87 逃走
子供でも竜の中の王、王竜だからか、ワイバーン達は騎士達の指示を無視して逃走する。
「助かったよ、アナンタ」
「ご主人様の為ですから」
「翔、まだ追っ手来るぞ」
「分かってる、潤」
馬を全力で走らせているが、遅く感じてしまう。
人が走るよりは、断然速いが三人乗っているせいか、そういう訳では無さそうだが気持ちが焦っているせいかもしれない。
暫く走ると次は騎馬部隊が追いかけて来る。
「翔、急げ」
「ラウージャ、先に行け」
ラウージャから、かなり離され一騎で走っている状態だった。
まもなく、ハムレットとサボとの別れ道になるが、このままサボの街に向かうと追撃部隊もついてくる可能性があった為、
「潤、ハムレットに向けて走ってくれ」
「いいのか」
「ああ、こちらに引き付けよう」
『エルダ、念の為、ハムレットへの道を土壁で塞いでくれ』
『分かりました。ご主人様』
別れ道をハムレットに進むと、追撃部隊もついて来た。
取り敢えず、これでよしだが逃げ切れるか、いや向こうがやはり早い、少しずつ近づいてくる。
「潤、森を突き抜けよう」
「森の中を?」
「街道だと大軍に囲まれる可能性があるけど、森の中では大軍で移動しにくいから、逃げ切れる可能性がある」
後は馬が走れるかどうかだけど…。
「よし、森を行くぞ」
『エアル、つむじ風でいいから目眩ましお願い』
『アイアイサー、マスター』
街道につむじ風が起き、土埃が舞う、騎士達が一時止まる。
「今だ」
森の中に入り、木々の間を突き抜けて行く。
これで逃げ切れるだろうか、マップ機能が使えないと敵の位置も分からない、慣れていた分使えないと不便だ。
敵がどこから来るか分からず、緊張したまま駆け抜けていく。
何とか逃げ切れたか、そう思った矢先、エアルが
『騎馬隊、20騎程来ます』
そうそう上手くはいかないか、数は少なくなっている。
分散させて探索していたのに、引っかかったのか。
騎馬隊が近づいてくる。
何とかしないと、
『アルケー、エルダ、泥沼』
騎馬隊の前方に畳6畳程の泥沼が突然現れる。
先頭の騎馬5騎程が対応に遅れ、泥沼に落ちたが残りは泥沼を避けて追いかけてくる。
森を焼いて行く手を塞げば、有効だが他の追撃者に居場所を教えているようなものだから、この手は使いたくない。
『エルダ、ゴーレム』
『はーい、ご主人様』
騎馬隊の前に、人の形をしたゴーレムが5体現れる。
エルダのレベルが上がったせいか、ゴーレムが騎馬隊に向かって攻撃している。
騎馬隊はゴーレムの対応に負われ、追撃が止まっている。
「今のうち、引き離そう」
森の中をどこを走っているのか、どの方角に向かっているのか、全く分からなかった。
暫く走っていると、横から数本の弓矢が飛んでくる。
運悪く、潤と馬に弓矢が当ってしまった。
馬はよろけ、そのまま倒れ僕たちも投げ出されてしまった。
「弓矢は、何処から飛んできた?」
すると横から騎馬隊が5騎突撃してくる。
『エアル、鎌鼬』
騎馬隊に向かって、風のカッターが襲いかかる。
騎士達は、甲冑を着ているので深手を与えることは出来なかったが、馬は切りギザまれその場に倒れ、騎士達は投げ出される。
『エルダ、ロックプレッシャー』
『はーい』
騎士達を閉じ込めるように、岩のドームが出来上がり、そのまま地面の中に吸い込まれて行く。
もう追っ手はないか…。
「潤、大丈夫か」
「ああ、何とか」
見ると弓矢が、肩と腹部に刺さっていた。
これは抜かない方がいいか。
「潤、動けるか」
「何とか、動けそうだが…」
「とにかく、逃げるぞ」
弓矢の刺さっていた場所から、少しずつ血が流れ出している。
このままでは、ヤバイかも知れない。
何処か、休めるところがあればいいが、馬がダメになってしまったので、徒歩で移動することになった