どげんなっとんなら~!
どしゃ降りの雨の中ゴンタことその男は立っていた。
高層ビルと高層ビルの間に傘も差さずに。
別の男が傘を手にやって来る。
ゴンタは嫌な予感に胸を苛まれる。
男はゴンタの前まで来てこう告げる。
「兄貴、やっぱり親父はクスリに手を染めてる」
ゴンタは濡れた髪を両手でかきあげ天を仰いだ。
「オメェ~!それは確かな筋か!?」
「間違いねぇ~確かな筋じゃ!」
「あの親父がクスリに手を出すなんて・・・」
二人は暫く項垂れた。
弟分である金森は傘を兄貴によせた。
「兄貴、風邪引くで」
ゴンタは悩み決断する。
「ワシは明日、親父にこの事を問いただす!」
金森は驚き覚悟した。
「でも兄貴、親父は認めるかな~」
「それでも誰かが言わんといけんのんじゃ!親父のため、源流組のためにも、ワシは破門になるかもしれん、じゃけどの~譲れんものもこの極道の世界にもあるんじゃ!ワシはこの世界が好きじゃし、親父のことも好いとんじゃ!じゃけぇ~この命賭けても道、筋をとおしてぇ~んじゃ、じゃないとワシがヤクザになった意味がねぇ~じゃろぉ~が」
「兄貴・・・わえにも手伝わせてくれぇ」
ゴンタは金森を見据えドスの効いた声を出す。
「おえん!」
金森は俯き懇願する。
「でも兄貴!」
「おえん!ワシと親父がおらんなったら誰が若い衆の面倒みないけんのんじゃ、その役はオメェ~しかおらんじゃろ~が!」
その事は、ゴンタが親父と刺し違える事を意味する。
「でも兄貴!」
「くどいぞ金森!これはワシの後生じゃけぇ~頼む金森!」
ゴンタは金森の前でスーツが濡れるのも厭わず土下座した。
「兄貴!そんなことせんでくれぇ!兄貴がそんなことされたらわえも断れんじゃろ~が!」
金森は涙を流し了解せざる得なかった。
「ほんじゃ~の~金森」
「あにき・・・」
ゴンタは雨の降りしきる中、高層ビルを歩き出した。
これが今回見た記憶の飴の記憶。
ゴンタは今、別の世界にいた。
地球とは別の世界。
異世界に。
いつこの世界に来たのかもわからない。
気が着けばマンモスマンション。
エレベーターワールド。
エレベーターに乗り別の異世界行き、生業とする世界だった。
そこで貰ったポイントを使って記憶の飴と交換して、舐めると記憶が貰える。
ゴンタは一階から始まり、今152階まで到達していた。
今現在、ゴンタはシッソと麻雀の三人でエレベーターワールド《逆》という面に行っていた。
行けば洞窟内、光る苔、鉱石のおかげで幾分明るい。
少しばかりの苔の臭い、ひんやりとするのは洞窟のせいか、それとも待ち受けるもののせいか。
シッソはナイトの様な格好、麻雀は武闘家の様な格好を、ゴンタは侍の様な格好をしていた。
前に進もうとしたら後ろ歩きになる。
《逆》とはそういう意味のことだろう。
エレベーターにあるボタンに文字が書かれており、その面の概要を示す。
また文字の意味が多いほど難易度が上がるらしい。
「お~いゴンタのオッチャン後ろ向きで歩くの疲れない?」
もうすでに、この面に慣れたシッソがそう声を掛ける。
「オッサン下手くそか?」
麻雀も慣れたものだ。
しかしゴンタは未だに慣れずにいた。
そもそもゴンタはヤクザ、ゲームの様なこの世界に慣れるはずもなく。
そして、ドワーフが現れる。
友好的な奴もいるが、今回は違う奴。
尖ったハンマーを持ち敵意をこちらに向ける。
ズングリムックリ、人間の半分ぐらい身長、角の着いた半ヘル、蓄えられた髭、円形の盾、革の鎧を身に纏っていた。
「おい、いきなり敵かよ」
「それじゃ、殺っちゃおうか?」
どげんなっとんなら~!!
どう動いても逆になるんは、なんでなら~!!
「だからー、ゴンタのオッチャン、この面は、動きたい方向と逆になる面なの!わかる?」
ワシにだってそれぐらいわかっとんじゃ!
じゃけどの~難しいんじゃ。
ワシに下がるとゆう文字はねぇ~けんの~。
そもそもワシはヤクザ。
この世界に来て《記憶の飴》を舐めて知り得た記憶じゃ。
そこでは、ワシはぼっけー修羅場をくぐって来とるはずなんじゃけど、この世界ではあろうことか、一回りも二回りも歳が離れたガキ共に遅れをとる始末。
一体、ワシは、どないしたらええんじゃ!?
実際ワシは、今現在後ろに下がっとんじゃけど・・・前に進もう思うたら後ろに行くんじゃ。
「ゴンタのオッチャンもうそのままでええから、タンク役に徹して」
たんくゆうたら戦車のことじゃろうが。
ワシにもそれぐらい解るで。
ここでゆう、たんくは、囮のことなんじゃ。
敵に向かって耐える役、ワシ等でいう鉄砲玉のことなんじゃ。
ワシを鉄砲玉に使うとは、
若頭のワシに言うとるんか!
たいした度胸じゃ!この若人・・・なかなか見所があるの~。
この世界から出たら、勧誘してやりて~の~。
「おい!オッサン!後ろ向きで行ってどないすんねん?」
あほう、ワシに後ろに下がれゆうとんか?
ワシの背中には龍が昇とんじゃけ~!
