84 捕虜
「……」
「…翔」
「翔様」
「翔様、起きてください」
「ん…、どうした」
僕は記憶が曖昧になっていた。
いつの間に寝ていたのだろうか、寝ている場所はベッドではなく、硬い石の上に寝ているようだ。
石の冷たさが体に伝わり、感覚が少しずつ戻ってくるのが分かる。
目を開けると、ラウージャとアナンタが心配そうに見つめていた。
「良かった、やっと目を覚ました」
「心配しましたよ、ご主人様」
まだどういう事態になっているか、把握できてないが、ゆっくり体を起こし回りを確認する。
回りには、精鋭部隊も怪我もなくいるし、司祭、魔法使いもいる。
とりあえず、皆無事のようだ。
『ここはどこだろう』
窓は無いようだし、唯一の入り口には鉄格子がはめられている。
どうやら、牢屋に入れられているようだ。
精霊達にテレパシーで呼び掛けるが返事が無い。
「ラウージャ、どうなってるんだ」
「牢屋に閉じ込められたようだが、今のところ脱出する手立てが無い状況だ。
何かで、邪魔されて指輪の機能が全く使えない。
だから外部との連絡も、とれない状態だ」
「そんな、早くしないとナーガ国へ進行が始まってしまう」
「それは分かっているが、手段がないんだ」
僕は、鉄格子の方に近づき触れようとする。
「翔、危ない!」
そう言った瞬間、
『バチバチ』
手に電撃が走り、暫く動けなくなった。
「大丈夫か、翔。
鉄格子にも、防御魔法が施されているみたいなんだ」
そう言うことは、早く言って欲しかった。
他に脱出方法がないか、辺り一面探し回ったが壁や床など壊せないか試したが無理だった。
指輪が使えないと、武器も道具も使えない。
かなり頼り過ぎていたことに後悔した。
このまま、ここで待つしかないのか、ふと、沙羅とラウサージュの顔が浮かぶ、何とかしないともう会えなくなるかもしれない。
僕は焦りを感じていた。
小一時間たっただろうか、僕は苛立ちで動いてないと落ち着かなかった。
「翔、ちょっとは落ち着け」
「落ち着いてられるか!こうしている間に国が攻撃されているかもそれないんだぞ」
「それは分かってる、だが、今の状況をどうすることも出来ない」
「くそ!」
僕は、国に戻った時、仲間達が殺されていたら…そう思うと居ても立ってもいられない。
そんな時でも、アナンタは、
「お腹空いた」
と一言、呆れてしまう。
その時、通路の奥から声がする。
「グッ、裏切り者」
「貴様~」
外で何か争っている声が聞こえてきた。
その争いは、段々近づいてくる。
そして、牢屋の前までやって来た。
「大丈夫か、翔」
そこにいた人物は、騎士の中に並んでいた生徒会長の稲垣潤だった。
騎士の甲冑を着ていたが、返り血なのか自分の血なのか分からないほど傷だらけになっていた。
「助けにきたぞ、今開ける」
カギを取りだし開けようとしたが、
「しまった、魔法がかけられている。
用意周到な…、どうする」
カギはあるが、魔法をどうにかしないといけないなんて、
「アナンタ、どうにか出来ないか」
「ご主人様、私には無理です」
精霊達にどうにか連絡つかないか、テレパシーで叫ぶが返答はない、目の前にカギはあるのに早くしないと…。
『私の出番か』
「誰だ!」
「どうした、翔、突然大きな声を出して」
「ラウージャ、声がしなかったか」
「いや、何も」
確かに声が聞こえたような気がしたが、
『翔殿、心の中で話をされよ』
『あなたは、誰ですか』
『私は、翔殿のはめられている指輪なり』
『え、あの骸骨が乗り移っているの』
『違う、私があの者を操っておったのだ。
翔殿の星力のお陰で、やっと本来の力を取り戻しつつある』
『それで、この施された魔法どうにかできるの』
『雑作もないことだよ、指輪をはめた手を鉄格子にかざしなさい。
我が名は、覇王の指輪という』
指輪の使えない場所で、この覇王の指輪だけが使えるのは不思議だが、今は脱出が先だ、後で聞いてみよう。
僕は左手を鉄格子にかざす、すると手を中心に魔法が解除されていく。
「翔、その魔法は何だ」
「ラウージャ、今は脱出が先だ、潤、開けてくれ」
「ああ、分かった」
扉を開けてもらい、牢屋の外に出た。
指輪の機能は使えるようになったが、通信とマップだけがまだジャミングを受けているようで操作出来ない。
「潤、どうして味方を裏切って助けに来たんだ」
「翔、それは後で話すから今は付いてきてくれ、馬小屋で馬を奪って逃げるぞ」
味方を裏切って助けに来るなんて、かなり怪しい。
罠かもしれない、しかし、今の状況では付いていくしか方法がない。
僕たちは、潤について急いで脱出を試みた。