父さん」
「もう時間だな」
「元気でね……っていうのは、やっぱり変かな」
瑠樺の言葉に、辰巳も美也子も笑顔を見せた。
「いいんじゃない? あんたたちはそういう一族なんだからさ。瑠樺の力なら、また会えることもあるよ」
「そうだな。あっちの世界のことは俺もよくわからないからな。意外と頻繁に会うことが出来たりしてな」
「二人とも笑ってる場合なの」
「こういう別れ方も楽しいものさ。じゃあ、またな」
そう言って辰巳は姿を消した。




