第1話 僕と幼馴染
11月2日日曜日の夕方のことであった。この日は朝から雨だった。雨が降る日はろくなことが起きないということは今までの自分の経験上よく理解している。雨が降った時に学校のテストが返されると大抵頭を抱えたくなるような結果だし、僕が所属する吹奏楽部の練習でも雨の日に厳しい練習が多い。
僕は面倒臭いことは顔には出さないが、とても嫌っている。例えば、僕はよく誰に対しても優しく接すると言われているが、それは単に問題が生じて関係がギクシャクしてしまうのがとても面倒くさいと思っているからだ。だから、仮に喧嘩しそうになっても相手にとって出来る限り都合のいい状況に収めるようにしている。そして、休日は基本的に1人で遊ぶことが多い。これも誰かと遊んだ時に面倒臭いことが起きることを心配するからなのだ。
今日は休日なのだが、僕の通っている坂上中学校の吹奏楽部はいわゆる強豪校であり、休日であろうが休まず練習がある。それも朝から夕方まで。夏休みになると本番が近いせいもあり、休みはお盆のみ...。強豪校なら当たり前なのかもしれないが、なかなかこれが大変なのだ。
話を戻すけど、今日は僕の嫌いな雨の日の練習。しかも、今日はただの練習ではなかった。
先日、市内の大きな会場で行った定期演奏会を最後に僕たちの先輩は引退してしまった。そういうわけで、今は僕たちの学年が坂上中学校吹奏楽部の最高学年になる。つまり、今日は新しい部長、副部長、その他役員を決めなくてはならない日なのだ。
ただでさえ僕たちの学年は個性が強いと言われているのにそんな大事なことがすぐに決まるわけがない。今日は部活が終わった後に何して遊ぼうかと考えていたのに、このままでは日が暮れても帰ることができそうにない。
だから僕は最終手段として...
体調不良(もちろん嘘)を理由に帰ることにした!!
さすがに部員のみんなも僕が器用に嘘をつけるとは思っていないだろう。僕は自分で言うのもなんだが人が良すぎるため、嘘をつくと必ず顔にでる。
だけど、人は本気でやればできないことはないはず。
僕の自由のため今こそ本気をだそうではないか!!
作戦名「本気で自由を勝ち取ろう!!」今決行!!!
「あっ、シノっ」。
そう意気込んでいたところで後ろから不意に声をかけられたので、最初はこの部員に言ってみるかと思いながら振り返る途中で
ん?しの?僕の名前をそう言う人なんていたっけ?
いた。ただ1人、僕のことをそうやって呼ぶやつ。
そしてそいつが今回の作戦の一番の壁になることを思い出した。
振り返るとそこにいたのは僕の予想通り、一ノ瀬琴音だった。ゲームでいういきなりのラスボス登場だった。
「どうしたの?シノ。もうすぐ役員決め始まるよ?」。
「なあ、琴音。もうお前の耳にタコができるくらい言ったと思うけど、僕のことをしのっていうのやめろって言わなかったか?」。
「ん〜、そうだっけ?まあ、べつにいいじゃん!!シノもそんなに嫌ってないでしょ?」。
「なわけないだろっ!その呼ばれ方のせいで周りからは僕が女の子と間違われるんだよ!」
そう、僕の名前は篠宮 篤人。
名付け親は僕の祖父で、祖父の昔の教え子の名前からとったらしい。その教え子というのは今、世界的に有名な音楽家でその名前をつけられた僕としては嬉しい限りなのだ。
だから、僕としては下の名前で呼んでもらいたいのに琴音にはいつも苗字を縮めてくるおかげで僕にはいくつかの共通のトラウマがある。そのトラウマとは、毎年春に多く訪れる。彼女が新しい友達に僕を紹介するときの言い方といえば
『今から幼馴染のシノ連れてくるね』
なんていう紹介をするものだからその友達は名前から女の子と思ってしまう。それからその子たちの想像とは真反対の性別の子が現れるものだから僕を見た瞬間引いてしまう。僕はそんなやりとりが毎年続いてしまうものだから、もううんざりしてしまっていた。というか、一種のトラウマとなってしまった。
だが、そんなのはどうでもいい。優先順位を見失ってはならない。今、僕がすべきことはこの場から逃げ去ることであり、僕の呼び方を正すことではない。だから、僕は行動に移る。
「まあ、僕の呼び方云々はこの際置いといて、悪いけど体調不良で今から帰るから会議には出席できないから。後で会議の内容教えてくれ。では、サラバッ!!」
よし、これで帰ることができる。そう思ったのだが...
「あれ?体調悪いの?さっきまであんなに元気に外走り回ってたのに?」
......ヤバイ、いきなり嘘が見破られそうだ。あれ?さっきの見られてたの?いやいや、だってこんな厳しい練習が続くんだからちょっとした息抜きの時くらいテンション上がるよね?まあいい。とにかくバレないようにしないと。
「あ、あ〜実は急に気分が悪くなっ「やっぱり嘘か〜」......ハイ、スミマセン」
作戦名「本気で自由を勝ち取ろう」開始5分も経たずに失敗.........
「ダメだよ〜、シノが嘘つく時って想定外のことなんていつも考えてないんだからちょっと疑っただけですぐにうろたえるじゃん」
そうなのだ、なんで僕が嘘をつく時にすぐにバレるのかというと結局は疑われたらすぐにうろたえてしまい、それが言動に出てしまうからだ。友人の中にはそういう性格が羨ましいといってくるのもいるが、この性格のせいで僕は色々と後悔してしまうことが多いのだ。他にも僕の長所でもあり、短所でもあるところはたくさんあるのだがそれはまた今度の話としよう。
「でもさ、今日の役員決めの会議で一番重要な部長決定は正直ある程度決まってるんだろ?」
「えっ?そうなの?」
「皆、琴音が次の部長になるんじゃないかって噂してるよ」
「えっ、わたし初耳なんだけど」
あれ?これ結構部活内でも噂されてたことなんだけどな。噂の対象となる本人にはあまり知られないものなのかな?
「知らなかったのならそれでもいいんだけど、僕としては琴音が部長になってくれたら皆喜んでくれると思うよ。お前は部の中でもトップレベルの実力者だし、後輩からも慕われてる。部長としてはこれ以上にないくらいじゃないか」
「でも、そういうのだったらシノだって...」
「僕のは単に吹奏楽のニーズに合っているってだけであって決して上手いわけじゃないし、後輩には好かれているのかもしれないけど慕われてはないと思う。それに、僕はまとめるよりもまとめられる方がお似合いな人間なんだ」
そう、誰にだって適材適所というものがある。それにのっとるなら琴音が部長にふさわしく、僕は何の役員にも向いていないはずだ。僕は責任を負うということに慣れていない。そんな状態でこの坂上中学校吹奏楽部の部長になんてなれるわけがない。いや、なりたくない。
「まあ、誰が部長になるのかどうかなんて私たち2人で話してても仕方ないし、そろそろ音楽室に行こ?皆集まってると思うし。シノがサボろうとしたことは不問にしてあげるからさ」
「いやぁ、なんのことかなぁ〜〜??」
とりあえずとぼけておく。琴音はまだ何か言いたそうだったが、今は目の前の役員会議の方が重要だ。何とか、僕にとっていい方向に進んで欲しいものだが何か変な胸騒ぎがしてきた。もしかしたら今日は僕にとって人生の大きなターニングポイントになるかもしれない。そんなことを考えながら僕たちは役員会議が行われる音楽室へと向かったのであった。
このお話を読んでくださりありがとうございました。
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