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 キラキラと輝く光の流れの中に瑠樺たちはいた。

 その光の流れが瑠樺たちを押し上げていく。

「なんでしょうね、これ」

 と感情のない声で伽音が言う。「こんな結末、いいんでしょうかね?」

 彼女の膝の上には全身から黒々しい気を放つ猫が眠っている。それはかつて瑠樺が飼っていた『ミツボシ』という名の猫の姿だった。

『魔化』の中へ飛び込む直前、美也子が瑠樺の身体に押し込んでくれたのは、ほんの小さな力だった。美也子自身、それがどんなものなのかきっとわかっていなかったのかもしれない。

 それでも、その力がこの奇跡を生んだ。

 雅緋が浄化の力を使った時、瑠樺の中に流れ込んできたものと、瑠樺のなかにあった力が呼び起こしたのは、『ミツボシ』の魂だった。『ミツボシ』の魂は、その一瞬で『魔化』と同化していった。

 なぜ、そんなことになったのか、それは瑠樺にも正確にはわからない。自分の中にある願いがその奇跡を生んだのかもしれない。

「でも、これであなたたちはこの世界に残ることが出来るわ」

 瑠樺の言葉に、伽音はため息をつく。

「無茶苦茶ですよ、あなた。この国を、この世界を滅ぼすような戦いになるはずだったのですよ。それをこんな呆気なく」

 そんな伽音を雅緋が睨む。

「あなた、そんな贅沢なこと言える立場?」

「それはあなたも同じでしょう。どうして、あなたも私もこうして現世にとどまっているんですか? どう考えても反則技ですよ。普通、こういう時っていうのは、あなたたちが力を合わせて私を倒すっていうのがテンプレでしょう。こんなご都合主義の結末、許されるのでしょうか?」

「あなたがこうしていることを私は納得してはいないけどね」

 そう言いながらも、雅緋の表情は穏やかだ。ミツボシが伽音の膝から離れ、雅緋の元へすり寄っていく。

「まあ、何にしてもまた美味いものが食べられるってことじゃろ」と沙羅が言う。その沙羅の身体を伽音はそっと抱き寄せる。

「これで本当にいいのですか? 私をこのままにするつもりですか?」

「不満なら私が殺してあげるわ」

 と、ミツボシを撫でていた雅緋が即座に言う。「今のあなたなら、簡単に地獄に落としてあげるわよ」

「怖いですねぇ」

そう言いながらも伽音は口元を三日月に歪める。「でも、無理しないでくださいよ。実のところ、今、一番弱っているのはあなたなのですから。立ち上がる体力すら残っていないでしょう」

「ところでお前、誰だ?」

 沙羅が不思議そうな顔で伽音を見上げる。

「伽音です。双葉伽音。沙羅ちゃん、やっと会えましたねぇ」

「ふぅん、どっかで会ったことあったか?」

「どうでしょうね」

 伽音は静かに首を振った。

「ふぅん、なんか懐かしい気がするんだがな」

「その女は『魔化』の分身よ。あなたが昔、戦った相手よ。だから懐かしいんじゃないの?」

 その雅緋の言葉に、沙羅は不思議そうに首を傾げる。

「いや、そういうのとは違うんだが……というか、おまえは『魔化』なのか?」

「大丈夫ですよ、沙羅ちゃん」

 と瑠樺が言う。「もともと『魔化』は恨みや憎しみなどという負の力を振りまく存在なんじゃないんです。人の持つ悲しみの感情を浄化するために受け入れる。それが受けきれなくなった時、動き出すんです。それを不死鳥が浄化する。和彩の初代はそういう仕組を考えていたはずだったんです。それを後の『和彩の一族』が誤解をしたんです」

「どうしてそんな間違いをしたのでしょうね?」

 と反応したのは伽音だった。

「これは想像ですが、和彩が生まれた時、多くの獣たちを利用しました。その中に人が混じっていたからではないでしょうか。その段階で、すでに人の負の感情が混じってしまっていた」

「だから、『茉莉の一族』を切り離した?」

「初代の和彩は、自らの中に人の負の感情を留めるつもりだった。だが、人の感情を持った『和彩』はやはりその負の感情に負けた。その中で『双葉の一族』を生み、他の一族たちを作り出していった。でも、本当は『魔化』は負の存在なんかじゃなかった」

「ずいぶん長い間誤解をしていたものですね」

 伽音は沙羅の髪をそっと撫でながら言う。その姿には、ついさっきまでの禍々しさはすっかり消えている。沙羅も心地よさそうに大人しくしている。

「でも、誤解はとけるものです」

「でも、なぜあなたなのでしょうね? なぜあなたはそれに気づけたのでしょうね?」

「雅緋さんがいたからですよ」

 雅緋はそれを聞いてチラリと瑠樺のほうを見たが、何も言おうとはしなかった。だが、その表情はとても明るく見えた。

「よほど信頼しているのですね。しかし、誤解はとけても、私という存在は変わりませんよ」

「そうかもしれませんね。でも、前のあなたとは違っているではないですか?」

「浄化されてしまったおかげで、力を失ってしまいました」

「良かったじゃありませんか」

「そうですか。少し残念な気もします。これでは雅緋さんにはとても叶いそうもありません」

「好きなようにやってくれたお礼をしなきゃいけないわね」

 そんな雅緋を無視するように、伽音はーー

「でも、人に負の感情がある限り、今回は浄化出来たとしても、魔化も私も負の感情を受け入れ、また膨れ上がっていくのですよ」

「その時は、また浄化すればいいんです」

「前向きですねぇ。そういえば草薙君はどこへ? 気を感じませんが」

「彼は別枠でしょう。既に『魔化』によって肉体を失いただの『生命』になっていましたからね。でも、大丈夫。きっと普通の人間としての存在を与えられたはずですよ」

「まったく。呆れるほど上手にやったものですね」

 感心するように伽音は言った。

「皆が協力してくれたからですよ。もちろん、あなたも」

「何のことです? 私があなたに協力したと思っているのですか?」

「思っていますよ。だって、あなたほど『魔化』という存在を知り、『魔化』を恨み、『魔化』となり、そして、『魔化』を愛し、その存在への皆の誤解をときたいと願っていたはずじゃないですか。違いますか? だって、あなたはーー」

 伽音は瑠樺の唇に人差し指を当てた。

「あなたは人がいいのですね。矢塚さんは私のせいで死んだのですよ。美月ふみのさんだって私によって殺されたようなものなのですよ。美月あやのさんは私を許さないのではありませんか?」

「そうですね。でも、あやのさんはあなたという個人を恨むことはありませんよ。それに、二人ともこういう終わり方を望んでいたんじゃないでしょうか」

「それじゃ、あの二人もお人好しということですね」

「矢塚さんたちは、あなたの正体を知っていたんですか?」

「どうでしょうね。二人とも口に出すことはありませんでしたよ。でも、あの二人は癖者ですからね。全て知ったうえでいてくれたのかもしれませんね」

「さあ、地上に出ますよ」

 その声と共に眩い光が瑠樺たちを包み込む。


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