後ろのほうが、敵も怖いはずで。
でも、さっきからボコボコと叩かれとる・・・きょ~とうねんかこの敵・・・こいつも勧誘しちゃろうか?
じゃあ一丁ワシのすきる《義理》でも使うかの~。
この世界に来てから使えるすきる《義理》ワシ等でいう筋のこと、義理さえ立てれば、ぼっけーつえんじゃ・・・実はワシもよう解ってねぇ~。
ただ、若い衆が言うに、立てる義理によって変化する、ちーと、すきるじゃってゆうとったわ。
今回、ワシがたんくする時に使う義理は、仲間の為に命張る《不退転》じゃ。
如何なる攻撃も受け止める無敵のすきるじゃ!
でもの~ぼっけーいてえんじゃ!
痛みが倍になるんじゃ!
ヤクザのワシでも、こりゃヤクザの痛みじゃ。
でもワシは負けん。
背中に龍が入っとる限りの~。
「オッサンどこでタンクしとんねん!」
あほう!見えんのんじゃ。
よう見て物言え!若造が!
シッソはまだ可愛いげがあるが、麻雀は、ワシのことを、オッサンと呼び捨てにしょ~る。
オドリャ~!エンコ詰めさすぞ!
「オメェ~もさっきから調子に乗りやがって、後のこと、わかってやっとんじゃろの~!」
どうやらわかってねぇ~見て~じゃ!
さっきから尖ったハンマーでゴンゴンきよる。
でぇ~れぇ~いてぇ~。
でもワシは負けん、これで引いたらお天道様に申し訳が立たん。
これが極道じゃ!
ワシをあまりナメんなよ!
右からの痛み・・・左からの痛み・・・かかってこんかい!
ワシは逃げも隠れもせんぞ!
「ゴンタのオッチャン、いつまでそうしてるつもりなん?」
「オッサン、もう終わっとんねん、アホなん?」
どうやら相手は死んどるみてぇ~じゃの~。
どわ~ふゆう敵じゃったらしい。
毛むくじゃらの小さいおっさんにしか見えんけどの~?
なんでも、このどわ~ふゆう奴は、友好的な奴とそうじゃない奴に別れとる。
友好的な奴は、道具を整備したり、武器を売ってくれたりするんじゃ。
反対にそうじゃない奴は盗賊まがいのことをしてくるんじゃ。
シャバの世界にも、こんな危険な奴がおるとは、この世界も難儀なんじゃ。
ワシは、はよ~この世界から脱出せなならん。
親父の裏切りが、真実かどうかを確かめなならん。
「なぁ!オッサン!聞いてんの!?」
「なめとんかわりゃ~!」
「まぁまぁゴンタのオッチャン、とりあえず、スキル解除して進もう、ねっ」
「シッソがそういうんなら、我慢しちゃる、麻雀、我!なめっとったら命とるぞ!」
「おーコワ、出たよオッサンの命とるぞ!堅気はビビッて動けませーん」
「わりゃ~「まぁまぁゴンタのオッチャン」
こんガキャ~ワシの堪忍袋をぶち壊しよって~~~~。
洞窟内、どわ~ふの戦利品を手にし先に進む。
ワシ等が行くこの面、《逆》動きが逆になる難儀な場所。
始めから洞窟内じゃった。
152階えれべーたわーるど。
まんもすまんしょん100階から、ぎるどに入らんと色んなことに都合が悪いとシッソと麻雀がゆうから、組に入っとるワシ―――ここで出逢った若い衆に義理があるから、仕方なく入ったんじゃ。
ぎるどの名前は亀、どんくさそうな名前じゃけど、ワシは嫌いじゃない。
一歩一歩、遅いながらも前に進む奴は、儚げで勇気が貰えるんじゃ。
ぎるどますたーワシ等でいう組長・・・達磨、正直裏で画を描く様な男・・・ワシはあまり好きになれん。
そういう輩は、あの頃のヤクザ世界にもゴロゴロおったし・・・そういう輩は自分の手を汚さずその癖、安全なところで私腹を肥やす。
それでもシッソがエエゆうから・・・。
それというのも、ぎるどには三大派閥があるんじゃ。
一番古い歴史を持ち一番人数が多いい1・2・3、少人数ながら、ちーとすきるを持つ黄色、潤沢な資金と正統性を重んじるペックスが有名どころ。
その他にも、勿論ぎるどは存在しとる。
弱小トム、便利屋北の大地、そしてワシ等がおる新興勢力、亀。
なんでシッソがここを選んだのか?ワシにはわからん。
シッソが選んだ、それだけでワシには充分なんじゃ。
ここにきて右も左もわからんワシに導き手になってくれたのがシッソじゃたしの~。
ゆうてみたら恩人じゃ。
この若人の未来に少しでも力になれたらと思うんじゃ。
麻雀も口は悪いんじゃけど性根は真っ直ぐな奴なんじゃ。
「ボッサっとすんなよオッサン」
前言撤回じゃ。
麻雀は性根を叩きのめす。
この世界におる限り。
「ゴンタのオッチャン、いつまで後ろ向きでいるん?」
「そのオッサンは頭のネジが可笑しいから、ほっといたらシッソ」
「こんガキャ~「「「命とったろか!」」」
「「ハッハッハッ・・・」」
シッソまで麻雀の悪いところが。
まあでも、楽しく進むのも、これはこれでええのかも知れん。
出会った当初シッソは、余り感情を表に出す子じゃなく、無駄なことを省く子じゃった。
反対に麻雀は、感情的で神経質なところがあったんじゃ。
ここまで来るのに幾つもの困難や修羅場をくぐって手にいれた甲斐があるとゆうもんじゃ。
この若い衆の未来とワシ自身の未来の為に、気張らんといけんの~。