91 雷獣人
馬車に乗っていた檻は、大小あるけど4つ、一つ目は狼系の魔獣が檻に入っており、低い唸り声を出して威嚇しているようだった。
番犬にでもするつもりだろうか。
2つ目に入っていたのは、何処にでも居そうな白い兎がいた。
可愛かったので、兎に触れようと檻の間から手を入れると、いきなり噛みつこうとする。
鋭い牙を見せ威嚇している。
見た目に騙せれたが、魔獣のようだ。
3つ目に入っていたのは、大きな蛙が10匹いた。
全長30センチ位で赤い斑点がある毒蛙かと思えるものが、ギュウギュウに詰められていた。
ルナが言うには、食用でかなりの高級品らしいが、はっきり言って食べたくない。
最後の檻は、一番大きかった。
中を覗くと一人の女性が座っていた。
髪は白く猫の耳のような物が付いている。
顔は人間の顔で、肌は白く目がぱっちりとした可愛い系の顔、豊満な胸、尻尾が付いている。
耳と尻尾以外は、普通の女性だ。
手と足に鎖の付いた枷を付けられ、服装は胸とパンツの部分だけボロ切れを着けた格好だった。
見えそうで見えないところが、とてもセクシーだった。
「何か気になる魔獣いましたか」
奴隷商人のカロンが声をかけてくる。
「こんな魔獣、狂暴過ぎて扱えないだろう」
「いえ、そこは大丈夫です。
主従関係を結べば、逆らうことはできませんし、罰則を設定することもできます」
「この女性は?」
「お目が高い、この者は最強の部類に属する雷獣人でございます。
雷のような動き、破壊力を持っております。
でもそれは、男性の話でして女性の場合その力は無いと言われていますので、この者はこの抜群のプロポーションなので愛玩用として販売されます」
僕は雷獣人と目が合い、鋭い視線の中に哀しみが満ちているように思えた。
「翔、魔獣とか買っても手を焼くだけだぞ」
「そうですよご主人様、私達がいるじゃないですか」
顔が可愛いから、抜群のプロポーションだから、雷獣人だから、いや違う惹き付けられる何かがある。
何かがよく分からなかったが…。
「カロン、この女性はいくらだ」
「流石、見込んだ人です。
決断が早いです。
雷獣人の男性なら通常金貨100枚、女性だということと、これからもお得意様になって頂きたいので金貨1枚でどうでしょうか、これ以上は負けられませんよ」
「分かった、金貨1枚で買う、だが今はお金がないのでツケで払えないか」
「そうですね、あなたを信頼しているのでツケで後でも払ってくれそうだけど…。
どうでしょう、サボの街までの護衛料を金貨1枚でお願いできますか?」
「こっちが言うのも何ですが、護衛に金貨1枚って高すぎないですか」
「さっきのゴブリンの襲撃で、助けて貰えなかったら、私も死んでいたかも知れないし、商品も盗まれるか殺されるかどちらかでしょう。
本当なら、無償で渡してもいいのですが、それでは私の商人としての誇りが許されませんので、サボの街までの護衛を条件に雷獣人を渡しますが、どうですか」
「はい、助かります」
「それでは、奴隷契約しましょうか」
「それはファミリにできますか」
「出来ますが強制がない為、逃げられたり襲われたりするかもしれないですがよろしいですか」
「お願いします」
「わかりました」
カロンは、何やら呪文を唱えている。
アナンタと精霊達は、襲ってきたら私達が助けると息巻いていた。
「翔、ファミリを増やすのはいいけど、奴隷にしなくて良かったのか?
逃げられるかも知れないし、殺されるかもしれないんだぞ」
「潤、僕は強制はしたくないんだ。
やりたくないことやらされるより、やりたいことをやればいい。
檻の中に閉じ込められ、枷を付けられるなんて、見てられない」
僕はイザカロ国の牢獄の中のことを思い出していた。
牢獄の中の僕は、誰か助けてくれるのを待つしかなかった。
この女性も誰か助けてくれる人を待っているのではないか、そう思えて来る。
僕のメニュー欄のファミリに雷獣人の名が増える。
名前は、エマと出ていた。
カロンは、鉄格子の鍵を開け枷を外す。
襲って来るかと思ったが、そのまま動こうとせず、こちらを見つめているだけだった。
エマと呼んでも返事もなければ、動きもない。
言葉が通じていない訳では無さそうだが、暫くそっとしておこう。
馬車はその間にも、街道をサボの街に向けて走っていた。
何もなければ、今日中には着きそうだった。
街道の両脇には、桜の木だろうか?
花がとても綺麗に咲いてる。
違うところといえば、ピンクや白だけではなく、赤や青、黄等カラフルに咲いていた。