もしも彼女に
短めです。
ワイングラスと食事が並んだテーブルの向こう側で、彼女の笑いが弾ける。まだまだこの笑顔を眺めていたいと思うが、時計は既に午後十一時を示している。使い古された言い回しだが、楽しい時間が過ぎるのは早い。
「それでね、妹と一緒に……」
彼女が口を開くたび、今度はどんな新しい一面を知ることができるのだろうと心が高鳴る。彼女のこれまでの経験を、人生を、その考えを、少しでも共有できていると感じられるのがこの上なく幸せだった。
彼女も酔っている所為か、聞き覚えのあるストーリーがまた始まり思わず顔が綻ぶ。いつ頃の話なの、と相槌を打つが、既にオチを知っているということを悟られてはいないだろうか。そんなことを気にする自分も可笑しく、なかなか表情が締まらない。
「あれ、この話もうしたっけ」
やはり顔に出てしまっているらしい。何か言わなければ、と思わず言葉が出た。
「いや、時間も時間だけど、まだ帰るのは惜しいなって」
そう言うと、彼女は少し考えるような様子を見せた後、意外なことを言ってきた。
「あー確かにもうちょっと飲みたいな、とりあえずそろそろこの店は出よっか」
予想していない返しに、こちらが思わず面食らってしまう。店を出ると、終電を逃すまいと駅に向かう人たちが多く見受けられる。行き交う人々を尻目に彼女は、少し待ってて、と電話を手に距離を取った。
こんな時間にまだ飲みたい、という意味も分からない程の初心ではない。思いがけない出来事に心臓がはち切れそうだ。
ただそれも、電話の相手が彼女の彼氏でなければ、の話だが。
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